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「アメリカの裏庭」という意識を嫌うメキシコとは

Latin America is no longer the “US’ backyard” and the US shouldn’t be “lecturing less developed countries” on “rights and freedoms,” while breaching international law with massive surveillance campaign itself.

(ラテンアメリカはもはやアメリカの裏庭ではない。アメリカは新興国に対して人権と自由について講義するなんておこがましい。自分こそ他国を自らの思い通りに管理しようと国際法を常に無視しているにもかかわらず)
RT Newsより

トランプ政権になって、メキシコからの移民の問題が話題となっています。
我々は、メキシコのことを考えるとき、アメリカの存在があまりにも大きく、経済格差もあることから、メキシコをアメリカから切り離してみることを忘れがちです。
 
先日カリフォルニア州からのメキシコの玄関口ティワナに出張しました。車で国境を越えてメキシコに入れば、確かにそこがいかにアメリカにぴったりとくっついた場所であるかを実感します。
 
しかし、日本に帰国しようと、ティワナからロサンゼルスに飛んで、日本への帰国便に乗り継ごうとアレンジ(arrange)を試みたとき、ロサンゼルスまでの旅客機がないことに気付きます。ティワナからはメキシコの首都メキシコシティに飛んで、そこから日本への帰国便に乗り継がなければなりません。
そうなのです。アメリカに接しているとはいえ、メキシコは独立した大国です。ティワナに住む人の目は、アメリカではなくメキシコに向けられていて当然なのです。移民問題等で、我々がついつい誤解しがちな中南米のもう一つの顔。つまりアメリカとはまったく異なるラテンアメリカの文化圏がそこにあり、メキシコシティはその核の一つであるということを、忘れてはならないのです。
 
ティワナからメキシコシティまでは空路で3時間かかります。アメリカの側にある国としてついつい捉えがちなメキシコは、実は国土は日本の5倍以上と広大で人口も日本と同規模。経済的潜在力もGDPでいえば世界11位という大国なのです。メキシコの人がトランプ政権の処置に憤りを感じる理由の一つは、不公正な移民政策への抗議ではないのです。豊かなラテンアメリカの伝統を引き継ぐメキシコという国家のプライドを踏みにじったからなのです。
 
16世紀以降にマヤ文明アステカ文明といった先住民の国家群のあったメキシコはスペインの侵略を受け、その後先住民の文化とスペイン文化が融合します。我々はともすれば、スペイン側が侵略者であると一方的に考えがちですが、当時の中南米はそもそも先住民同士でも勢力争いが続いていました。そうした彼らの目からみれば、スペインの侵攻も、ヨーロッパの中南米の植民地化ではなく、単に今までみたことのない別の部族の侵略と捉えたはずです。
 
いずれにせよ、メキシコをはじめ中南米の広範な地域では、それ以来アングロサクソンのプロテスタントによって開拓されたアメリカとはまったく異なる文化圏が形成されたのです。
メキシコの中央部には、そうした文化の香りが漂う美しい街並みを残す都市が点在しています。銀山の街として、過去にはスペインに収奪されたこともあった古都グワナファト。そこから車で1時間半ほどのところにあるサンミゲル・デ・アジェンデなどを訪ねると、古い教会や昔から変わることのない街並みが旅人を魅了します。中南米の街はどこにいっても中心街に大きな教会と広場があり、そこを核に旧市街が広がります。その風景は、メキシコからアルゼンチンやチリに至るまで、どこの地域にも共通しています。
 
 
そして、ラテンアメリカの国々のほとんどがスペイン語圏です。
英語はなかなか通じません。英語は一部の人がビジネス上のニーズで話す言葉にすぎないのです。そして、ラテンアメリカの人々の多くは敬虔なカトリック信者です。プロテスタントの常識や宗教観が席巻するアメリカとは対照的です。
その昔、これらの地域は、中南米の鉱物資源の恩恵を受けようと、スペイン人が現地の人々を奴隷として酷使した過酷な歴史を経験しています。メキシコの場合、19世紀初頭から独立運動の波が高まり、現在のメキシコに至りました。
 
