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ブラジルだけを責められない、アマゾンの森林火災の現実

DADO GALDIERI / BLOOMBERG / GETTY IMAGES

“Fires have been breaking out at an unusual pace in Brazil this year, causing global alarm over deforestation in the Amazon region.”

(今年、ブラジルでは火の手が異常な勢いで拡大している。アマゾンの森林破壊は今、世界への警鐘となっている)
― New York Times より

貧困からの脱却 vs. 地球環境の保護

 ブラジルのアマゾン川流域を中心とした北部地方での森林火災が、今年だけでも2500件以上発生し、東京都に匹敵する面積を大きく超える森林が消失している現実は、世界に波紋を投げかけています。
 
 ブラジルでは、焼畑による農地や主力産業である牛肉生産のための牧草地などの開発を主軸に、経済的に立ち遅れている北部地方での所得を向上させる目的で森林を伐採し、そのことが原因となる火災があちこちで発生しているのです。
 経済が人類に与える短期的な利益と、人類に将来及ぼす長期的なリスクとの天秤がどちらに傾くかという、我々人類全体で考えなければならない問題が今、突き付けられているのです。
 
 それにしては、日本ではこのニュースがあまり取り上げられていません。熱帯雨林の消失は、そのまま地球の気象異変に直結します。しかも、ただブラジルで森林を焼いて開発する人々を糾弾するほど、ものごとは単純ではありません。それほどまでに、北部ブラジルのみならず、アフリカ諸国、南アジアや中東など世界各地での貧困は深刻なのです。彼らは必死で豊かな生活を望んでいます。教育が行き届かず、年少者も含む家族全員で過酷な労働に従事する彼らにとって、貧困からの脱却は命の危険からの脱却でもあるのです。
 
 豊かな人々がステーキや様々な食材を使った夕食を楽しんでいるとき、その供給源の森林が縮小していくのです。G7でもこの問題が取り上げられ、ブラジルに対して対応を求めながら、火災鎮火への援助も決議しました。しかし、日本はあまり積極的ではありません。それは、ブラジルのボルソナロ大統領を支持するトランプ大統領への配慮なのでしょうか。この二人の大統領は、同じ考え方を共有する人物として、今世界を騒がせているわけです。
 

Reuters / アフロ

ビジネスチャンスの陰に貧富の格差

 こと地球環境の汚染問題については、当事国とそれを批判する国との間に、様々な利害関係が絡み、複雑な感情が入り乱れています。
 例えば、アフリカなどの鉱山で、奴隷さながらの過酷な労働条件の中で生産される鉱物資源を使って我々は快適に暮らし、そうした場所で採掘された宝石が欧米や日本などで高価な値段で販売されている実情は、すでに有名な話です。
 さらにこういう話もあります。北極圏では温暖化のために生態系が破壊され、飢えと生活の場の喪失で絶滅の危機に苦しむホッキョクグマがいます。しかし、気候変動で北極の氷が溶けると、それを新しい輸送ルートとするビジネスチャンスが生まれています。北極海経由で物資の輸送が可能になれば、輸送力や輸送時間も大きく合理化できるのです。
 
 そもそも、ビジネスチャンスとは何でしょうか。私は今、マニラへの機上でこの原稿を書いています。航空機一つをとっても、様々な金属が使用され、石油が消費されています。問題は、その大元となる資源をどのように人々が生産しているかということです。
 
 例えば、こんな歴史的な事実もあります。
 18世紀にアメリカに入植した人々は、命がけで新天地を切り開こうと、まさに森林を焼き、伐採し、農園を作りました。そこで生産される大量の綿花は、産業革命が始まったイギリスなどに輸出され、ヨーロッパの経済を潤しました。しかし、広大な農場を経営するには、どうしても安価な労働力が必要です。これをビジネスチャンスと思ったイギリスやオランダ、そして経済が比較的発展していたアメリカ北部沿岸の資本家は、船を仕立ててアフリカへと向かいます。そこで部族の対立を利用して獲得した人々を、奴隷としてアメリカ南部に売り込んだのです。ビジネスは大成功でした。
 こうして、アメリカ南部では大農園があちこちにでき、入植者の生活も安定へと向かいつつありました。しかし、その安定は北部の金融機関の援助によるものだったのです。そして、さらに農園から綿花がどんどん生産され、そうした豊かな地域に輸出されたのでした。
 
