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アメリカ人の意識にある頑なさとは

“Christians remain by far the largest religious group in the United States, but the Christian share of the population has declined markedly. In the past seven years, the percentage of adults who describe themselves as Christians has dropped from 78.4% to 70.6%. “

(アメリカでは今でもキリスト教徒が最大多数を占めているがその比率の減少が顕著。この7年間で自らをキリスト教徒であるという成人は78.4パーセントから70.6パーセントに減少した)
Pew Research Centerの報告書より

アメリカの社会を理解するには、最初にアメリカにやってきた移民集団の背景を理解することが極めて大切です。なぜ、今この話題に触れるかといえば、それが現在のトランプ政権を産みだし、右傾化するアメリカ社会のメカニズムを解き明かす鍵になるからです。
 
よくアメリカはプロテスタントの国だといわれます。1620年にピルグリム・ファーザーズ(Pilgrim Fathers)と呼ばれる人々が、メイフラワー号に乗ってアメリカに移住してきたことが、現在のアメリカの起源であるかのようにいわれていることもその原因でしょう。それは的外れな感想ではありません。
 
アメリカにはバイブル・ベルト(Bible belt)と呼ばれる地域があります。アメリカの東西両海岸に挟まれた内陸、東はインディアナ州あたりから西はコロラド州やネブラスカ州あたりに至る中西部と呼ばれる広大な地域がそれにあたります。ここでは、様々なプロテスタント系の人々が独自のコミュニティを維持しています。また、アメリカ南部からテキサス州に至る地域も同様です。
 
宗教改革ののち、ヨーロッパは旧教であるカトリックと新教と呼ばれるプロテスタントとの確執で長年にわたり戦火が絶えませんでした。こうした混乱や迫害を逃れ、多くのプロテスタント系の人々が、新天地を求めてアメリカにやってきたのです。彼らにとって未開の地であったアメリカは文字通り神によって与えられた地promised landということになります。17世紀から19世紀にかけて、イギリス系のみならず、オランダ系、ドイツ系、フランス系など、ヨーロッパ各地からそうした人々が海をわたってきたのです。
 
やがて彼らの宗教観がアメリカ人の価値観となり、後からきた移民もそうした価値観や道徳心に馴染むことによってアメリカ人となっていったのです。
ヨーロッパからの移民が奴隷として酷使した黒人や、同じく迫害によって海をわたってきたユダヤ系、さらにヨーロッパではプロテスタントと対立していたカトリック系の人々も例外ではありません。アメリカ社会に溶け込むには、そうした人々もマジョリティとしてアメリカ社会の礎を築いてきたプロテスタント系移民の抱くモラルや価値観を受容することが必要だったのです。
 
では、そもそもプロテスタントとはどういう人々であったのかを我々は理解する必要があります。プロテスタントとは文字通り「抗議protestする人々」です。ヨーロッパ社会に君臨していたローマカトリックが長年にわたって築き上げた権威や儀式を放棄し、本当の信仰は個人と神との関係によるもので、儀式や権威に従えばそれでよいというのはおかしいのではと抗議した人々がプロテスタントと呼ばれる人々です。
 
ですから彼らはローマ教会の拘束から自らを解き放ち、自活するために勤勉に労働をし、神に対して直接責任をもって信仰を貫こうとします。彼らにとっての教会とは、そうした思いを抱く人々が集う場所で、ローマカトリックのような権威の象徴としての教会は排除されるべきだと主張します。もっといえば、プロテスタントの人々は、原点的な信仰に回帰しようとした人々なのです。
 
長年彼らはそうした宗教観を堅持してきました。その結果、皮肉にも彼らはアメリカ社会の土台を形成する最も保守的な人々となったのです。勤勉、貞節、聖書への無条件の服従など、現代社会を造ってきたアメリカの多くの人々が、我々が考えるより遥かに頑なに自身の価値観に固執しきたのです。
 
そんな価値観を維持する人々が、グローバル化の波の中で、社会そのものが変化し、今回紹介したヘッドラインのようにキリスト教への信頼そのものが揺らぎつつあることへ危機感を抱いたことが、アメリカの右傾化の背景にあるのです。日本がアメリカと付き合ってゆくときに、この点を見落とさないようにすることが大切です。トランプ大統領自身、プレスピテリアンPresbyterianというスコットランド系のプロテスタントの伝統をルーツに持っています。共和党、民主党を問わず、歴代の大統領のほとんどが彼と似た背景をもっていることを理解しておかなければなりません。
 
そんなアメリカと対立するイスラム社会。実は、イスラム教もその起こりはプロテスタント活動と似ていました。キリスト教と同じルーツを持つ神への信仰を重んじ、個人個人が敬虔に宗教行為に勤しもうという宗教改革運動がイスラム教の起源だったのです。個人の信仰を大切にするために、偶像崇拝を拒否し、祈りと節制を重んじたイスラム教と、プロテスタントとは極めて似た行動様式をもっているといっても過言ではありません。それゆえに、お互いに対立したときには頑なに相手を排除しようとしているのでしょう。
 
アメリカは多様な移民によって成り立つ多民族国家です。
それだけに、彼らをまとめる国家としてのビジョンが求められました。それゆえにアメリカ人はプロテスタント的なモラルを善悪の基準とし、それを普遍的な意識へと育てあげたのです。
一見自由でカジュアルなアメリカ人の行動様式の内側にこの頑なさがあること。これに気づくと、アメリカ社会のメカニズムがより明快に見えてくるのです。
 

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