 
メキシコにディエゴ・リベラという画家がいました。今では世界的に有名になった女流画家フリーダ・カルロとの愛憎劇でも知られる人物です。
1930年代、ニューヨークにロックフェラーセンターが建設されたとき、その中心となるビルの壁画の制作をロックフェラーは彼に依頼しました。ディエゴ・リベラがその壁画にレーニンを描き入れたことから、反共の砦アメリカを代表する資本家ロックフェラーは激怒。壁画は破壊され、ロックフェラーは別の画家にその制作を依頼し直すというハプニングがありました。
以来、ディエゴ・リベラはロックフェラーを堕落した資本家の象徴として風刺したといいます。メキシコ人のアメリカへの意識を垣間見るエピソードです。今、ロックフェラーセンターに描かれている壁画を仰ぎ見れば、リンカーンがそこに登場し、その後マテリアリズムで世界を凌駕したアメリカの栄光を象徴するような風景に圧倒されます。その壁画の場所に、ディエゴ・リベラ のレーニンがあったことなどなかったかのように。
 
アメリカとメキシコ。この二つが対等な、それでいて切ってもきれないアメリカ大陸の大国であることを、アメリカ人の多くはロックフェラーのように、気づいていないのです。
トランプ大統領に代表される多くのアメリカ人が、中南米やカリブ海諸国を「アメリカの裏庭」(America’s backyard)と意識して、思うままに操ろうという意識が横行する現実にそろそろメスがはいってもよいのかもしれません。
 

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アメリカ人と文化の壁を超えてビジネスをするために!

『トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義
山久瀬洋二 (著)
国家・民族・言語・宗教の境界を超えてアメリカ人と対等にわたりあう、80の絶対法則!
欧米をはじめ、日本・中国・インドの大手グローバル会社で100社4500人の異文化摩擦を解決してきたカリスマコンサルタントである山久瀬 洋二氏が、トランスナショナルなアメリカ人を正しく理解し、対等にビジネスするための奥義を、豊富な事例と図解でわかりやすく説明します。英語よりも、MBAよりも、もっとずっと大切なものがここにあります。

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メキシコでの日米談義はグローバルなコメントから

“Car plants from Michigan to South Carolina could pay more for the steel used to make engines and auto parts. Farmers across the Midwest would be a prime target for China, the biggest buyer of some American crops.”

(今回のトランプのアメリカの産業を保護するという関税は)ミシガン州やサウス・カロライナ州の自動車製造業はエンジンと部品の調達コストがあがるだろう。そして、中西部の農家も、最大の作物の買い手である中国の輸入制限という報復の対象になるはずだ。
CNNより

