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世界を蝕むコロナウイルスと疎外という二つの病根

“EU raises coronavirus alert level to high.”

(EUではコロナウイルスへの警戒レベルを引き上げ)
 

“Turkey says it will not stop refugees headed to Europe.”

(トルコは難民のヨーロッパへの移動を抑制しないと表明)
― いずれも CNN より

国境を越えるウイルス、越えられない難民

 新型コロナウイルスが世界経済に影響を与えようとしていることは、単なる検疫や防疫という課題以上の恐怖となって、人々を惑わしています。
 もともと2010年代に入ってから、世界はだんだんと閉鎖的な方向に進んできました。移民の排斥や自国の利益のために他国との連携を排除しようという新しい心理が、選挙のたびに人々の心を大きく揺さぶりました。
 コロナウイルスの問題は、そうした人間の排他的な意識をさらに刺激しているようにも思えます。防疫のニーズによる対応と差別とをきっちりと分けるように意識することが、今求められていることは言うまでもありません。
 
 そうした混乱の最中に、目下中東から膨大な難民がヨーロッパやトルコに押し寄せていますトルコ政府はそうした難民の受け入れに限界を感じ、トルコとギリシャとの国境を開放し、難民のヨーロッパへの流出を促そうとしました。これに反発したギリシャは国境に警察を配備し、催涙ガスを発射するなどして難民の流入に備えています。
 アサド政権下の内戦、加えてロシアによるISISへの空爆などにより、食料補給や医療という人間にとって基本的な生命維持手段を奪われた人々が、トルコへと流れ込み、今寒波に見舞われているトルコ東部に集結しようとしているのです。テント生活どころか路上で焚き火をして寒さに耐えながら、ギリシャからの救済を待っているわけです。
 
 ところが、EUの中でも経済難に苦しむギリシャとしては、そう簡単に難民を受け入れるわけにはいきません。まして、ギリシャからEU圏内に難民がさらに流れこむことで、国内世論の右傾化を懸念する周辺諸国にとっても事情は同じです。なぜ他国で起こった混乱のつけを我々が払わなければならないのかと、世論は硬化しつつあります。この意識が拡大すれば、様々な国々と経済体制を融合させようというEUの枠組み自体が危機に瀕してしまいます。
 そして、ウイルスがイタリアで蔓延したとき、それまではアジアの人々に向けられていたウイルスを通した偏見がイタリア人にも向けられる、というジョークとも言えず笑うこともできない現実が、ヨーロッパで垣間見られます。
 
 トランプ政権によるメキシコの壁も同様です。メキシコの壁に向かって殺到した人々は、メキシコ人とは限らないと言われています。政治的・経済的混乱の続く中米の人々が、メキシコを縦断して歩いてきたのだと言われています。トルコとメキシコとが置かれている状況には、皮肉な類似点があるのです。
 

防疫・安全が先か、国益・支持率が先か

 そして、国境での緊張と移民の流入に右往左往している世界の国々を、コロナウイルスが伝播しました。
 まさに国境など、ウイルスには関係ありません。アメリカが中国の武漢からの帰国者の防疫体制を楽観視した結果、アメリカ国内でもウイルスに感染した人々が拡大しているという懸念を専門家が指摘すれば、それを聞いたトランプ大統領が渋い顔をするといった醜い状況が、生々しくテレビで中継されます。
 トランプ大統領としては、再選のためにどうあっても好景気を維持しなければなりません。そこにウイルスが待ったをかけようとしたのです。その深刻さをあまり国民に知ってほしくなく、楽観的な見方を強調しようとした同じ場所で、コロナはパンデミック(大流行)の恐れがあると関係者が発言するものですから、大統領は苦笑してしまったのです。
 
 移民の流入に待ったをかけ、アメリカの国益はアメリカ人だけで享受すべきだとして支持率を上げてきたトランプ大統領にしてみれば、ウイルスにも「国境」があってほしいのです。
 同様に、つい最近まで日本と韓国との間には、国境を挟んで厳然とした政治的課題があり、お互いがプライドをぶつけ合ってきました。そんな両国も、海峡という国境を越えて同じウイルスに見舞われ、今やお互いに収束に向けてやっきになっています。
 元々ピラミッド型の組織の中で硬直し、上からの指示なくしては何も判断できない日本の制度が、ウイルス検査の実施を遅らせました。一方の韓国では、慌てて全国的に検査を徹底しますが、感染者の数は増える一方です。もっとも検査が徹底できない日本での実際の感染者の数は未知数であるという事実も忘れてはなりません。
 