 ところが、奴隷の人権問題がクローズアップされたとき、それを非難したのは、もともと南部の経済を支援し、債権者にもなっていた北部の人々でした。綿花によって生産された新しい衣類を寝室において、静かな夜を送っていたヨーロッパの人々でした。
 そして、北部の人々が凄惨な条件で酷使される奴隷の解放を叫び出したとき、南部の大地を切り開いて農場を経営し、貧困から脱却できそうになった人々は反発し、それが南北戦争となったのでした。
 

人類が見つめ直すべき自然とのかかわり方

 ブラジルの森林火災は、こうした人類の豊かさと貧困との格差がまたも生み出した悲劇といえましょう。ブラジル北部では、早朝から労働者がバスに乗って、鉱山や農場に働きに行きます。低い賃金と辛い労働の日々に希望はありません。それでも、そこに仕事があるのです。そして、鉱山や食物産業の経営者は財務諸表を見ながら、そんな労働がどれだけの利益を生み出すか計算します。例えば、我々も外食産業の恩恵で簡便に食事ができ、そこで支払った料金のほんの少しが、地球の裏側の労働者に支払われます。そして、そんな食物を生産する農地を拡大させようとして、熱帯雨林はさらに縮小していくのです。
 もし、この世界に神がいるとするならば、こうした人類の行為全体に鉄槌を下すかもしれません。それが自然破壊からくる地球環境の劣化という鉄槌であれば、そのつけは大きいものとなるはずです。
 
 ブラジルのボルソナロ大統領は、欧米の影響力を排除し、ブラジル経済優先の政策を打ち出し、さらにリベラル派の民主化運動を厳しく批判して大統領に当選した人物です。彼はアマゾンの問題は国内問題だとして、ヨーロッパ諸国の介入を嫌います。そして海外の識者は、アマゾンの森林資源は世界の財産で、その喪失は世界の気候問題と直結するとして、ポルナソロ大統領をポピュリズムに基づく扇動家でナショナリストだと厳しく批判します。もちろんトランプ大統領は、そんな批判と一線を画し、地球の資源を豊かさのために使うことはアメリカにとっても必要な政策だという姿勢を崩しません。
 
 しかし、確かにアマゾンの森林資源は、人類、そして地球にとってかけがえのないものです。であれば、なおさら、これは人類全体がこの貴重な自然遺産とどのように関わってきたのかを見つめ直さなければなりません。一度破壊したものは、砂漠を森に戻すことを考えれば、修復が極めて困難だということは一目瞭然です。木が倒され、その下の植物群が破壊され、そこに水を供給するシステムが壊されれば、ただ放置していれば元に戻るというものではないことがわかるはずです。
 
 人類全体が、この富と貧困の課題、豊かさへの渇望や投資と自然との確執、さらにナショナリズムと世界全体の利益との関係をしっかり見つめ直すことが喫緊の課題となっているのです。
 

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地球はどこから来て、どこへ行くのか?

『The History of the Earth 地球の歴史』西海コエン (著)The History of the Earth
地球の歴史
』西海コエン (著)
46億年にわたり太陽系の一員として在り続けた地球と、そこで命をつなぎながら進化を繰り返してきた生物の歴史は、われわれ一人一人の中に刻まれている。地球の歴史は、あなたが生まれてきた「理由」に直結する物語でもある。地球の生い立ちから、生命の誕生、進化した生物と絶滅した生物、そして人類の挑戦まで、壮大な歴史をやさしく読みやすい英語で綴る。科学、生物学に関する表現をたのしみながら学べる1冊。

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官民協力のモデルとなるバージニア工科大学から見える明暗とは

“Virginia Tech announced Tuesday that it will build a one-million-square-foot, technology-focused campus in Alexandria — a $1 billion project that is part of a higher-education package cited as a key reason Amazon selected Northern Virginia for a new headquarters sites.”

