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「無気力試合」に象徴される中国報道が語るもの

【海外ニュース】

Shame and Indignation in China as Its Olympians Come Under Fire
(New York Timesより)

オリンピック出場選手が避難を浴び、恥と怒りに中国は揺れる

【ニュース解説】

今日はスポーツの話題です。
ロンドン・オリンピックでは、超大国中国の活躍が相変わらず目立っています。金メダル数でも6日の段階では31。アメリカを引き離して世界一位。
しかし、一方バドミントンで自らにより有利なチームとの試合を目論み、敢えて無気力試合をした中国人選手に激しい批判が集中し、ついに選手の資格が剥奪されるという問題もおきました。

無気力試合のことを、多くの英字紙は throwing a game という言葉で表現しています。A pair of badminton players was disqualified for blatantly throwing a game(露骨に試合を投げ捨てたことによって、バドミントンのペアは資格を剥奪された)とニューヨークタイムズでは解説しています。

急速に経済成長した中国に定着する様々なイメージについては枚挙に暇がありません。例えば、著作権を守らず、すぐに人の真似をする中国。政府が言論の自由を抑え、国民世論をコントロールする中国。マナーの悪い成金趣味の観光客の多い中国などなど。前回の北京大会では、開会式で熱唱した少女が実は口パクだったことが世界に報道され失笑の対象になったこともありました。

確かに、欧米西側諸国では、共産圏でかつアジアで台頭著しい中国の失態を喜んで報道する傾向があるようです。日本がバブルに酔いしれていた当時も、日本経済への羨望とともに、閉鎖的な市場に守られる日本。あるいは観光客がブランド品を買いあさる日本といったイメージが盛んに報道されたものでした。

実際、中国に言論の自由がないことはまぎれもない事実。先日アモイに出張したおり、ツイッターが規制で使えず、グーグルも機能しないという、検閲の厳しさに私も怒りを覚えたものでした。
しかし、そんな事実と共に、欧米の論調に、経済とのアンバランスに喘ぐ中国を嘲笑するかのような意図が見え隠れすることもまた事実。中国はこうした海外の批判には当然過敏に反応します。
バドミントンの結果と並行して、水泳で驚異的な記録で話題を呼んだ葉選手へのドーピング疑惑に対しては、中国各紙は「欧米メディアの悪意に満ちた報道」と怒りを露にしていました。何かというと中国を批判することを先行させる欧米言論界。しかし、葉選手の疑惑は unfounded accusations 根も葉もない批判だったようです。
また、ニューヨークタイムズの報道によれば、中国国内では、オリンピックのあり方そのものへの批判や、今回の問題をおこした選手やコーチへの批判はネット上で飛び交っても、国家が主導して obsessive quest for gold(金メダルの獲得に血道をあげる)中国のスポーツ界に対する批判は余り見受けられなかったといいます。

では、一体欧米メディアや世論の中国批判の背景にあるものは何でしょうか。根強いアジアへの偏見に加えて共産主義へのアレルギーが、こうした報道の背景にあるのでしょうか。少なくとも一般読者の中には台頭する中国への嫉妬がないわけではなさそうです。そして、そんな嫉妬に過敏に反応する中国。そこには確かに言論を抑圧し、強い経済をまず優先させようと躍起になる中国の現実もあるようです。

オリンピックでおきた今回の悲劇。その向こうに見えるのは、そんな世界の中国への複雑な思いや恐怖と、アヘン戦争 Opium War 以来、欧米列強に虐げられ、それを克服して今や偉大なドラゴンとなりつつある中国のプライドとの確執が見えかくれするように思えてならないのは、私一人でしょうか。

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