 ウイルスの拡大は経済のみならず、東京オリンピックの開催にも影響を与えるかもしれません。しかし、世界中がまさにオリンピックさながらに、自分の国こそウイルスへの対応で優等生になろうと、他国を横目に見ながら指導者たちは国内への政治的アピールに必死です。
 安倍首相も国民をさんざん待たせたあと、遅れに遅れたリーダーシップを国民に向け誇示しています。そこには、トランプ氏と同じ心理が見てとれます。経済への波及は最小限に食い止め、同時に医療対応の不備への国民の怨嗟を処理しようと重い腰を上げたわけです。現場でどんどん判断し危機に対応する、という権限委譲のできていない国の組織の末端は、そんな首相の動向を見ながら、改めてどうしようかとあたふたするという体たらくです。
 

©JIJI PRESS LTD.

閉鎖的な世界に蔓延する人々の不安

 そして、トルコとギリシャの国境では難民が、ウイルスに目を奪われている世界の人々からも放置されたまま、寒さに震えています。恐らく、我々には想像もできない劣悪な環境の中、ウイルスに感染したりインフルエンザで落命したりする人も多いのではないでしょうか。
 
 株式市場も大荒れです。株式市場はそれ自体が経済を即日直撃するものではありません。問題は、株式市場は人々の不安を率直に照らし出し、その不安が経済にじわじわと影響を与えるのです。
 
 内向き志向へと偏りつつある世界の傾向に拍車をかけた、国境なきウイルスの蔓延。この皮肉をこれからどのような気持ちで注視してゆけばよいのでしょうか。
 

* * *

『英語で読む そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー (原著)英語で読む そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー (原著)
孤島の洋館に集められた年齢も職業も異なる10人の男女。招待主は姿を見せず、10人は嵐が襲う島から出られなくなってしまい、やがて、館に伝わる童謡になぞらえた殺人が起こる。誰かが殺されるたび、10体あった兵隊人形も一体ずつ消えていく。ひとり、またひとりと殺されて、ついには…。
今も世界中で映画化やドラマ化がされるミステリーの女王、アガサ・クリスティーの傑作が、日英対訳で楽しめる一冊です。

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つまずいた民主党の新星への期待

“Iowa Caucus Results Riddled with Errors and Inconsistencies.”

(アイオワ州党員集会の結果は、エラーと不確定要素が多すぎて謎のままとなっている)
― New York Times より

 出だしから大揺れに揺れ、党員の選挙結果がなかなかリリースされず不安を煽った、アメリカ大統領選挙・民主党のアイオワ州党員集会。選挙管理の不備で、投票結果が明快にならないままの状態が続いています。これは、民主党としては大きなイメージダウンです。
 しかし今回、そうした状況の中でも、ブティジェッジ氏が僅差でサンダース候補を破り首位となったことは、多くの人を驚かせました。インディアナ州サウスベンドという地方都市の市長から、一挙に大統領候補に躍り出たブティジェッジ氏にどうして票が集まったのかを分析する必要がありそうです。
 

4年前のアメリカ大統領選挙から振り返ると

 まず、民主党には、今回の大統領選挙には絶対に負けられないという悲壮感があります。オバマ前大統領が8年間積み上げてきた様々な政策を180度転換し、独特の手法で内政外交にメスを入れ続けてきたトランプ大統領の再選だけはなんとか防ぎたいというのは、民主党の全ての候補者が抱いている危機感です。そして、この危機感は民主党候補の背景となるリベラル系のアメリカ人全ての悲願でもあるからです。
 アメリカがかつてこれほど分断されたことはないほどに、トランプ政権は今までの余裕のある大国アメリカの姿を大きく転換させ、移民への厳しい制限、中国イランなどへの強硬姿勢などによって多くの人を驚愕させました。
 
 そんなトランプ氏の「アメリカ・ファースト」というスローガンに、製造業が錆つき、職を失い、かつ都市と地方との格差に苦しむ人々が支持を表明しています。アメリカ人の心の中に隠れている、移民への危惧や伝統的なアメリカの価値を喪失することへの危機感が、経済問題と合流し、トランプ氏支持へのうねりを作ったのです。
 
