タグ別アーカイブ: トランプ

中東と極東の間を動く国際関係の機微とは

“North Korea asks for direct nuclear talks, and Trump agrees.”

(北朝鮮が核兵器について直接の対話を求め、トランプがそれに応じる
(New York Timesより)

トランプ大統領が北朝鮮の金正恩と会談をするという報道に、日本が翻弄されています。
これは外交内政共に、過去にみられない政策の発動によって批判にさらされているトランプ政権ならではのカードの切り方といえましょう。
とはいえ、アメリカの極東に対する外交方針を考えるときに、常に念頭におかなければならないことがあることは知っておきたいものです。
 
我々が意識しなければならないことは、中国のことでもロシアのことでもありません。はたまた北朝鮮のことでも韓国のことでもないのです。それは、アメリカの中東政策の変遷なのです。
 
以前にも解説をしましたが、アメリカにとって最も大切な外交上のプライオリティは中東政策なのです。欧米の利害が複雑に絡み合ってきた中東諸国が長年にわたって不安定であることが、アメリカの外交政策にとって常に最も重要な課題なのです。
ユダヤ系のアメリカ人、さらにはプロテスタント系のアメリカ人の中でも保守派の人々にとって、アラブ諸国とイスラエルとの対立こそが、最も気になることなのです。中東への外交方針のあり方は、そのまま大統領選挙を含む、アメリカの重要な政治的イベントに直接影響を与えるテーマなのです。
トランプ政権は、政権発足以来、イスラム圏に対して常に距離をおき、イスラエルを支持する姿勢を貫いています。ロシア疑惑など様々なスキャンダルに揺れるトランプ政権にとって、最も気になるのはこれ以上失点を重ねて保守派からも引導を渡されることなのです。ですから、トランプ大統領は親イスラエル政策を貫くことで、保守派の人々の支持を繋ぎ止めようとしています。
 
この中東政策を固めた上で、はじめて極東への対応を考えるというのが、アメリカの伝統的な対応なのです。
それは、トラランプ大統領に限らず、彼とは真逆な外交政策に終始したオバマ大統領やそれ以前の歴代政権に共通したアプローチだったのです。
 
しかも、スタンドプレーの好きなトランプ氏であれば、外交での華やかなパフォーマンスを演じる舞台としては、中東より極東の方が遥かに適しているのです。中東問題はしくじると自らの政権基盤を揺るがします。しかも、中東は、ヨーロッパ諸国やロシアが長年にわたり高度な外交の取引の場としてきた地域で、外交の素人ともいえるトランプ氏にとっては派手なパフォーマンスをするにはハードルが高すぎるのです。
 
アメリカの極東政策は、日本での軍事的なプレゼンスを維持している限り、さほど大きな変化は要求されません。日本と韓国とが過去の戦争責任をめぐって不協和音を響かせていたとしても、アメリカにとってはそれはあくまでも日本と韓国の問題で、日米、米韓関係にはなんら影響はないのです。
 
今回、韓国はそこのところをよく意識していたといえましょう。
韓国が北朝鮮に歩み寄ったとき、アメリカは一見不快感を示しました。しかし、それは国連決議などをリードしてきたアメリカとしての建前にすぎなかったのです。アメリカからみれば、確かに北朝鮮は人権問題や核問題など、現代社会の常識とはかけ離れた政策に終始する敵性国家です。しかし、北朝鮮は伝統的に中国の後押しで政権運営をしてきたにもかかわらず、金正恩が指導者になって以来、その関係がギクシャクし続けています。中国の指導で北朝鮮の国際社会への復帰をともくろんでいた習近平政権にとって、金正恩の行動は余りにも異常だったのです。この図式に楔をさし、北朝鮮に北風ではなく太陽としての影響力を発揮する絶好のチャンスとアメリカが考えても不思議ではありません。
 
実際、異常な指導者とされる金正恩も、「異色」な大統領で評判のトランプ氏も、国際社会でより孤独した存在になりつつありました。そんな二人であればこそ、北朝鮮が中国からアメリカになびくことをどちらも心待ちにしていたのかもしれません。韓国はそのことを察知して、オリンピックを利用して先手を打ったことになるのです。
 
これにはアメリカとの磐石な外交関係を自負していた日本も翻弄されてしまいます。中国も同様です。
その上でトランプ氏が見落としていることを指摘するならば、中国と日本との関係がこのことでどう変化してゆくかということでしょう。
これは日本人自身が気付いていないことかもしれませんが、明らかに中国と日本とは雪解けが必要となっているのです。少なくとも中国側はそれを察知し、日本が中国の面子を潰すようなタイミングの悪いことをしないよう、間接的に日本側にメッセージを送っているはずです。
 
外交の世界では時には思いもよらないことが起こります。
戦前、犬猿の仲とされたヒトラーとスターリンが一時不可侵条約を結び、世界が唖然としたことがありました。今回のトランプと金正恩とのメッセージのやりとりも、それに匹敵する混乱への序曲かもしれません。
 
中東問題、極東問題、この二つの外交の極をめぐり、アメリカやロシア、そして中国やヨーロッパの主要国がどのように自らの振り子をふってくるのか。極東での変化の背景にある世界の多面的で複雑なやりとりを、我々ももっと意識してゆくべきなのでしょう。
 

* * *

『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

アメリカの動向に翻弄されるエルサレムに思いを寄せて

“The president declared Jerusalem as the capital of Israel, delivering on a campaign promise to his evangelical supporters.”
(大統領はエルサレムをイスラエルの首都と宣言。これは福音教会の支持者への公約に基づいている)

