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カストロは独裁者か英雄か。評価は時代とともに

【海外ニュース】

Fidel Castro, the fiery apostle of revolution who brought the Cold War to the Western Hemisphere in 1959 and then defied the United States for nearly half a century as Cuba’s maximum leader, bedeviling 11 American presidents and briefly pushing the world to the brink of nuclear war, died on Friday. He was 90.
(New York Timesより)

西側諸国に 1959年に冷戦をもたらし、半世紀にわたってキューバの最高指導者としてアメリカに公然と反抗し、11代にわたってアメリカの大統領を翻弄し、一時は核戦争の瀬戸際にまで世界を追い込んだフィデル・カストロが金曜日に逝く。90歳だった。

【ニュース解説】

大統領選挙でのドナルド・トランプの勝利に大きな影響を与えたフロリダ州での選挙。この州には数多くのキューバ系移民が住んでいます。
彼らは、社会主義政権下のキューバから亡命してきた人々です。
政治的な亡命だけではなく、経済的な理由によりアメリカに流れ込んできた人々も多数います。旧ソ連が崩壊し、経済的支援を受けられなくなったキューバは深刻な経済難に見舞われたのです。

そんな移民の多くが今回の大統領選挙で共和党を支持したかどうかはわかりません。ただ、アメリカに渡ってきた移民が、キューバの現政権に対して懐疑的な見解を維持していることは事実です。
ですから、キューバ革命の父フィデル・カストロの死去にあたり、トランプ次期大統領が「独裁者の死」としてカストロを批判したとき、そのコメントを支持した人々がフロリダには少なからずいたはずです。

オバマ政権は、フィデル・カストロが政権を奪取して以来断絶状態にあったキューバとの関係を正常化しました。今後、トランプ政権がそんなキューバとの関係をどう維持してゆくのかは未知数です。

フェデロ・カストロは 20世紀を生き、世界を変えた革命家の最後の生き残りでした。彼は学生時代から社会主義運動に打ち込みます。キューバは、スペインの植民地を経て、その後アメリカの強い影響下におかれ、強い経済支配を受けていました。彼はそんなキューバの変革を求めたのです。
活動の途上、武装蜂起に失敗して投獄。辛うじて死刑を回避し、メキシコに亡命します。
そして、1956年にたった 82名の同志とキューバに再上陸します。キューバ政府の攻撃を受け、仲間の多くが戦死。カストロは生き残った18名で革命を遂行します。
民衆の支援と政権側の軍隊の士気の低下もあり、3年後には首都ハバナの攻略に成功。キューバを社会主義国に変えたのでした。

傀儡政権を崩壊させたことで、アメリカはカストロに対して暗殺を企て、経済封鎖を断行します。そんなカストロを支援したのがソ連でした。キューバというカリブの小国が冷戦の荒波にもまれながら、隣の大国アメリカと対峙したのです。

確かにカストロは独裁者で、時には強権も発動し歓待する者を弾圧しました。しかし、一方でキューバを追い詰めたのはアメリカでした。
アメリカの反カストロ政策がなければ、キューバはソ連に傾斜してゆくことはなかったはずです。冷戦の時代、アメリカは文字通り「世界の警察官」として、アメリカの利権を侵害するとされた政権には厳しい態度で臨んでいました。キューバ革命の後も、アメリカはインドのインデラ・ガンジー、チリのサルバドール・アジェンデなど、社会主義に傾斜した指導者には経済的、政治的な介入を続けていました。アジェンデ政権は、実際にクーデターによって崩壊しています。カストロは、暗殺こそ免れましたが、政権樹立間もないキューバ政府にとって、アメリカとの経済関係が凍結されたことの打撃は深刻だったのです。

インドの場合、70年代にパキスタンとインドとが政治的に対立したとき、パキスタンとの関係を維持するために、アメリカはインドに譲歩を強いようとしました。それを当時の首相インデラ・ガンジーが拒否したことで、アメリカはインドへの経済制裁を行ったのです。
そのことが、インドをソ連に走らせる原因となりました。
ソ連は、パキスタンと緊張関係にあるインドの状況を見据えながら、社会主義政権が芽生えようとしていたパキスタンの北の隣国アフガニスタンに侵攻をして、ソ連寄りの政権を維持させたのでした。
このことによるアフガニスタンでの反政府運動のねじれが、最終的にアフガニスタンにイスラム教原理主義政権が生まれ、その流れの延長が、アメリカでの同時多発テロ、それに対抗したアメリカのアフガン空爆、イラクへの侵攻へとつながり、その後の ISIS の拡大という脅威に直結するのです。
このように、現在の世界情勢に直結する複雑なもつれのほとんどは、冷戦時代のアメリカとソ連の覇権をめぐる争いにその原因をみることができるのです。

当時、多くの国々は、アメリカかソ連かの二者択一を迫られていました。そして、その対応を誤ると、国内は混乱し、政権も崩壊するリスクがあったのです。
こうした国際政治の歴史のからくりをみてゆくと、カストロが社会主義革命を成し遂げた時代を、今の尺度で簡単に評価できないことがわかってきます。

ドナルド・トランプのカストロの死に向けたコメントは、こうした過去のいきさつを無視した表面的なものであるといえます。そんな無知はおいておくとしても、一国の元首となる人である以上、少なくとも 20世紀を生き抜いた革命家への一抹の敬意があってもよいのではと思うのです。
カストロへの評価、彼がコントロールしたキューバの評価には賛否があります。
それを検証するとき、冷戦時代の米ソの覇権争いからもたらされた様々な矛盾も、改めて検証する必要があるのです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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