【海外ニュース】
Republicans Win Senate Majority for First Time in 8 Years
(New York Times より)共和党は上院で8年ぶりに多数派となる
【ニュース解説】
最近、アメリカでは様々なニュースがありました。
例えば、11月の初めには尊厳死 die with dignity の権利を認めるオレゴン州で、末期癌に苦しむメイナードさんという 29歳の女性が、医師の扶助よって安楽死をとげ、その是非をめぐって論争がわきおこりました。
では、このニュースは、モラルという倫理はさることながら、政治的にみて、今回の選挙とどのような関係があるのでしょうか。
実はオレゴン州は伝統的に民主党が強く、そうしたリベラルな州であれば、末期癌などで苦しむ人の尊厳死を認める法律が存在しているといえるのです。
今回、オバマ政権への不人気により、アメリカの中間選挙 midterm election で共和党が勝利し、上院で長年多数派 majority だった民主党が少数派 minority に転落し、上院下院とも共和党が席巻することになりました。
共和党は、どちらかというと保守色が強く、票を獲得するために穏健派からかなり右寄りまで、広い層へアピールしながら議員を州や連邦政府に送ってきました。彼らの多くは、尊厳死、さらいは同性愛の権利などには否定的です。
とはいえ、今回の選挙の結果がオレゴン州の尊厳死の権利を認める法律に影響を与えるのかというと、応えは「否」です。
ご存知の通り、オバマ大統領は連邦政府の行政の長です。そして連邦議会は日本でいう国会にあたります。
州の自治を重んずるアメリカでは、一般的な法律はほとんど州によって決められ、人々の生活のあり方には、それぞれの州の法律が影響を与えています。
メイナードさんの尊厳死の問題も、連邦政府の規制の対象ではないのです。
また、仮に連邦政府の法律と州政府の法律とが異なった場合でも、連邦政府に執行権限はあるものの、現実は州政府の法律の執行が優先されています。例えば、大麻の使用を合法化しているアラスカやオレゴン、そしてコロラド州の州法と連邦法との対立がその事例となります。
もっといえば、大統領は外交と軍事においてその存在感が強調され、内政においては、日本人が考えるほど、有事などの非常時を除けば、司法上の権限を除き、行政上は大きな権限をもっていません。
では大統領の司法上の権限とはどのようなものでしょうか。
連邦法によって、例えば異なる州政府の間での訴訟や、外交上の法的な問題の是非を判断する連邦最高裁判所の判事は、大統領が上院の3分の2以上の同意によって任命する権限をもっています。
また、三権分立の精神によって、大統領には連邦法を議会が可決した場合の拒否権も与えられています。そしてオバマ大統領は民主党です。
ということは、メイナードさんの死を認めたオレゴンの法律が覆される確率はゼロなのです。
そうした意味では、今回の選挙の結果がそのままアメリカの政治に大きな変化をもたらすかというと未知数の部分が多いといえましょう。
とはいえ、去年、連邦政府の行政上の予算が下院を通過せず、予算の執行ができなくなった事例があったように、議会と大統領が対立することから、様々な摩擦が生じないわけではないのですが。
よく言われる、オバマ大統領の不人気とは、中東やロシアでのはっきりしない外交政策からきたアメリカ外交の退潮現象。エボラ出血熱の防疫体制への対応の遅れ、さらに一般的にアメリカ経済の回復への期待感のずれなどによるものがほとんどとなります。
しかし選挙に勝利した共和党も楽観できません。
今回の議会での勝利を元に、2年後の大統領選挙に向けて候補を擁立しなければならないのですが、カリスマ的な候補がなかなか見当たらず、それが大きな課題となっています。
逆に民主党は外交戦略にも長けたヒラリー・クリントンへの期待が日に日に高まっているのが現状です。
民主党と共和党との伝統的な2党体制は、こうしたアメリカの三権分立の制度、そして地方分権の原則によって、全体としては抑制のきいた政治運営を可能にしています。
しかし、この2党の対立が、議会に反対のための反対を促し、行政力や指導力を停滞させているという批判が国民から噴出しているのも事実です。
そして、それが国民の政治離れに拍車をかけます。
多くの民主主義国家に共通した課題が、アメリカにもあるというわけです。