 このトランプ氏と同様に、同じく勤労者や地方の有権者の心を掴んでいたのは、大企業や富裕層に集中する富の分配を主張していた、バーニー・サンダース氏でした。前回の選挙では、アメリカの民主主義のあり方という建前よりも、仕事と地方、そして古くからの居住者が培ってきたアメリカの伝統とその延長での強いアメリカを求めようという、アメリカ人の本音が放出したのです。
 
 従って、前回の選挙のとき、もし民主党からサンダース氏が正式に立候補していれば、トランプ氏が大統領になることはなかったのではという悔いが、民主党の中にはありました。従って、アイオワ州党員集会の時には、オバマ政権の副大統領として知名度があり、いかにも民主党の顔であるといったバイデン氏よりも、ストレートに富の公平な分配を説くサンダース氏がトップになると多くの人は予想していたのです。ただ、彼には高齢であるという弱点がありました。それでもエネルギッシュにトランプ氏の再選阻止に挑む姿には、多くの人が好感を持ったはずです。政治のプロであるバイデン氏や、大都会の実業家としてニューヨークに地盤を持つブルームバーグ氏などは、やはりマンネリ化したプロの政治に飽き飽きし、大都会の実力者にふんぞり返って欲しくないと思う有権者の支持を得られないのではと多くの人が危惧したのです。
 

U.S. Senator Bernie Sanders of Vermont / United States Congress

サウスベンドから彗星の如く現れた若き候補者

 そんなサンダース氏をブティジェッジ氏が抑えたように見えたのが、今回の混乱したアイオワ州党員集会でした。
 彼が市長を勤めたインディアナ州サウスベンドは、もともと民主党の地盤ではありましたが、製造業の工場の閉鎖が相次ぎ、失業者が増え、住宅地には空き家が多かった典型的な中西部の都市でした。一方、この街は学園都市でもあり、そんな錆びついた市街地と学園に勤務する人々との格差や政治意識への微妙な隔たりがある街だったのです。ある意味では、中西部のどこにでもある中核都市の一つでした。
 
 そんなサウスベンドの市長を8年間勤める間に、山積した都市問題を改善し業績をあげたのがブティジェッジ氏です。これは庶民レベルでの広い支持へとつながります。また、彼は高学歴で軍歴もあり、アフガニスタンにも従軍したという大統領になるための「パスポート」もしっかりと持っています。かつ、彼はまだ38歳という若い指導者です。
 同時に、ブティジェッジ氏は自らが同性愛者であることを表明し、配偶者のパートナーの情報も公開しています。その上で、保守的なキリスト教徒の地盤ともいえるミッドウェストの市長として再選されているのです。
 
 1960年に当選は無理だと言われていたジョン・F・ケネディが当選したとき、彼は43歳でした。彼も高学歴で太平洋戦争に従軍した軍歴があり、かつ当時では異例のカトリック系(アイルランド系)の大統領でした。今ではオバマ大統領のように黒人系の大統領も登場し、これからは同性愛者の大統領候補が出たとしてもおかしくはありません。
 おそらく、アイオワでの民主党大統領候補選挙でブティジェッジ氏への票が集まったのは、こうした背景によるのではないでしょうか。そして、この事実はトランプ大統領にとっても確かに脅威となるはずです。
 

Pete Buttigieg speaking at the 2019 California Democratic Party State Convention in San Francisco, CA. / Gage Skidmore

共和党支持者に潜む浮動票を獲得できるか

 問題は、民主党がアイオワ大会のように混乱せず、分裂することなく、一人の大統領候補の元にできるだけ早く力を結集することです。今、一般の共和党支持者の中にも、トランプ大統領への不安を抱く人は少なくありません。東西両海岸の都市部ではそうした潜在的な共和党支持者の多くが、トランプ大統領のみならずペンス副大統領へも強い違和感を抱いています。彼らが民主党の候補に投票することは十分に予測できるのです。
 今のトランプ氏の政策を行きすぎた保守主義と捉えるのか、アメリカの原点回帰と捉えて歓迎するのか、共和党支持者の心理状態も微妙に揺れているのです。
 前回のトランプ氏への弾劾裁判でも、そうした人々の声を代表するように、元大統領候補でもあったミット・ロムニー氏はトランプ氏批判を貫きました。
 
