“Remember that Time is Money. He that can earn Ten Shillings a Day by his Labour, sits idle one half of that Day, tho’ he spends but Sixpence during his Diversion or Idleness, ought not to reckon That the only Expence; he has really spent or rather thrown away Five Shillings besides. “
有名な Time is money という言葉は、ここから生まれました。
この一言は、アメリカの文化を知る上でもとても重要です。
初期のアメリカに渡ってきた人々の多くはプロテスタントでした。ベンジャミン・フランクリンも例外ではありません。彼自身、どれだけ熱心に宗教を信奉していたかはわかりません。しかし、一つだけ言えることは、彼の心の中にはプロテスタントしてのモラルがしっかりと受け継がれていたということです。
そのことを象徴するのが、ここに紹介する手紙なのです。
勤勉に働くことで、常に社会の中での信用によってお金を稼ぎ、生活をしてゆくことが彼らの理想的な信条でした。
アメリカ人は、waste of time という言葉をよく使います。つまり、自分の時間を無駄にすることを極度に嫌います。時間を無駄にするということは、自分が生産し、財産を造る時間を失うことを意味しているからです。
「そうね、ベンジャミン・フランクリンね。でも、プロテスタントの人たちって、言っていることは正当かもしれないけど、ちょっと退屈な人たちなんだよね」
スペイン人の友人が最近このベンジャミン・フランクリンの文章に対してこのように語ってくれました。
「だって、彼らって、真面目すぎる。楽しむことを知らないんだよ。僕はカトリック系のルーツを持っているけど、我々は、彼らのように真面目一辺倒じゃないさ。食事を楽しみ、人と語り、感情豊かに暮らしたいんだ」
これに対して、プロテスタント系のドイツ人の友人は、
「僕は仕事とプライベートとは、しっかりと分けて、仕事については妥協せず、細かいことまでしっかりとロジックをもって進めたいね。でも、仕事が終われば、夕食は家族と一緒。仕事仲間と食事をしたり、プライベートな生活を分かち合ったりすることはまずないね」
とコメントします。
「スペインではランチが大切。ランチにしっかりと時間をかけてワインを飲んで、仕事関係の人とも交流する。だから、通常ランチは1時過ぎからはじまって、3時間ぐらいかけるかな。その上で夜は8時か9時ごろまで働くよ。ドイツ人のように、ビジネスとプライベートとをきっちり分けたりしないよね」
こうスペイン人の友人に批判されたドイツ人もそうした中の一人です。本人は今では宗教にはまったく興味がないといっていますが、彼の心の中にはベンジャミン・フランクリンと同じプロテスタントの価値観が脈々と息づいているのです。
「そうだよね。確かにプロテスタントの人々は、お金に細かい」
スペイン人の友人は続けます。
「どんなに裕福な人でも、ここでこうした方が、2ドルセイブできるなどといったことをよく口にする。時間を無駄にしないことと、お金をセイブすること。この二つは彼らにとって極めて重要な価値観なのさ。そうした意味では我々南欧の人たちは怠け者だと思われているかもね」
こうしたプロテスタントとしての発想が、アメリカの発展の基盤となったと指摘する人は少なくありません。
「プロテスタントの人々の言っていることは理屈としては確かに正しいかもね。宗教改革の頃、確かにカトリックは腐敗していたかもしれない。でも、彼らはその後も勤勉、禁欲をモットーとした宗教観にずっとこだわった。今でもね。それが驚きなんだよ。僕たちカトリック系の人々の方が、よほど宗教に対しては柔軟になったし、多様性も受け入れるようになった。でも、プロテスタント系の人は、自分の信条が常に正しいと主張する。今のアメリカの保守層なんてみんなそんな人たちなんだよ」
スペインの友人のこの皮肉を聞けば、確かにDonald Trumpに投票した人の多くが、そうした保守派のプロテスタントであったことと符合します。
Time is money と言いながら、waste of time を嫌い、さらにbusiness is business という言葉でプライベートとビジネスとをしっかり分けて行動する、という典型的なアメリカ人の信条は、あの宗教改革の頃からヨーロッパで育まれてきたことになるわけです。
個人が勤勉に貯蓄し富を増やすことは、人から搾取することで富を蓄えることとは根本的に違うことだと彼は主張します。
この主張が、その後の奴隷解放、さらにはアメリカのいうfreedom や equality というスローガンに繋がってゆくわけです。
そうしたスローガンが建前だけの偽善なのか、それともプロテスタントの本当の良心なのか。そこのところは、アメリカやイギリスといったプロテスタント系の大国の歴史をみるならば、そのどっちもありうるということが本音なのではないでしょうか。
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『日英対訳 アメリカQ&A』
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊
地域ごとに文化的背景も人種分布も政治的思想も宗教感も違う、複雑な国アメリカ。アメリカ人の精神と社会システムが見えてくる!