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台湾を救う産学の機敏な戦略

The backdrop to the tensions over Taiwan is, of course, the expanding geopolitical rivalry between China and the United States. Ever since the rise first of Chinese leader Xi Jinping and then of former US President Donald Trump, both nations have fundamentally shifted their attitudes towards the other.

(台湾をめぐる緊張の背景には、中国とアメリカとの地政学的な対立の拡大にある。中国で習近平政権がうまれ、アメリカでトランプ前大統領が台頭して以来、双方とも〔台湾問題に関する〕お互いの対応を根本的に変えてきた)
― CNN より

台湾の将来の半導体産業を担う科学技術大学とは

 アメリカ大統領選の余波を大きく受ける国といえば、まず台湾のことが頭に浮かびます。では、実際に台湾はどのようにこの荒波を乗り越えようとしているのでしょうか。それを理解する鍵となるのが、台湾の半導体戦略に他なりません。
 すでに私の記事でも何度か、台湾の半導体産業に関する戦略については紹介していますが、ここで改めて、その外交戦略と、アメリカの大統領選挙という二つの側面からこの課題についてまとめてみたいと思います。
 
 台湾の新竹といえば、世界の半導体の7割近くのシェアを誇るTSMCの本社がある都市です。
 今回久しぶりに、その新竹にある明新科学技術大学の校長を務める劉氏とランチを一緒にすることができました。
 新竹はいろいろな側面を持つ都市といえます。まず、この地域は台湾の中でも最も中国に近い場所で、軍事戦略上も極めて重要な地域にあたります。
 
 「しかし、もし中国がここを攻めてきたら、半導体の物流が停止することで、世界が大恐慌になるからね。そう簡単には彼らも行動を起こせないはずです」
 
 こう語る劉氏は、最近日本のテレビ局の取材も頻繁に受けています。台湾の半導体戦略についての特集があるときは、必ずといっていいほど、彼が登場するのです。というのも、明新科学技術大学の中には半導体工場のミニコピーがあり、ここで講義を受ける学生が、将来台湾の半導体生産を担ってゆくからです。
 蔡英文政権のあとを継ぐ頼次期総統(現副総統)も、選挙の後にこの大学に頻繁にコンタクトを取っています。台湾にとっては、国家の安全を担う意味でも、産学が共同となって半導体産業を維持し発展させてゆく必要があるのです。
 

半導体生産の産学連携が担う台湾の安全保障

 劉学長の横には廖副学長が同席していました。会話のついでに、次回はいつ日本に来られるのかと副学長に問い合わせました。
 
 「今、業務分担をしていてね。私はこれから東南アジアに頻繁に出張するようになるんですよ。特にベトナム、タイといった国がターゲットです。ですから、日本の件は校長や国際部の先生にお願いしているんです」と説明をしてくれました。
 
 彼らはベトナムなどの国々の大学と提携し、そこに半導体のビジネスに関する専門家を育成するためのコース自体を台湾から輸出し、現地の大学で学生を教育しているのです。その上で、高度な教育が必要になった段階で明新科学技術大学に留学させて、人材育成を完成させるというのが彼らの戦略です。
 とかく、アカデミズムの巨塔の中で排他的になりがちな大学の実情とは異なり、劉学長をはじめとした台湾の大学の多くの関係者は、極めてビジネスライクです。彼らは海外の大学とも積極的に提携し、知的所有権を売り込みながら、人材を育成し、それぞれの国に台湾の息のかかった半導体の専門家を育成しているのです。
 
 TSMCをはじめとした半導体企業は、厳重な機密のなかで生産を管理しています。したがって、我々にとって明新科学技術大学の学内の施設を見学することは、極めて貴重な体験といえましょう。
 
 「TSMCなどの企業は、たとえ政府の役人や大物政治家でも工場内への立ち入りに厳しい制限をかけています。もちろん広報部門の管理する一般向けの見学室はありますが、工場そのものへの立ち入りは困難です。そんな機密性のある生産ラインの模擬ラインを我々は作って、学生の育成に取り組んでいるわけです」
 
 劉氏や廖氏は、国をあげての戦略をそのまま請負いながら、半導体を通して台湾のプレゼンスを世界に拡散させていることになります。彼らと面会するたびに産学の取り組みや連携の鮮やかさを見せつけられます。
 
 「熊本のTSMCの工場のための人材育成を目指して、日本からの留学生を大幅に募集したいのですが、日本の大学や教育関係者にこの喫緊のニーズについてどう理解してもらうかが悩みどころです」
 
 劉学長は、そのために日本にも年に何回か出張します。廖副学長は、劉学長が忙しく飛びまわっている間に東南アジア各地をまわり、提携校の育成を進めているわけです。
 

米大統領選挙に左右されない独自の外交戦略を

 台湾は、半導体を単なる産業として捉えていません。それはそのまま国の安全保障につながる貴重な戦略資源となっているのです。台湾が半導体の生産の核である限り、中国は容易には台湾に手を出せません。武力ではなく、経済と知的財産の力で国を守ろうというこの国の方針が、明快に見えてきます。
 
 注目したいのは、対中戦略は、裏を返せばそのまま、アメリカや日本への外交戦略にもなっていることに気付かされます。アメリカは大統領選挙で、バイデン大統領が再選されるかトランプ氏が再登場するかで国の戦略が大きく変化するはずです。そうした変化を最も深刻に受ける国の一つが、中国との緊張関係に悩む台湾であることはまぎれもない事実です。
 バイデン大統領が再選されれば、現状は大きく動かないでしょう。しかし、常に流動的な世論を扇動することで人気を博しているトランプ前大統領が再登場した場合の外交戦略は、アメリカ国内の世論によって右にでも左にでも容易にブレかねません。そのとき台湾が切り離されるか、それとも台湾との連携がさらに強化されるのかは、専門家ですら読み切れないのが現在の実情です。
 
 であれば、台湾としては、世界での半導体のシェアをしっかりと維持して、アメリカの大統領選挙の結果とは関係なく、自国の安全を守り切らなければなりません。それは日本にとっても同様で、台湾からの工場進出という投資によって、すでに九州などは、引き返せないほどに強い経済的な絆が台湾との間にできています。台湾は、こうした経済活動で外交の舵取りを担おうとしているのです。
 
 「熊本には、中華学園も開校させて、台湾からの駐在員の子弟と、日本の子供達との交流も強化しようとしています。また、留学へのハードルを下げ、言葉の壁や単位の交換条件などといった留学基準そのものが障壁にならないように、台湾の教育部とも連携して日本にも働きかけたいのです」
 
 明新科学技術大学の経営陣だけではなく、前回の台湾訪問で面会した他の教育機関の責任者も口を揃えて日本への熱いメッセージを送り続けています。
 
 リスクやコンプライアンスのことを考えすぎて決断が遅くなりがちな日本の産業界や学術機関と比較したときに、我々が台湾から学ばなければならないことは多いようです。危機感のマグニチュード自体が異なることが原因かもしれないものの、台湾の企業や教育界の迅速で柔軟な動きによって、逆に日本の関係者に危機感を抱いてもらいたいと思うのは私一人ではないはずです。
 「もしトラ」といってアメリカの大統領選挙に一喜一憂することのない、盤石な経済戦略を、日本も構築する必要がありそうです。
 

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