「メキシコ人はプライドが高いんだよ。実は本音でいえば、多くの人はアメリカ嫌い。トランプ政権のメキシコ蔑視の発言はそれに拍車をかけたことになるさ。でも、とはいえ、経済的にはアメリカは大きな影響力を持つ。だから、多くのメキシコ人は英語も勉強しようとしているし、アメリカに移住した親戚や友人にも期待しているんだ。」
メキシコ中部の中核都市グアダラハラのレストランで、そこに暮らすマイケルというアメリカの仕事仲間と夕食を共にしました。
「実はね。メキシコ人で英語をしゃべれるのは人口の5%に過ぎない。その5%の中に英語の初心者もいれば、上級者もいる。いかにこの国で英語が通じないかということがわかるだろう。」
すると、アメリカから一緒にグアダラハラに飛んできて夕食に同席したもう一人の知人が私に質問します。
「でも、メキシコ人はトランプ政権に強く反発しているよね。声にだして。日本ではどうなんだい。今回、鉄鋼やアルミにアメリカは関税をかけると発表したろ。日本人は黙ってそれを受け入れるのかねえ。」
これを受けて、もう一人のアメリカ人が言います。
「あれって確か中国に向けられたものだよね。日本も対象なんだ。でもさ、日本は軍事でもアメリカにタダ乗りしているし、まあ関税でもかけないとバランスが取れないんじゃない。」
「それって、事実に反するんだよ。」
私はそう言って反論しました。
「日米安保条約があって、アメリカ軍は日本に駐留しているけど、その経費のかなりは日本がもっているんだよ。むしろアメリカはその経費によって日本に軍隊をおいて極東でのプレゼンスをもつことができるという利益を受けている。知らなかったの。」
「そんな事実アメリカ人は誰も知らないよ。なぜなら日本はそのことを全然主張しないから。主張しなければアメリカの世論に届かないじゃない。」
確かに彼らのいう通りです。我々が思っているより強く主張して、初めて海外にはじんわりとメッセージが伝わるのだということを、日本人は知らなすぎます。日本人の考え方やスタンスについて、自分たちはちゃんと言っているというものの、実際はそのほとんどが的確に伝わっていないことがあまりにも多すぎるのです。
「じゃあ今回の関税の問題も、日本の声はアメリカには届いていないようだね。」
「そうだよ。韓国やヨーロッパ諸国はアメリカに強く反発した。でも、日本からの声は届いていないよ。韓国やヨーロッパ諸国もアメリカにとっては大切な友好国だろ。でも彼らはいうべきことははっきりいうさ。日本人って何か遠慮しているのかな。それともはっきり言いすぎることは美徳じゃないと本気で思っているんだろうか。だから日本だけはしごを外されたんだよ。」
 
このアメリカ人のコメントには確かに耳を傾ける必要があります。
こちらでは、親しい友人が様々なことで口角泡を飛ばすように議論します。横でみていると喧嘩をしているように見えることも。でも、彼らはそうした議論をしてこそ、相手との理解を深めることができるというスタンスを持っていることを忘れてはなりません。異なる意見を戦わせることは、むしろ良いことなのです。
日本人で流暢に英語をしゃべり、海外通と呼ばれ教養もある人が、この一点を理解していないために、海外との交渉で思わぬ失敗をする場面が多いのです。
軍事や経済での日米の交渉も例外ではありません。正直なところ、こうした点を踏まえることのない、日本の官僚、大企業の幹部の交渉力のなさには苛立ちを感じるほどなのです。
ですから、今でもアメリカでは、日本に対する様々なステレオタイプが横行しています。ここで取り上げた日本タダ乗り論に加え、日本では女性が奴隷のように差別されている。ほとんどの日本人は内気ではっきりものを言わない。日本人は中国や韓国へ戦争責任について何も謝罪していない。日本には言論の自由がないなどなど。
 
確かにこれらのステレオタイプ(Stereotype)には、それなりの原因があるかもしれません。しかし、はっきりと英語で自らのスタンスを語ることのできない日本人が得る不利益は思っているよりも大きいのです。
「おいおい、アメリカ人は利益があると思えば、平気でスタンスを変えるよ。例えば、関税のことでも同様さ。トランプは今ひどい支持率だろ。だからアメリカの産業を自分が支えていることを強調するために、日本をスケープゴート(scapegoat)にするなんて当たり前のことなんだ。事実に反してもね。俺は中東の出身だからよくわかるけど、アラブ系の人がどれだけそんなアメリカの政策の被害にあってきたことか。トランプ政権はその最たるもの。知ってるかい、中東の混乱のため、俺の親戚の住むレバノンには、シリアから200万人の難民が流れ込んでいる。日本はこうしたことに何もしていない。俺たちからみても日本人は大人しすぎる。大人しければ、アメリカはこれ幸いにアドバンテッジ(advantage)をとってもいいと彼らは思っているんだ。」
同じテーブルにいたイラン系のアメリカ人が話し出します。
「いいかい。なんだったっけ今の日本の首相。」
「安倍首相かい。」
「そうそう、アベ。彼がトランプとゴルフをしたから大丈夫だって。馬鹿な話だよ。結果としてヨーロッパの多くの国はトランプを強く批判して、自分の国の利益を守ったじゃない。仲のいいことと、ビジネス上の利益とは違うんだよ。そこのところがどうしてわからないんだい。」
 
