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杞憂か現実か? 政府と民間へむけられた仁義なき国際諜報活動

【海外ニュース】

Chinese Hackers Pursue Key Data on U.S. Workers
(New York Times より)

中国のハッカーが、アメリカ政府の職員に関する重要なデータを追跡

【ニュース解説】

つい数日前に開催された Annual Strategic and Economic Dialogue (米中戦略経済対話) で、アメリカと中国が最も角を突き合わせたテーマは、中国の諜報活動へのアメリカの指摘でした。
90年代、大国の仲間入りへと成長を続けていた中国には二つの泣き所がありました。一つは海軍。脆弱だった海軍力は、近海の防衛すらおぼつかないと中国政府の幹部は当時嘆いたものでした。そして、もう一つの課題が丸腰ともいわれた中国の機密管理能力でした。中南海の密室で幹部が語った会話が翌日には巷の噂になっているといわれるほどに、中国政府は自らの機密保持、諜報能力の無策ぶりに悩んでいたのです。

それから20年を経た、2014年。中国は上海市に、加熱するサイバー戦争に対応するために、世界各地をターゲットにしたサイバー情報収集の拠点を稼働させているといわれています。一つは上海市の真ん中、彭江路1号11幢の301号室にあるといわれる人民解放軍のユニット 61486 という部隊。そしてもう一つが高層ビルの並ぶプートンの大同路にあるビルの 12階で活動するこれも人民解放軍のユニット 61398。
2014年5月19日に、Federal Grand Jury (アメリカ連邦大陪審) は、この 61398 に所属する5人の中国人が、アメリカ政府や民間のコンピュータシステムに侵入し、ハッカー行為を行ったとして告発します。
デルコンピュータやロッキードなどといった、アメリカの中枢産業の情報、そして、今年の3月には連邦政府の職員のデータがあるネットワークに侵入し、数えきれない個人情報、さらに高級幹部の ID などの最高機密情報へアクセスした証拠があるというのです。中でも Electronic Questionnaires for Investigations Processing (調査のための電子質問表)、通称 e-QIP と呼ばれる連邦政府職員が職員の個人情報にアクセスするためのシステムへ侵入した形跡が指摘され、アメリカの諜報部隊を震撼させたのでした。
もちろん中国側はそれを否定し、嫌疑に対して厳重に抗議します。

一方、アメリカはアメリカで、スノーデン事件によるアメリカの諜報活動の実態の漏洩の火消しに苦慮しています。
ドイツはメルケル首相の携帯電話を傍受していたという問題にはじまり、現在に至るまで様々な嫌疑をアメリカに向けています。中国がこうしたアメリカの「不始末」を鬼の首をとったように取り上げながら、反論した様子が目に浮かぶようです。

つい数日前、ベネッセから 2000万人以上の個人情報が流出したのではないかというニュースが報道されました。しかし、こうした規模とは比較にならない、国家単位でのサイバー諜報合戦が大国の間で展開されているわけです。
注目されるのは、現在では国家機密と同様に民間の機密が重視されていることです。アメリカも中国も、民間の技術、企業の世界戦略に関する情報に耳をそばだて、それを自国の経済活動と、それとリンクした国家戦略に活用しようと躍起になっているのです。

世界は今、こうしたハッカーによる potential intrusion、つまり不法侵入の可能性に怯え、お互いに疑心暗鬼になっています。
それは国際戦略で利害の対立するアメリカと中国、そしてロシアだけの問題ではなく、いわゆる西側の同盟国同士の間にも不信感を募らせています。お互いにいかにイニシアチブをとり、既得権益を増やすかというテーマにおいては同じ戦場の中におかれているのです。

今年の5月、CNN のカメラが 61386 部隊のある建物にカメラを向けた瞬間に、人民解放軍の兵士が血相を変えて施設から飛び出し、全速力でカメラをのせた車両に駆け寄ってきた映像が世界に流されました。
いわゆる 007 のような国家間のスパイ活動と、産業スパイとの境界線がなくなった現在、いかに民間企業が自らの情報を管理するかというテーマは極めて大切です。
例えば、ベネッセの漏洩問題などがおきたとき、杞憂であると一蹴せずに、その漏洩事件の背景の糸を緻密に手繰り、真相のその向こうにある真実へとトレースしてゆく必要があることを、我々は知っておくべきです。
サーバーとネットワーク、そしてプログラミングというコンピュータでの情報管理の3つの専門領域に対する繊細な管理体制への意識に最も疎遠なのは、政治家、そして官僚なのではないかと不安を感じるのは私だけではないかもしれません。

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