 それでも、現職の大統領として華やかなスタンドプレーを駆使するトランプ大統領は、いまだ有利に選挙戦に臨んでいます。さらに、トランプ大統領は「投票する有権者」の多い地方都市でしっかりと支持者の心を掴んでいます。
 
 同性愛者であることを公表し、若さと地方都市での業績を盾に彗星のように現れたブティジェッジ氏が、こうした人々の心の揺れをしっかりと捉らえることができるのか。今後の民主党の党員集会での動向に注目が集まります。
 

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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ニューヨークの年末はカオスと好景気

“Some folks like to get away. Take a holiday from the neighborhood. Hop a fight to Miami Beach or to Hollywood. But I am taking a Greyhound on the Hudson River line. I’m in a New York State of mind.”

(休暇を取って逃げ出す奴もいるね。マイアミビーチやハリウッドに。でも俺は、グレイハウンドに乗って、ハドソン川に沿って走ればいい。だって、ニューヨークに俺の心はあるんだから)
ビリー・ジョエル ”New York State of Mind” より

マンハッタンを走り抜けるタクシーの車中にて

 年末、ニューヨークに到着して、マンハッタンイーストリバー沿いに通るFDRと呼ばれる高速道路を走っていました。
 といっても、タクシーの後部座席に座って、渋滞の中、雨にくすむ川を眺めながら、この原稿を書いていたのです。
 タクシーの運転手は、渋滞にため息をつきながら、電話で仲間と話しています。言語は分かりません。英語ではなく、おそらくバングラデシュかどこかのローカルな言葉なのでしょう。彼らには、彼らの移民ネットワークがあるのです。
 
 ニューヨークは、いつ訪れても相変わらずの印象です。車の渋滞、空港の混雑と、様々なトラブル。クレイジーな街だと多くの人が批判します。
 しかし、なぜかそんなニューヨークに戻ってくるとほっとするのは、ここに16年間住んでいたためでしょうか。
 それだけではないかもしれません。この街は、表向きは何も変わっていないようですが、その内側は常に変化しています。ちょうど、人間の外見は変わっていなくても、内臓は常に進化しているような、あるいは頭脳がどんどん変化しているような、極めて特別な印象をニューヨークは持っているのです。
 
 これは大きな視野で見れば、アメリカ一般にも言えることでしょう。
 几帳面な日本の社会から見れば、大雑把で、この国のサービスは決して良いとは言えません。自分から激しくアピールしない限り何も動きませんし、ある面ではとても理不尽なことも起こります。
 しかし、アメリカの内臓や頭脳は常に進化を続けています。それは、たとえトランプ大統領が移民を制限しようが、世界との関わり方を変えようが、一時的なインパクトはあるものの、大きな流れを変えることはできません。
 
 相変わらずだなと思う背景には、この街では常に大きな工事があちこちで行われ、交通が制限され、そのために渋滞などの不便がつきまとうからかもしれません。無秩序に古いものが新しいものへと変わるため、歪みがあちこちに出るわけです。
 しかし、このことからもお分かりのように、それは常に新しいものがそこに生まれている証拠なのです。
 
 我々日本人は、ともすればこうしたアメリカの姿を見過ごしてしまいます。
 整然と物事が進化するのではなく、各々がそれぞれのニーズと欲望、そして期待によって勝手に変化を続けるのです。そして、その変化に対して、公はそれに沿った法則を作り、政策を発議するのです。民間の方が官より常に先に進み、国を変えてゆくのが、この国の特徴とも言えましょう。
 

好景気に沸くニューヨークのホテルでの一幕

 さて、そうこうしているうちに、ニューヨークのホテルに到着しました。
 ホテルは、アメリカの景気の良さでごった返しており、チェックインにも長い列ができています。こちらのニュースによれば、クリスマスシーズンから年末にかけて家族旅行に出かける人は過去最高とのこと。
 
 これは、中国との摩擦などが続きながらも、アメリカの経済状態が最高潮であることを物語っています。当然、この景気が続くならば、今年の大統領選挙でトランプ大統領に追い風となるはずです。とはいえ、それを防ぎたい人が多くいることは、アメリカに来れば肌感覚で分かってきます。今回の弾劾裁判の後の審判がどうなるか、上院の中で共和党がどう反応するか。大半の人は、大統領は失職しないと言い切っています。ただ、共和党の中でどのような風波が起こるかは、興味深いものです。
 