(バージニア工科大学は、火曜日に100万スクエアフット(約2,800坪)のテクノロジー関連のキャンパスをアレクサンドリアに建設する。この1ビリオンドル(約1,100億円)のプロジェクトは、アマゾンがバージニア北部を新たな本拠地にしたことを受け、より高度な教育パッケージを提供する戦略の一つである。)
― バージニア工科大学のプレスリリースより

二都市の明暗を分けたアマゾンの拠点誘致

 今、ワシントンD.C.からニューヨークに向かう列車の中でこの原稿を書いています。
 車内は、アメリカ東海岸の政治経済の中心で活動するビジネスマンでほぼ満席の状況です。今回の出張では、この二つの都市の他に、アメリカの富が集まり、南米とのコネクションも強いマイアミでもいくつかの打ち合わせを行いました。
 
 この中で一つ面白いことがありました。
 バージニア工科大学でのアプローチです。実はアマゾンシアトルの他に、流通の拠点をバージニアにオープンしたのです。このことによって、ワシントンD.C.から近いアーリントン地区を中心に2万5千人の求人がありました。
 しかし、アマゾンは元々、本部をニューヨークに設置しようとしていたのです。
 
 ニューヨークに、将来を期待された下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテスという人物がいます。彼女はいわゆる労働者階級の両親の元で育ち、女性としては史上最年少で下院議員にのぼり詰めた人物として注目を集めています。
 前回の大統領選挙で民主党候補の一人になったバーニー・サンダースの後継者として、いずれは大統領候補にまでなるのではと思われるほど、庶民から強い支持を得ていたのです。
 コルテス議員は、移民の規制に強く反発し、彼らの権利を守り、開かれた社会の建設を主張しました。もちろん、彼女はポピュリズムの波に乗ったトランプ政権への批判の急先鋒としても注目を集めたのです。
 そんな彼女は、アマゾンのような巨大資本と行政との繋がりに懐疑的で、アマゾンの誘致にニューヨークが財政的な援助をしようとしたことに強く反発しました。彼女は、アマゾンの誘致は巨大企業のメリットだけが優先され、環境や労働者の生活の向上への貢献にはならないと主張したのです。
 そして、彼女を中心とした運動の結果、アマゾンはニューヨークへの進出を断念し、バージニアに第二の拠点を設けたのです。
 皮肉なことに、この結果がコルテスの支持率低下に繋がりました。
 アマゾンが進出しなかったことで雇用が生まれず、さらに地域の活性化にも繋がらなかったという批判にさらされたのです。
 

Alexandria Ocasio-Cortez

産学連携に見え隠れするリベラル層の分断

 対照的なのがバージニアでした。
 アメリカの首都にも近いバージニア工科大学では、即座にMITという学科の強化に踏み切ります。MIT(Master of Information Technology)とは、従来のMBAでの教育のノウハウを活かしながらInformation Technology(情報技術)の分野を伸ばしていこうという学科のことで、MBA以上に将来性を期待されている学科です。バージニア工科大学では、アマゾンと提携してMITをはじめとした様々な分野で研究活動を進めてゆくと発表したのです。
 
 アマゾンから見れば、学術機関で育てられる新たなベンチャーや様々な技術革新を自らの事業に導入できます。大学から見れば、巨大企業の支援によって大学経営を圧迫している設備投資や高騰する人件費の合理化にも繋がります。さらに、アマゾンそのものが研究対象として有益であることは言うまでもありません。
 MITには世界中から優秀な学生を集めるつもりであると、関係者は語ってくれました。
「学費は18ヶ月で5万ドル(約550万円)です。それを聞くと、誰もが高いからやめとこうと思うでしょう。でも、ここを卒業した人の初任給は10万ドル(1,100万円)以上が普通なんです。すぐに元は取れますよ」
 そう関係者は話します。
 バージニアから見れば、雇用と新たな産業の芽がこれで創造され、同時に学術拠点としての活力も育まれるのです。
 