New Republic誌より

世界の反発を煽るエルサレムの首都宣言

エルサレムをイスラエルの首都として認め大使館を移動させるというトランプ大統領の決定に、世界が反発しています。この見出しにある evangelical supporters とは、福音教会に属する人々の支持者、つまりトランプ大統領の支持母体だった保守的なキリスト教(プロテスタント系)の人々のことです。

先週、シアトルから友人が来日しました。
彼とはここ数年同じプロジェクトの仕事をしています。
彼はエリトリア Eritrea という国からのアメリカへの移民です。紅海に面し、エチオピアやソマリアなどと国境を接するこの国は、古い歴史を持ちながらも近年は政情不安が続いていました。彼も若い頃にエリトリアからサウジアラビアに逃れ、そこで英語教育関連の会社に勤務しました。その後、私と共通の友人の経営する会社に勤め渡米。今ではシアトルで同社の社長をしています。つまり、彼は中東からアメリカに渡ってきた移民なのです。そして彼は敬虔なイスラム教徒 Muslim です。

そんな彼がエルサレムをめぐるアメリカの対応に憤ります。
京都で、彼とモロッコ人の友人、それに教徒在住のアメリカ人と夕食を共にしました。彼とモロッコ人の友人とは、イスラム教の戒律に従った食事、ハラールフード Halal だけしか食べることができません。そして、仕事をしながらも夕暮れどきには、メッカに向かいお祈りをします。実際は、1日5回はお祈りの時間があるのです。京都にも、そんなイスラム教徒が祈りのために集う場所があることを知りました。

エルサレムはイスラム教徒にとっても、キリスト教徒にとっても、そしてユダヤ教徒にとっても聖地なのです。長い歴史の中ではそこで数々の宗教的な対立もありました。しかし、多くの時代、彼らは共存し、交流も盛んだったのです。

危ぶまれる多民族の共存

京都に住むモロッコから来た友人は、ベルギーのアントワープに住んでいたことがありました。アントワープは、ダイヤモンドの取引で有名な都市で、その取引にはユダヤ系の人々が多く関わっています。エルサレムと同様に、そこでもユダヤ系とアラブ系の人々が同居しているのです。
「ベルギーにいた頃、そんなユダヤ系の奴らとも友達だった。子供同士お互いの家に行って遊んでいたよ」
彼はそう述懐します。
「アメリカでも同様さ。狂信的な人々を除けば、宗教の違いはさほど問題ではなかったんだよ」
そういう私の京都の友人はユダヤ系です。イスラエルといえばユダヤ系の人々が建国した国家です。しかし、実のところ、多くのユダヤ系の人は今回のトランプ大統領の決定に強い懸念をいだいているのです。

“Despite the mess in Washington—the swamp, it appears, not only has yet to be drained, the accumulating muck would appear to be getting stickier and deeper.”
(ワシントンで起きている混乱、でもその混乱の沼は未だにそのままで、汚泥は粘りをまし、深みを形成しているよ)

これは、ユダヤ系のガールフレンドとニューヨークに暮らす私の親友からのクリスマスのメッセージです。彼は、ガールフレンドが精神的に辛い思いをしているといいます。トランプ政権の決定が宗教的な対立を煽り、人々の間に微妙な不信感が生まれつつあるからです。京都に住む友人も同様でした。

アメリカと日本との思わぬ共通点のリスクとは

そして、シアトルから日本を訪れたエリトリア出身の友人もコメントします。
「俺だってアメリカの国籍を持っている。れっきとしたアメリカ人だよ。イスラム教徒でも、ユダヤ教徒でも、アメリカに来て、税金を払って、法律を守ってちゃんと生活している。確かに、我々の文化背景は違うだろう。一部のアメリカの人はそんな文化背景の違いに配慮しない。それがトランプ政権を生み出したんだよ」
彼はそう言って面白いジョークを言います。

「世界中の多くの人は他国と国境を接した国で生きている。だから、バイリンガル bilingual なのは当たり前。いいかい。トライリンガル trilingual、マルチリンガル multilingual なんて言葉があるよね。俺は最低でもエリトリア語、アラブ語、英語を使えるよ。それは当然のことだろ。でだな。1ヶ国語しか話せない人のことを何ていうと思う?モノリンガル?違うんだ、1ヶ国語しか話せない人のことをアメリカ人というんだよ」

つまり、アメリカは大国で、そこに住む人は英語を話していればそれでいい環境にあるため、バイリンガル以上の人が少ないと彼は言いたかったのです。
こう言われた時、私は日本のことをチラッと考え、どうコメントしていいかわからなくなりました。多くの日本人は日本語しか話せないのですから。日本、そしてアメリカの常識は世界の非常識というわけです。

エルサレムに暮らす人は、ヘブライ語(ユダヤ系)、アラブ語やアラブ系の様々な民族の言葉、さらにアルメニア語など多数の言語に接して生活をしています。
だからこそ、エルサレムは、多民族、多宗教、そして多国籍の人々が共存する象徴的な都市なのです。その地位を強制的にユダヤ系の国家の首都とした時に、この地域に長年続くイスラエルとアラブ系の人々との対立はさらに深まってしまうはずです。

2017年はトランプ政権の成立とその余波で揺れた一年でした。友人のいう mess in Washington(ワシントンの混乱)が来年は解消されるでしょうか。人々の間に広がる宗教や民族の違いへの不信感が少しでも緩和されることを願っています。そして、そのためにも、日本人もより閉鎖的にならないようにしたいものです。そのためにも、日本人の語学力の向上も必要なのではと思う今日この頃です。

どうぞよい新年をお迎えください。

* * *

『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