グアダラハラの夏の夜は、メキシコの話題から日本人論へと移りながらふけてゆきました。
その話題に加わる私の複雑な気持ち。それが、海外を実感したときに抱くやるせなさなのです。この気持ちを一人でも多くの人が共有できるようになったとき、日本は少しずつ変化してゆくはずです。そんな未来が来ることを祈りたいものです。
 

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外国人とビジネスをするためのテクニックを学ぶなら

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英語ビジネスコミュニケーション術

山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
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*山久瀬洋二の「英語コミュニケーション講座」の原稿は本書からまとめています。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!

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中東と極東の間を動く国際関係の機微とは

“North Korea asks for direct nuclear talks, and Trump agrees.”

(北朝鮮が核兵器について直接の対話を求め、トランプがそれに応じる
(New York Timesより)

トランプ大統領が北朝鮮の金正恩と会談をするという報道に、日本が翻弄されています。
これは外交内政共に、過去にみられない政策の発動によって批判にさらされているトランプ政権ならではのカードの切り方といえましょう。
とはいえ、アメリカの極東に対する外交方針を考えるときに、常に念頭におかなければならないことがあることは知っておきたいものです。
 
我々が意識しなければならないことは、中国のことでもロシアのことでもありません。はたまた北朝鮮のことでも韓国のことでもないのです。それは、アメリカの中東政策の変遷なのです。
 
以前にも解説をしましたが、アメリカにとって最も大切な外交上のプライオリティは中東政策なのです。欧米の利害が複雑に絡み合ってきた中東諸国が長年にわたって不安定であることが、アメリカの外交政策にとって常に最も重要な課題なのです。
ユダヤ系のアメリカ人、さらにはプロテスタント系のアメリカ人の中でも保守派の人々にとって、アラブ諸国とイスラエルとの対立こそが、最も気になることなのです。中東への外交方針のあり方は、そのまま大統領選挙を含む、アメリカの重要な政治的イベントに直接影響を与えるテーマなのです。
トランプ政権は、政権発足以来、イスラム圏に対して常に距離をおき、イスラエルを支持する姿勢を貫いています。ロシア疑惑など様々なスキャンダルに揺れるトランプ政権にとって、最も気になるのはこれ以上失点を重ねて保守派からも引導を渡されることなのです。ですから、トランプ大統領は親イスラエル政策を貫くことで、保守派の人々の支持を繋ぎ止めようとしています。
 
この中東政策を固めた上で、はじめて極東への対応を考えるというのが、アメリカの伝統的な対応なのです。
それは、トラランプ大統領に限らず、彼とは真逆な外交政策に終始したオバマ大統領やそれ以前の歴代政権に共通したアプローチだったのです。
 
しかも、スタンドプレーの好きなトランプ氏であれば、外交での華やかなパフォーマンスを演じる舞台としては、中東より極東の方が遥かに適しているのです。中東問題はしくじると自らの政権基盤を揺るがします。しかも、中東は、ヨーロッパ諸国やロシアが長年にわたり高度な外交の取引の場としてきた地域で、外交の素人ともいえるトランプ氏にとっては派手なパフォーマンスをするにはハードルが高すぎるのです。
 
アメリカの極東政策は、日本での軍事的なプレゼンスを維持している限り、さほど大きな変化は要求されません。日本と韓国とが過去の戦争責任をめぐって不協和音を響かせていたとしても、アメリカにとってはそれはあくまでも日本と韓国の問題で、日米、米韓関係にはなんら影響はないのです。
 