 今回のアマゾンの誘致問題から見えてくるアメリカ社会の分断は、単にトランプ政権に代表される内向き志向のアメリカと、移民政策や環境問題などに配慮した人々との溝であるとは言い切れない複雑さが伺えます。
 実は、トランプ大統領の政策に反対する、いわゆるリベラル層の間にも、見えない溝があることを忘れてはなりません。
 そこに見えるのは、グローバルな企業やIT等で世界とネットワークするビジネス界やそれを支える人々と、移民、人種問題や人権、そして雇用の問題に取り組む伝統的なリベラル層との間にある微妙な意識の隔たりです。
 コルテス議員の政策は、後者の人々の支持に支えられながらも、前者の意識、さらにはそこでの雇用を期待した人々への意識との対立を生み出したのです。
 この意識の差が、選挙での票の分断へと繋がり、逆に強いアメリカを標榜する保守層に支えられたトランプ政権への追い風にもなるわけです。
 

アメリカの現実と未来像から考える日本の将来

 今、アメリカの景気は好調です。
 とはいえ、これから1年以上先の大統領選挙までその景気が維持できる保証はありません。早く中国との経済戦争の影響を脱皮し、タイミングよく大統領選の時期まで景気を維持できるかはトランプ政権の大きな課題です。
 それに対して、民主党の課題は、ここに記した「見えない分断」をどのように克服し、支持を固めるかが課題なのです。
 それには強い大統領候補と共に、この微妙な溝を埋められる優秀な副大統領の選抜が極めて大切です。それが次回の選挙の行方を占う鍵となるでしょう。
 
 そして、バージニア工科大学に見られるような企業との取り組みや、MITでの活動などは、とかく民間との壁を作りたがる日本の大学や教育関係者にとってはしっかりと見習うべき事例とも言えるはずです。
 アマゾンの誘致をめぐるアメリカ社会の現実と未来像は、アメリカだけの課題ではなく、日本の将来にも投影できる事柄なのです。
 

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『どうすれは日本人は英語を話せるようになるのか!?』アンドリュー・ロビンス (著)どうすれは日本人は英語を話せるようになるのか!?』アンドリュー・ロビンス (著)
日本では英語学習が義務づけられているのに、なぜ実際に英語を話す日本人がこれほど少ないのだろう?絶対確実な言語習得法とはなんだろう?他の国では言語教育をどのように行っているのだろう?
本書では、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で学んだ著者が、学習者や教師が英語学習でぶつかる障害から、必ず言語学習に成功できる方法までを網羅。「なぜ」そして「どうしたら」言語能力の向上をコントロールできるかを具体的に伝授します。

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自動車業界からみえる日本人の未来への強烈な課題とリスクとは

Photo by Justin Sullivan / Getty Images

“Amazon leads $700M funding round for Rivian.”

(アマゾンはRivianに700万ドルの大型出資を行う)
― Automotive News より

日本の競争力低下の根本にあるものとは

 今、日本の競争力の低下が問題になっています。
 バブル経済がはじけて、失われた10年と呼ばれる不況の後、少し持ち直した景気もリーマン・ショックで再び低迷し、その後目立った進捗もないまま現在に至っています。
 
 再生のために必要な処方箋については、これまで様々な議論がなされてきました。
 しかし、日本社会は根本的な変革を経験することなく、ずるずると続く国力の低下に悩まされているのが現状です。
 そこで、敢えてこの問題の本質にメスを入れてみたいと思います。そもそも、日本という国を構成している人々、つまり我々日本人一人ひとりのいわゆる人間力、組織力には問題がないのでしょうか。
 

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ベゾスの離婚騒動が巻き起こした報道の論理とは

“Attorney claims National Enquirer threat to publish Bezos photos was ‘journalism,’ not blackmail”

(弁護士は、ナショナル・エンクワイアラーのベゾスへの写真公開の脅しはジャーナリズム活動の一環であって、脅迫ではないと主張)
― Washington Post より

離婚スキャンダルから政治とメディアの論争へ

 アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)の離婚騒動が、思わぬ政治スキャンダルになろうとしています。
 
 事の起こりは、ジェフ・ベゾスが長年連れ添った妻、マッケンジー・ベゾス(MacKenzie Bezos)との離婚を発表したことです。タブロイド紙ナショナル・エンクワイアラー(National Enquirer)が、その離婚の背景にあるベゾスのガールフレンド、ローレン・サンチェス(Lauren Sanchez)との情事を暴こうとしました。
 
