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冷戦時代の面影は今や残影か? ウクライナ問題へのアメリカの苦境

【海外ニュース】

Let me ask you one simple question. Do you Ambassador Zorin deny that USSR has placed or is placing medium or inter medium range missile in the site of Cuba? Yes or No! Don’t wait for the translation! Yes or No!
(1962年10月25日国連総会でのやりとりから)

さて、実に単純な質問です。ゾリン大使、あなたはソビエトが中距離、あるいはそれに類する弾道弾をキューバに配備したことを否定するのですか。是か否か。通訳を待たずに即答願います。是か否か!

【ニュース解説】

ウクライナ問題を考えるとき、私は 1962年に当時のソ連とアメリカとの間を震撼させたキューバ危機 Cuban Missile Crisis を思い出します。
フィデロ・カストロによる社会主義政権がキューバに成立し、それを支援したソ連が核ミサイルをキューバに配備したことから、米ソ関係が一触即発の緊張関係に陥入ったのがキューバ危機でした。このとき、大統領であったジョン・F・ケネディは、核戦争を示唆する強硬姿勢をもってぎりぎりの交渉を制し、ソ連との交渉を乗り切りました。すなわち、ソ連はキューバからミサイルを撤収し、アメリカはキューバへ政治介入を行わないという合意がなされたのでした。

キューバ危機から52年を経た現在、ウクライナにロシアが介入し、その一部を自らの管理下におこうとしています。
しかし、今アメリカはキューバ危機の折にみせたような、ソ連を封じ込めた巧みな外交のカードを切れずにいます。
一つは、当時のソ連は基本的にポストスターリン時代で、極端な冷戦環境を回避していこうという意向が強かったことがあげられます。逆に現在のロシアはソ連崩壊以降失ってきたパワーの回復という国のムードに押されています。

また、アメリカも冷戦時代に他国の主権に直接間接に介入してきた経緯はあるものの、今は中東やアフガニスタンでの後始末に追われているのが現状です。
つまり、内政的にも外交的にもロシアにとってカードを切りやすくなっているのです。

キューバ危機の時代、まだ冷戦とはいえ核のバランスはアメリカ優位の状態でした。ソ連はキューバにミサイルを配備することで、やっとアメリカを射程にいれることができました。それに対して、アメリカは本土からソ連を攻撃することも可能であり、NATO の加盟国や日本の基地を利用すれば、ソ連への核攻撃はいつでも始動できたのです。実際、キューバ危機ではトルコに配備されたミサイルからの攻撃が米ソのもう一つの緊張源となりました。

今のウクライナ問題をみると、キューバ危機の時代と比べアメリカの影響力が弱まっています。また現在の多様な国際環境にあって、アメリカの弱みを知ったロシアが強引にことを運ぼうとしている様子がみてとれます。既成事実を造る事で、後戻りできない環境をつくろうとしているのです。
こうしたとき、ロシアは様々な外交取引をしているはずです。国連で拒否権 veto power をもっている以上、安全保障理事会 The United Nations Security Council でロシアが孤立することは、さほど問題ではありません。むしろ非公式の場で、例えば中国の極東でのアクションに譲歩をするといったやりとりがないという保証はありません。そうした意味からも、尖閣諸島の緊張は、これからしばらくの間が最も注意喚起となるでしょう。ロシアができるなら、中国が仮に尖閣諸島問題で強行な行動にでても、実質上アメリカは動けないだろうという判断が成り立つからです。

そこで、この見出しの文章に注目しましょう。これは、キューバ危機の折、国連でアメリカの国連大使がソ連の大使を糾弾する場面です。YouTube にその緊迫した場面の映像がありますので、ご参照ください。

YouTube『UN Security Council

最初にソ連の国連大使ワレリアン・ゾリンがロシア語で短く語ったあと、アメリカのアンドレ・スティーブンソン大使が、キューバにミサイルが配備されている証拠を握った上で、ソ連大使にその事実を肯定するのか否定するのか、強く迫っているのがその場面です。YouTubeでは4分目あたりからその場面がはじまります。
これは、国際交渉では圧巻です。アメリカの強い姿勢が大使の語気にあふれています。そして、その3日後にソ連の首相フルシチョフは、このアメリカの強い姿勢に押されるままに、妥協案を受け入れたのでした。第三次世界大戦が回避された瞬間です。

今回のロシアのウクライナでの姿勢は、このキューバ危機での外交的敗北の復讐劇をしているかのような印象すらもってしまうほどに強硬です。そして、その向こうに、同盟国との経済制裁以外にカードを持てない変貌した、そして困惑したアメリカの指導者バラク・オバマの顔が見えてきます。

当時よりも遥かに複雑になった現在の世界にあって、こうしたグローバルな危機にあたって日本の外交力がどこまで通用するのか。52年前の国連でのアメリカ大使の発言とそれにのらりくらりと対応するソ連大使のやりとりから、その檜舞台がどれだけ厳しくかつ狡猾であるか、実感させられるのは、私だけではないでしょう。

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