 さて、そんな好景気に揺れるニューヨークのホテルで、幸い私はメンバーなので、チェックインの長い列に並ばなくてもよいはずだと思って安心していました。私と数人の顧客はそれを期待して、メンバーの特別ラインに並びます。ところが、いつまで経ってもその列が進まず、メンバーの人はむしろ置き去りにされているのです。
 やっと自分の番になって、フロントに問題点を指摘すると、「私は今、ランチが終わって戻って来たばかりだから、そんなこと言われてもどうしようもないわよ」という応対です。
 やれやれ、やはりニューヨークは変わらないなと思いながら、それでもチェックイン後、マネージャーを呼んで、起こった事を冷静に時間軸に沿って説明しました。
 そして、「これはホテルのサービスのためにお話ししていることだし、私のメンバーとしてのプライドのためにもお話ししていることです。特別なことをお願いしているわけではないのですよ」と丁寧に話します。そして最後に、冷静な落ち着いた言葉で「でも、これには怒りを感じました」と説明します。
 するとマネージャーは、「お客様のおっしゃることはごもっともです。我々はフロントの誰がお客様の応対をしたか、調べればすぐに分かります。ちゃんとフィードバックをしておきます。それから、この部屋に移動していただけますか」と言って、24階のスイートルームを用意してくれたのです。
 
 アメリカでは、何か起こったとき、感情的に話すより、事の経緯を冷静に描写する方がはるかに相手を動かすことができるのだということを実感しました。というのも、私はマネージャー個人を責めているのではなく、ホテルのサービスの課題を指摘しているのだ、というものの言い方が相手に伝わった方が、相手もしっかりとビジネスとして受け取って対応してくれるからなのです。
 

進化を続けていくニューヨークの街並み

 こうして、ニューヨークの夜は更けてゆきます。
 今、ニューヨークはハドソン川に面した地域の開発が進み、昔はヘルズ・キッチンと呼ばれ恐れられていた地域が、モダンなショップやビジネスセンターが立ち並ぶエリアに様変わりしているとのこと。景気の実態を調べに、その辺りを散歩しようかと思っています。
 

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『心が伝わる英語の話し方』しゅわぶ 美智子 (著)心が伝わる英語の話し方』しゅわぶ 美智子 (著)
英語でコミュニケーションするということは、頭の中で日本語を英語に置き換えるだけでなく、「文化の違い」や「思考・行動システムの違い」、そして「言語構造の違い」を理解することが必要になってきます。
本書では、多文化コミュニケーションで実行すべきポイントや準備を詳細に学ぶことで、英語文化の中での表現方法や行動様式に適応する力を身に付けます。
日本文化の影響を色濃く受けている日本人が陥りやすい外国人とのコミュニケーションの問題点を、グローバルな視点で見つめ直せる一冊です。

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北朝鮮問題と素人好みのポピュリズム政権が生み出す「脅威」の関係

©ロイター / Leah Millis

“With North Korea’s deadline for American concessions fast approaching, the North announced Sunday that it had conducted a ‘very important test’ at a missile-engine site.”

(アメリカとの譲歩の期限を目前に、北朝鮮はミサイルのエンジンに関する「極めて重要なテスト」を行ったと表明)
― New York Times より(一部編集)

プロの政治家たちが掲げる理想「ネオコン」とは

 先週末、自宅でケーブルテレビを見ていると、たまたま History Channel北朝鮮を特集した番組に出くわしました。そこで専門家が口を揃えて、すでに誰も北朝鮮を追い込むことができなくなった、と述懐しているのが印象的でした。
 トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官として、北朝鮮問題にも深く関わったことのあるジョン・ボルトンも、そうしたコメントをした一人でした。彼は、歴代のアメリカの政権が現在の北朝鮮を育ててしまったと、アメリカの朝鮮半島への関わり方を厳しく批判しています。
 
 ジョン・ボルトンは、アメリカの政治家の中でも極めて保守色が強く、オバマ政権で進められてきたイランキューバなどとの融和政策を痛烈に批判していました。従って、彼がトランプ政権のチームに加わったときは、どこまでアメリカがイランに対して強硬な対応をとるのか、多くの人が危機感を抱いたものでした。しかし、ボルトン氏は、今年の秋にトランプ大統領とも袂を分かち、政権から離脱してしまいます。
 