 有名人のスキャンダルをメディアが暴くことはよくあり、それ自体は報道が事実に反した誹謗でない限り、合法的な行為です。
 しかし、この問題にベゾスは強く反発します。ベゾスは、アメリカを代表する新聞社ワシントン・ポストのオーナーであり、同紙は現在、トランプ大統領の様々なスキャンダルを追っています。反して、ナショナル・エンクワイアラーの最高経営責任者デイビッド・ペッカー(David Pecker)は、トランプ大統領を支持しており、大統領の政治顧問であるロジャー・ストーン(Roger Stone)とも交流があると噂されていることが、ベゾスの反発の背景にあるようです。
 ベゾスは、メディアなどでの大統領への攻撃を続けるなら、ベゾスの極めてプライベートなスキャンダルの内情を暴く、とペッカー側から脅しをかけられていると主張します。それに対し、ベッカー側はあくまでもベゾスに関する様々な違法行為や情事を記事にする調査であって、違法性はないと主張しているのです。
 

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ネットビジネスにヒントを与えたシアーズの破綻とは

「シアーズ」の画像検索結果

“Sears Holdings Corp filed for Chapter 11 bankruptcy on Monday with a plan to close 142 more stores, throwing into doubt the future of the century-old retailer that once dominated U.S. malls but has withered in the age of internet shopping.”

(シアーズ・ホールディングが月曜日に会社更生法を申請。142以上の店舗を閉鎖。100年以上の歴史の中で、一時アメリカのショッピングモールを席巻した小売店が、インターネットショッピングの隆盛で衰微、先行きに大きな影を落とす。)
(New York Timesより)

アメリカにシアーズ(Sears)というデパートがあります。
一時は、カタログ販売の大手として世界的にも知られた企業です。
そのシアーズが、経営危機に陥り、日本でいえば民事再生にあたる会社更生法(Chapter11)を申請しました。
小売店は、今ネットビジネスの攻勢に晒されています。しかし、この破綻劇は一つの皮肉な物語ではないかと思うのです。
というのも、シアーズのビジネスモデルこそ、ネットビジネスが勃興した頃に多くの人が参考にしたものだったからです。
 
ネットビジネスがモデルにしたのは、シアーズのカタログビジネスでした。
シアーズが創立したのは1886年のこと。当時、アメリカは辺境地方の開拓も終わりつつありました。広大な大陸のあちこちに開拓者が開いた街や村ができあがり、それらを駅馬車やお目見えしたばかりの鉄道がネットワークしていたのです。
そんな辺境の人々は、概ね自給自足の生活をしていました。現在のコンビニにあたるような、英語ではジェネラルストア(General Store)のある街もありました。人々は必要なときは、時間をかけてそんな街まで出かけ、生活必需品を購入していたのです。しかし、辺境では運送コストもかさみ、商品は決して安いものではありませんでした。
 

カタログビジネスと共に隆盛を極めるシアーズ

その状況をチャンスと思ったのが、ミネソタ州で鉄道関係の仕事をしていたリチャード・ウォーレン・シアーズでした。そうして生まれたのが、カタログによる通信販売システムだったのです。
彼は、鉄道会社に勤務していたときに、シカゴからの貨物を目にします。その貨物は、シカゴの卸売業者から小売店に送られてきた商品でした。
中には宝石や腕時計が入っています。当時、卸売業者は小売店に商品を送りつけた上で、仕入値の交渉をする習慣がありました。しかし、その貨物は小売店が引き取りを拒否したままになっていたのです。
 
そこでシアーズは、卸売業者に連絡をとり、荷物に入っていた腕時計を安値で買い取る交渉をします。交渉が成立すると鉄道のネットワークを通して、各駅の同僚に連絡をとり、腕時計を地方の駅を通して安く販売しようとしたのです。
田舎の人々にとって、腕時計は実におしゃれなものでした。しかも、それが安値で手に入ります。さらに、当時標準時をいかに認識するかということが、地方の人々にとっては大きな課題でした。特に、鉄道員であれば尚更です。そうしたニーズもあって、彼の思惑は大当たり。彼は大きな利益を手にします。
鉄道員が副業を同僚とやり、それをチャンスとして成功することなど、今では考えられません。ある意味では、彼は楽しい時代に生きていたことになります。
 
