まとまらないアメリカと、まとまりすぎる日本


“Delta, United and American suspended all flight from the U.S. to China and stock fell over the spread of the coronavirus.”

(デルタ、ユナイテッド、そしてアメリカンの航空三社は、中国に向かう全ての便の運行を見合わせた。株価もコロナウイルスの拡大を受けて下落)
― New York Times より

とあるSkypeでの会話から

 前回のブログでオフェンス(攻撃)に強いアメリカと、その反面ディフェンス(防衛)が苦手な彼らの文化について紹介しました。
 
 今回はその続編です。
 一昨日、アメリカのある経営者からSkypeがありました。長年の友人でもあり、久しぶりに楽しく情報交換をしたのです。その中で私は、

「ところで、コロナウイルスについてだけど、アメリカではどう受け止められているんだい?」

と問いかけました。

「アジアじゃ大変みたいだね。でもさ、アメリカではこの冬だけで、すでに1万人近くインフルエンザで死者が出ているんだよ。毎年のことだけどね。コロナよりもよほど致死率が高いんじゃない」

彼はそう答えます。

「それにしては、アメリカじゃあ誰もマスクをしないよね。今回はさすがに、みんな気にしているんじゃないの」

「全然、マスクなんて誰もしないよ。今週末も街へ買い物に行って、家族で夕食を食べたけど、ごった返しているレストランでマスクをしていたのは、アジアからの旅行者1組だけだったよ」

「マスクをしていると、アメリカでは確かに変に見られるよね。不審者かなにかのように顔を隠しているわけだから」

「そうさ。第一、マスクって本当に効果があるんだろうか。口の中が蒸れて、むしろ不潔に思えるしね。アジアの人がみんなマスクをしている様子をニュースで見ると、とても異様だよ」

 
 アメリカでのインフルエンザの死者は、一冬で3万人とも言われています。
 私も一度、ニューヨークでインフルエンザにかかって病院に行ったとき、タイレノール(解熱剤)をもらって帰されたことを覚えています。日本で処方される薬の量を考え、びっくりしたものでした。

「インフルエンザの予防。そうだね。薬屋に行けば予防注射をしてはもらえるが、よほどのことがない限りそんなことをする人もいないよね。アルコール消毒だって?日本ではそんなこともやっているの、びっくりだよ。なるほど、日本らしいね。日本人は完璧主義者が多いんだよなあ」

 それを受けて、もっとも、今はコロナウイルスの騒ぎで、日本だけではなくアジア各地で予防対策に大わらわという実態を、私は説明しました。
 実は、アメリカには面白い統計があることを思い出しました。それは、トイレに行って手を洗わない人が5割だとか、1日に一度もうがいをしない人が過半数だといった様々な数値です。

 

合理的なアメリカ、完璧主義の日本

 一方で、今回武漢在住のアメリカ人が、日本と同様に国のチャーターした専用機で帰国したとき、アメリカは実に適切な対応をしました。
 チャーター機を軍用基地に着陸させ、帰国した全員をしばらく隔離検査したのです。その手際の良さと比較して、日本の対応の生ぬるさに唖然としたことを覚えています。法的な整備ができず、人権への配慮からも判断ができず、結局帰国者を中途半端な状態に置いていたことと比較すれば、必要なことは合理的に即断するアメリカの政策には頭が下がります。
 
 つまり、こうなのです。日本では完璧主義に徹するあまり、最も大切な防疫対策だけでなく、その背景にある法的整備、帰国者個人の権利と法の関係など、ありとあらゆることを全てクリアしなければ物事を先に進めることができないため、最終的な対応に時間がかかりすぎるのです。
 かつ縦社会で、現場がその場の状況ですぐに判断し、対応することができないように日本では教育されているのです。
 そのために結局、防疫措置が後手に回り、結果として感染拡大への恐怖が助長されることになるわけです。
 
 アメリカの場合、適切な措置をまずピンポイントで行い、それを実行する途上で必要とされる様々な周辺事情を整えてゆきます。このプロセスを柔軟に変更するやり方は、ビジネスにおいても同様です。まず、決裁をして、そこから試行錯誤が始まるのが、アメリカをはじめとする欧米の多くの国々のビジネス文化なのです。
 
 そして、そんなアメリカでありながら、毎年数え切れない人がインフルエンザで死亡する実態があること。この矛盾こそがアメリカ社会なのだと説明しても、なかなか理解されないかもしれません。
 実は、セプテンバーイレブン(アメリカ同時多発テロ事件)の後で、アメリカの空港などでの安全管理が問題になったことがありました。空港のセキュリティチェックの実情を調査したところ、調査員の多くが手荷物にピストルを隠して空港の内部に入れたというのです。つまり、手荷物検査員がチェックを徹底していなかったことになります。
 
 アメリカでは、何かあったときの機動力は合理的で徹底しています。その一方で、人の質や発想、そして考え方があまりにも多様で、現場での準備に常に混乱が付きまとうのが課題です。
 それに対して、日本では一度風評などが拡大すると、全ての人がその影響を受けます。まとまりすぎるほど様々な行動規範を、全ての人が徹底させるのです。反面、そこから逸脱した例外に対しては、まったく融通の利かない対応をしかねないのも現実です。法の枠の外にあった場合、さらには新たな事態が出現したときの即応力に、発想の上でも組織の上でも大きな課題があるのです。
 

優先順位を明確に判断すること

 このように、日本とアメリカとのビジネス文化の違いが、今回のコロナウイルスの騒動にも見事に表れていることになります。

「アメリカでは、皆がマスクをするなんて絶対にありえないよ。個々人レベルで何か規制されることはとても嫌だし。でも、逆に中国全土へのフライトを止めるといった判断は早いんだけどね」

「日本だと、その判断が遅いんだよ。人の移動の権利を奪うのではといった法的なこともあるのかもしれないし」

「そこさ。何を優先するかというビジネス的な判断に立てば、それは万人に適応されるビジネス上の判断であって、差別でもなければ人権侵害でもないよ。今起こっていることに対して、何をするのが最も効果的かという部分を明白にして、その上でのプライオリティを合理的に実行することが最優先さ」

 
 アメリカの合理的な発想と、日本の完璧主義とのギャップのそれぞれの長短を見せつけられたSkypeでした。
 

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