 トランプ政権の不思議なところは、彼の政策を象徴するような右寄りの政治家が、政権のチームに加わっては去ってゆくことです。
 そのことを理解するには、トランプ政権の成り立ちを振り返る必要があります。
 まず思い出したいのは、今世紀初頭にアメリカで台頭し、世界の注目を浴びたネオコン(Neoconservatism)という考え方です。ネオコンは新保守主義とも呼ばれ、ジョージ・W・ブッシュ政権などを支えていた人々の多くがそうした主張をしていました。彼らはアメリカという国家の理想のためには、他国に対して軍事介入をも辞さず、強いアメリカとそうしたアメリカを支えてきたキリスト教的な価値観に回帰し、移民政策に対しても多様化するアメリカ社会にブレーキをかけようとしていました。
 
 従って、トランプ政権が誕生したとき、共和党支持者の中でネオコンの流れを汲む右派の人々は、トランプ大統領が表明したアメリカ・ファーストという政策を強く支持してきたのです。ジョン・ボルトンもその一人でした。
 しかし、トランプ大統領は、彼らから見るとあまりにも素人臭く、政策への一貫性が見えてきません。やがて、ネオコンの政治家たちは、トランプ大統領の個性について行けずに乖離し、政権チームから離脱し始めたのです。
 
 実は、トランプ政権は今までのプロフェッショナルによる政治を嫌っていた、ごく普通のアメリカ市民の支持によって誕生した政権なのです。一般の人々の中でも、リーマン・ショック以来失業に怯え、移民の流入で地域社会が変化してゆくことへの不安を抱えた、保守層の支持によって誕生した政権なのです。言葉を変えれば、素人臭さこそが、トランプ大統領の人気を支えてきたのです。それに対して、ネオコンを標榜する人々の多くは、トランプ政権が発信してきた考え方には共感しながらも、彼ら自身はプロの政治家だったのです。
 

©Oliver Contreras / Pool via Bloomberg

素人目線が生み出したトランプ「ポピュリズム」政権

 今、アメリカのみならず、世界中でプロの政治家への不信感が蔓延しています。
 前回の大統領選挙は、ヒラリー・クリントンというまさに政治、外交のプロと、素人で分かりやすい発言で有権者を取り込んだドナルド・トランプとの、プロ対素人の闘いでした。
 多くの有権者には、複雑な国際関係のしがらみや利害関係など、どうでもよいことです。自らの収入が安定し、地域社会が今までと同じように維持されれば、それでよしということになります。移民がアメリカにやってくる理由や、移民の多様性による社会の進化がアメリカを支えてきたと、プロの政治家が理想を語っても、自分たちの職や社会を守るためにはよそ者を安易に受け入れるべきではないと主張した方が分かりやすく、説得力があるように思えるわけです。この素人臭さこそが、ポピュリズム政権を生み出すエッセンスだったのです。
 
 ネオコンの政治家は、同じ考え方を持っていたとしても、その底流には伝統的なアメリカの政治のあり方へのイデオロギーがありました。合衆国憲法独立宣言に端を発し、強く大きな政府が良いのか、地方分権が良いのかという、アメリカの伝統的な政治理念における対立の一つの極に、ネオコンの存在がありました。彼らは世界情勢にも目を向け、その上で、アメリカの利益を守るためには強硬な手段も必要だと主張しました。その結果、ジョージ・ブッシュ元大統領はイラクと戦争を始め、サダム・フセイン政権を崩壊させました。
 
 しかし、トランプ大統領を選んだ人々は、こうした世界におけるアメリカのあるべき姿などに興味を持ってはいないのです。むしろ、アメリカは強くて当然で、世界一のアメリカであるはずなのに、自分たちの地域社会は経済的に困窮し、治安の上でも混乱していると考えます。ですから、トランプ大統領の単純明快な発言が彼らの心の琴線に触れたのです。そして、仕事を守るためにメキシコとの国境に壁を作ろうと思ったのです。ネオコンブームとポピュリズムとの違いは、このプロと素人との発想の違いや溝を見ればよく分かってきます。
 