シアーズは、この成功を応用し、地方の人々のために生活必需品を仕入れ、発送することを考えます。そうして成立したのが、シアーズカタログによるメールオーダービジネスだったのです。彼は返品条件つきという、当時としては画期的な方法で、カタログを地方に住む人々に送ります。シアーズカタログは消費者の支持を受け、ありとあらゆる商品がカタログを通して販売されたのです。
なんと、一時は住宅まで販売したといわれています。カタログはますます厚くなり、ビジネスはどんどん成長します。
 
20世紀になって、アメリカにモータリゼーションの波が押し寄せました。
ヘンリー・フォードの発案による、合理的な生産ラインによって安価に生産されたT型フォードは、一部の富裕層の嗜好品だった車を、一般大衆が所有できる商品へと変化させたのです。鉄道や道路が整い、さらに車が大陸のあちこちを走るようになったとき、シアーズはすでに巨大企業として成長していたのです。
シアーズが創業したシアーズ・ローバック社は、本社をシカゴにおき、カタログビジネスに加え、自家用車の駐車場を備えた百貨店経営に乗り出します。しかし、その時すでに創業者シアーズは他界していました。1914年のことでした。
 

ネットビジネスへの転換とアマゾンの出現

それから80年を経た90年代、世界はインターネット時代へと移行しました。
そして、カタログ販売はネット販売に取って代わられます。遠隔地の人々にも商品を、というビジネスモデルが、新しいテクノロジーによって進化したのです。
21世紀になり、アマゾンなどのネット販売の業績はどんどん伸びてゆきます。その進化のスピードは過去にはないものでした。
アマゾンが創業したのは1994年。その前後、シアーズはカタログ販売を縮小し、ネットビジネスに参入します。
 
一方のアマゾンは、元々書籍をネットで販売する事業から進化しました。当時、アメリカには、たくさんの小売書店チェーンがありました。それらは合従連衡を繰り返し、最終的にはボールダーズバーンズ・アンド・ノーブルという2つの巨大チェーンに集約されたのです。残念なことに、ボールダーズは2011年に倒産します。そして残されたバーンズ・アンド・ノーブルは、孤軍奮闘はしているものの、経営は決して思わしくなく、売却の話も出ています。20年前には考えられなかった変化です。
 
一方、アマゾンは書籍以外の商品の販売も行い、業務は拡大しています。
面白いことに、アマゾンは、アメリカではリアル書店も開設しています。豊富なデータベースから読者の求める書籍をうまくディスプレイすることで、話題となっているのです。
 
そして、今回のシアーズの会社更生法適応です。
シアーズがカタログビジネスから完全に撤退したのは、2000年のこと。それから18年経った今、過去のメールオーダービジネスの巨人は、ネットビジネスへも参入したものの、ついに自立を諦めたのでした。
 

シアーズとアマゾン、両者を分けたものとは

時代の変化による販売形態への対応のノウハウ。これはいつの時代でも問われる課題です。しかし、それは簡単ではありません。
アマゾンの小売店への進出と、ネットビジネスへのシフトを試みながらも破綻したシアーズ。この二つを大きく分けたものが何か。データベースやテクノロジーへの対応だけでは解き明かせない、ビジネスの機微の違いが、そこにはありそうです。
 

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英語力だけじゃない、世界に通用するスキルを身につけるなら

『日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context』ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)日本人がグローバルビジネスで成功するためのヒント Tips for How to Succeed in a Global Business Context
ジョン・K・ギレスピー (著)、小野寺粛 (訳)
グローバルビジネスのスキルを学びながら、英語学習にもなる。ビジネスパーソンのための対訳読み物。
20年間で、海外の日系企業の5000人を超えるビジネスパーソンと面談を行ってきた著者が教える、「日本人のためのグローバルビジネスで成功するためのヒント」。日本人以外の人々とのコミュニケーションやビジネスに対する見方を説明しながら、日本人の問題点を指摘し、その解決方法を伝授。グローバルに成功したいビジネスパーソンのみなさんに、英語力よりももっとはるかに大事なことをお教えします。

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