今回、韓国はそこのところをよく意識していたといえましょう。
韓国が北朝鮮に歩み寄ったとき、アメリカは一見不快感を示しました。しかし、それは国連決議などをリードしてきたアメリカとしての建前にすぎなかったのです。アメリカからみれば、確かに北朝鮮は人権問題や核問題など、現代社会の常識とはかけ離れた政策に終始する敵性国家です。しかし、北朝鮮は伝統的に中国の後押しで政権運営をしてきたにもかかわらず、金正恩が指導者になって以来、その関係がギクシャクし続けています。中国の指導で北朝鮮の国際社会への復帰をともくろんでいた習近平政権にとって、金正恩の行動は余りにも異常だったのです。この図式に楔をさし、北朝鮮に北風ではなく太陽としての影響力を発揮する絶好のチャンスとアメリカが考えても不思議ではありません。
 
実際、異常な指導者とされる金正恩も、「異色」な大統領で評判のトランプ氏も、国際社会でより孤独した存在になりつつありました。そんな二人であればこそ、北朝鮮が中国からアメリカになびくことをどちらも心待ちにしていたのかもしれません。韓国はそのことを察知して、オリンピックを利用して先手を打ったことになるのです。
 
これにはアメリカとの磐石な外交関係を自負していた日本も翻弄されてしまいます。中国も同様です。
その上でトランプ氏が見落としていることを指摘するならば、中国と日本との関係がこのことでどう変化してゆくかということでしょう。
これは日本人自身が気付いていないことかもしれませんが、明らかに中国と日本とは雪解けが必要となっているのです。少なくとも中国側はそれを察知し、日本が中国の面子を潰すようなタイミングの悪いことをしないよう、間接的に日本側にメッセージを送っているはずです。
 
外交の世界では時には思いもよらないことが起こります。
戦前、犬猿の仲とされたヒトラーとスターリンが一時不可侵条約を結び、世界が唖然としたことがありました。今回のトランプと金正恩とのメッセージのやりとりも、それに匹敵する混乱への序曲かもしれません。
 
中東問題、極東問題、この二つの外交の極をめぐり、アメリカやロシア、そして中国やヨーロッパの主要国がどのように自らの振り子をふってくるのか。極東での変化の背景にある世界の多面的で複雑なやりとりを、我々ももっと意識してゆくべきなのでしょう。
 

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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アメリカの動向に翻弄されるエルサレムに思いを寄せて

“The president declared Jerusalem as the capital of Israel, delivering on a campaign promise to his evangelical supporters.”
(大統領はエルサレムをイスラエルの首都と宣言。これは福音教会の支持者への公約に基づいている)

New Republic誌より

世界の反発を煽るエルサレムの首都宣言

エルサレムをイスラエルの首都として認め大使館を移動させるというトランプ大統領の決定に、世界が反発しています。この見出しにある evangelical supporters とは、福音教会に属する人々の支持者、つまりトランプ大統領の支持母体だった保守的なキリスト教(プロテスタント系)の人々のことです。

先週、シアトルから友人が来日しました。
彼とはここ数年同じプロジェクトの仕事をしています。
彼はエリトリア Eritrea という国からのアメリカへの移民です。紅海に面し、エチオピアやソマリアなどと国境を接するこの国は、古い歴史を持ちながらも近年は政情不安が続いていました。彼も若い頃にエリトリアからサウジアラビアに逃れ、そこで英語教育関連の会社に勤務しました。その後、私と共通の友人の経営する会社に勤め渡米。今ではシアトルで同社の社長をしています。つまり、彼は中東からアメリカに渡ってきた移民なのです。そして彼は敬虔なイスラム教徒 Muslim です。

そんな彼がエルサレムをめぐるアメリカの対応に憤ります。
京都で、彼とモロッコ人の友人、それに教徒在住のアメリカ人と夕食を共にしました。彼とモロッコ人の友人とは、イスラム教の戒律に従った食事、ハラールフード Halal だけしか食べることができません。そして、仕事をしながらも夕暮れどきには、メッカに向かいお祈りをします。実際は、1日5回はお祈りの時間があるのです。京都にも、そんなイスラム教徒が祈りのために集う場所があることを知りました。