 トランプ政権の誕生と、その後の様子に目を向ければ、ポピュリズムが一般大衆の政治不信を源流として、次第に大きな濁流へと発展してゆく様子が見えてきます。今、この濁流が世界中を席巻しそうな勢いです。そして、日本も例外ではありません。アメリカの場合、共和党民主党がお互いをチェックすることで、どちらから大統領が選ばれても、そこには一定のバランスが保たれていました。そうしたバランスそのものが政治の醜い取引であると、多くの人々の目には映っていたのでしょう。
 

©2019 Dow Jones & Company, WSJ

世界秩序を保ってきたパワーバランスの崩壊を前に

 トランプ大統領は、自らがそうした背景で誕生した素人出身であるということを否定するために、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)と電撃的な会見を実現させました。しかし、現時点でそうした政治ショーはその後の成果とはなっていません。
 北朝鮮が核を保有する以上、彼らを追い詰めすぎるとまずいものの、彼らの政策を容認するのも危険であると専門家は見ています。だからこそ、そもそも核を持たせるまで傍観していたアメリカの歴代政権を、ジョン・ボルトンは厳しく批判したわけです。政治的立場への是非はともかく、そこに見えてくるのは妥協と謀略とを繰り返してきたプロの政治家を、ネオコンのプロが批判したという皮肉な現実です。
 
 ちょうどアメリカが、共和党と民主党という二つの政治プロ集団によってバランスを保っていたように、20世紀後半は米ソ冷戦による政治的駆け引きが、皮肉にも世界のバランスを維持していました。
 しかし、冷戦終結後、そのパワーバランスが崩壊した隙をついて、中東には過激なテロ集団が、極東には北朝鮮という核保有国が生まれたのです。彼らには通常の国際常識にのっとった交渉が機能しません。
 世界は、ポピュリズムとテロ集団という、極めて対処が困難な政治的環境の中でもがいているのです。
 

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グローバルに生きるってこういうことだ!

『GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)GOING GLOBAL: Beyond Japan and the U.S.』河北常晴 (著)
30年にわたり米国企業でアメリカ内外の戦略業務を展開後、国連ボランティアとしてアジア諸国を回った日本人の冒険譚。
世界的規模の競争と共生が進む現代社会において、グローバルな生き方を目指す人々の「生きた教科書」となる体験談を英文で楽しむ1冊。

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世界を気にしなくなったアメリカと、その波紋に揺れる世界の今後は

“Trump’s trade war spooks markets as White House waits for China to blink.”

(トランプの経済戦争に市場はおどおど。ホワイトハウスは中国が混乱することを期待しているのか。)
― New York Times より

石油にわくアメリカ経済と中東情勢

 イラクアブドルマハディ首相が辞意を表明したことが、中東の新たな不安要因として注目されています。治まらないテロや貧困、イスラム教内の宗教上の対立、そして政府の腐敗などに、市民がしびれを切らしてデモを起こしました。そのデモの鎮圧によって、400人近くの犠牲者が出ていると言われています。
 
 本来、戦後から何度となく続く中東での戦火に常に翻弄されてきたのは、石油資源を中東に頼る、日本をはじめとしたアジアの国々でした。
 それでいて、中東で政治的なつばぜり合いをしてきたのは、常にアメリカとロシア、それに元々の宗主国ともいえるイギリスやフランスでした。
 
☆ ☆ ☆
 
 先日、アメリカのオクラホマ州に出張しました。
 同地の空港に降り立ったとき、滑走路の横で石油の掘削が行われていたことに驚かされました。30年前にオクラホマシティを訪ねたときとは打って変わり、街には新しい高層ビルが建ち、さびれていた中心街も綺麗に整備されています。石油景気なのです。
 この石油景気は、アメリカにトランプ政権が誕生したことと無縁ではありません。そして、中東の今後の不安要因とも無縁ではないのです。
 
 2014年3月28日の記事で、私はアメリカの未来を変えるフラッキングと呼ばれる新しい掘削技術で、アメリカが世界有数の産油国に変貌する可能性を紹介しました。そのときはロサンゼルス・タイムズの記事を参照しました。
 今、アメリカは石油の需要を自国の生産で補えるのです。フラッキングによる安価な掘削技術が、オクラホマやテキサスなどで油田ブームを巻き起こしているのです。
 言葉を変えれば、アメリカは中東の産油国を気遣う必要がなくなり、過去に中東戦争での悪夢となったオイルショックに怯える必要がなくなったのです。
 
