前回の MAN の考察に続いて、お話ししたいのが、年末の休日のこと。
日本では、基本的にお正月を中心に、皆が一週間前後休みをとりますね。
欧米では、クリスマスに連休をとって、そのあとお正月は1日のみが休みです。
アメリカでは、11月の感謝祭で4連休をとる人がほとんどで、その後年末まで、クリスマス商戦になだれ込みます。クリスマスは、その中心となる休日で、多くのアメリカ人は感謝祭と同じく数日間の連休を楽しむのです。
一方、この時期、旧約聖書の世界では、ハヌカーの行事があり、これは今でも世界中のユダヤ教徒によって祝われています。
これは、紀元前165年の12月に、エルサレムを支配していたセレウコス朝から、ユダヤ教徒がエルサレムの神殿を奪還したことにちなんだお祭りです。
セレウコス朝は、あのアレクサンダー大王が東はインドまで拡大していった領土の一部を継承し、シリアからペルシャ一帯を支配した王朝でした。その王朝の衰退期におきた、ユダヤ人への迫害に対して決起したことを祝ったのが、ハヌカーの祭りです。しかし、その後しばらくしてこの地域はローマ帝国の一部となり、以後ユダヤ系の人々は祖国を失うことになったのです。
そんなユダヤ系の人の多くが19世紀から20世紀にかけて、帝政ロシアをはじめ、ヨーロッパ各地から、アメリカに移民してきました。
彼らの多くは、今でもアメリカにあって、この時期に8本に分かれた燭台に火を灯して、ハヌカーを祝います。
さらに、アメリカにはアジアや中近東からも多くの人がやってきて暮らしています。もちろん、こうした人々の多くは、キリスト教徒ではありません。
アメリカでは60年代の公民権運動以来、マイノリティ (少数者) の権利の伸長ということが、国家的なテーマとして話題になってきました。ユダヤ系の人々やアジア中近東からの来た人々は、アフリカ系の人々や中南米からのイスパニックと呼ばれる人々と共に、マイノリティにほかなりません。
その中で、クリスマスシーズンを国民的な行事として楽しむためには、キリスト教一色に統一することは宗教の多様性を認める上でまずいのではという議論があったのです。
今「Merry Christmas」と書かれたクリスマス・カードを使用する人はだんだんと少なくなり、「Happy Holidays」「Season’s Greetings」などといって、キリスト教色をださないカードが多くなっているのは、そうした背景によるものなのです。
宗教の対立はともすれば悲惨な流血の原因でもありました。
そんな様々な背景の人が一緒に暮らす社会で、多くの人の価値を尊重するための妥協案が、こうしたカードの表記にも現れているというわけです。
しかし、そうはいってもクリスマスの伝統をしっかりと守りながら、そのラインの上にこうした新しい表記でカードを交換するようにしていることから考えると、やはりアメリカはキリスト教社会なのだなと意識してしまうのも、事実です。ちなみに、大統領も就任時には聖書に手をおいて誓約をするように。
アメリカ社会の本音と建前が微妙に交錯する有様が、このあたりから見えてきます。
Man の意味が時とともに変化したように、カードなどの表記方法も変化してきたのです。