エルサレムはイスラム教徒にとっても、キリスト教徒にとっても、そしてユダヤ教徒にとっても聖地なのです。長い歴史の中ではそこで数々の宗教的な対立もありました。しかし、多くの時代、彼らは共存し、交流も盛んだったのです。

危ぶまれる多民族の共存

京都に住むモロッコから来た友人は、ベルギーのアントワープに住んでいたことがありました。アントワープは、ダイヤモンドの取引で有名な都市で、その取引にはユダヤ系の人々が多く関わっています。エルサレムと同様に、そこでもユダヤ系とアラブ系の人々が同居しているのです。
「ベルギーにいた頃、そんなユダヤ系の奴らとも友達だった。子供同士お互いの家に行って遊んでいたよ」
彼はそう述懐します。
「アメリカでも同様さ。狂信的な人々を除けば、宗教の違いはさほど問題ではなかったんだよ」
そういう私の京都の友人はユダヤ系です。イスラエルといえばユダヤ系の人々が建国した国家です。しかし、実のところ、多くのユダヤ系の人は今回のトランプ大統領の決定に強い懸念をいだいているのです。

“Despite the mess in Washington—the swamp, it appears, not only has yet to be drained, the accumulating muck would appear to be getting stickier and deeper.”
(ワシントンで起きている混乱、でもその混乱の沼は未だにそのままで、汚泥は粘りをまし、深みを形成しているよ)

これは、ユダヤ系のガールフレンドとニューヨークに暮らす私の親友からのクリスマスのメッセージです。彼は、ガールフレンドが精神的に辛い思いをしているといいます。トランプ政権の決定が宗教的な対立を煽り、人々の間に微妙な不信感が生まれつつあるからです。京都に住む友人も同様でした。

アメリカと日本との思わぬ共通点のリスクとは

そして、シアトルから日本を訪れたエリトリア出身の友人もコメントします。
「俺だってアメリカの国籍を持っている。れっきとしたアメリカ人だよ。イスラム教徒でも、ユダヤ教徒でも、アメリカに来て、税金を払って、法律を守ってちゃんと生活している。確かに、我々の文化背景は違うだろう。一部のアメリカの人はそんな文化背景の違いに配慮しない。それがトランプ政権を生み出したんだよ」
彼はそう言って面白いジョークを言います。

「世界中の多くの人は他国と国境を接した国で生きている。だから、バイリンガル bilingual なのは当たり前。いいかい。トライリンガル trilingual、マルチリンガル multilingual なんて言葉があるよね。俺は最低でもエリトリア語、アラブ語、英語を使えるよ。それは当然のことだろ。でだな。1ヶ国語しか話せない人のことを何ていうと思う?モノリンガル?違うんだ、1ヶ国語しか話せない人のことをアメリカ人というんだよ」

つまり、アメリカは大国で、そこに住む人は英語を話していればそれでいい環境にあるため、バイリンガル以上の人が少ないと彼は言いたかったのです。
こう言われた時、私は日本のことをチラッと考え、どうコメントしていいかわからなくなりました。多くの日本人は日本語しか話せないのですから。日本、そしてアメリカの常識は世界の非常識というわけです。

エルサレムに暮らす人は、ヘブライ語(ユダヤ系)、アラブ語やアラブ系の様々な民族の言葉、さらにアルメニア語など多数の言語に接して生活をしています。
だからこそ、エルサレムは、多民族、多宗教、そして多国籍の人々が共存する象徴的な都市なのです。その地位を強制的にユダヤ系の国家の首都とした時に、この地域に長年続くイスラエルとアラブ系の人々との対立はさらに深まってしまうはずです。

2017年はトランプ政権の成立とその余波で揺れた一年でした。友人のいう mess in Washington(ワシントンの混乱)が来年は解消されるでしょうか。人々の間に広がる宗教や民族の違いへの不信感が少しでも緩和されることを願っています。そして、そのためにも、日本人もより閉鎖的にならないようにしたいものです。そのためにも、日本人の語学力の向上も必要なのではと思う今日この頃です。

どうぞよい新年をお迎えください。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

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