 このことは、アメリカが中東において軍事的、政治的なプレゼンスを維持する根本的な動機が希薄になったことを意味します。それが、トランプ政権が「アメリカ・ファースト America First」と豪語し、諸外国の秩序維持に介入することの愚かさを強調して、大統領に当選した背景の一つとなったわけです。リーマン・ショック以来、長くアメリカを覆っていた不景気から脱却し、中国に堂々と貿易戦争を仕掛けるまでに経済が回復した背景も、石油や天然ガスといった国家の基盤となる資源供給の構造の変化が、大きく後押ししていたことは言うまでもありません。これは、日本ではあまり知られていない事実です。
 
 中東の不安が他人事となったことは、アメリカの極東政策にも影響を与えるでしょう。石油の供給ルートであるアラビア海からインド洋、そして南シナ海に至る公海を、アメリカが高額な経費を支払って守る意味も少なくなります。アメリカが日本をはじめとしたアジア諸国と、「石油」という絆で結ばれた同じ利害を共有する仲間ではなくなるからです。
 

バブルの波が押し寄せるアジアの国々

 このアメリカでの景気回復によって生まれた資金は、様々な金融商品として世界を貫流します。日本のような低金利政策の続く国にとって、高い利子での資金の運用は魅力的です。世界中で、以前リーマン・ショックを生み出した構想に似た資金供与が行われています。業績の悪い企業に対して、利息を高くしてリスクヘッジしながら資金を融資する「低格付け債権」が流通しているのです。こうした不安定なバブルが、石油によって生まれた富の運用先として活用されていることは、低金利政策をとる日本にとっては極めてリスクの高いことなのかもしれません。
 
 オクラホマで目の当たりにした景気は、トランプ政権にとっても追い風です。しかも、ウクライナなどが絡んだスキャンダルにトランプ大統領がどれだけ耐えられるかは未知数です。もしも大統領の弾劾が行われ、上院で共和党に造反組が現れたとして、実際に大統領を失職させるだけの票数が集められるかはまだまだ何とも言えません。
 その中で、大統領としては、新たなリーマン・ショックだけはなんとか避けたいと思っているはずです。そのために America First という政策をどう他国に押し付けてくるか。日本にとっても韓国にとっても、はたまた台湾や東南アジアにとっても先の読めない状況が続いているのです。
 
 一つだけ期待したいことは、アメリカは基本的にキリスト教と民主主義の二つのモラルによって政治が左右されている国であるということです。その側面から見た場合、最も右寄りにあるトランプ政権でも、香港での混乱、そして香港市民を不安に陥れている中国の強大化に対して、有権者レベルで強い反発意識があることを無視はできないはずです。このアメリカ人の価値観が、中東や極東からの急速なアメリカのプレゼンスの退潮にブレーキをかけるのでは、と楽観する声があることも事実なのです。
 
☆ ☆ ☆
 
 そんな様々な世界の要因を、今マニラのホテルの一室からCNNなどのニュースを見ながら考えています。
 マニラにあるモール・オブ・アジアという巨大なショッピングモールは、クリスマス商戦初日ともいえる週末を迎え、買い物客でごった返していました。このモールで売られる家電や衣料品は、フィリピンのほんの一部の人しか購入できません。彼らはいまだに月収3万円から5万円という賃金で働いています。しかし、そんな実態が嘘のように、人々はマニラを代表する海辺のショッピングモールに繰り出しています。
 
 裁かれるトランプ政権、安定しない中東情勢、デモや騒乱に揺れる香港や南米各地の政治情勢が、新たに世界的な信用不安が顕在化することで、一つのベクトルに収れんしたとき、フィリピンのような発展途上国は、その影響を国家レベルで受けてしまいます。そうなれば、世界中の人々が一層内向きになり、自国の利益を優先したブロック経済が横行するかもしれません。
 

モール・オブ・アジア

来る混乱の予兆を前に我々が考えるべきことは

 2019年はこれから起こる様々な混乱の予兆の年だったのかもしれません。
 人々は、ほんの数年先の世界すら予測できない状況にあるのです。その点では、我々は中世や近世からほとんど進化していないといっても過言ではないのでしょう。
 フィリピンから帰国したら、再びオクラホマを含むアメリカ中西部への出張が待っています。
 

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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