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ニューヨークの年末はカオスと好景気

“Some folks like to get away. Take a holiday from the neighborhood. Hop a fight to Miami Beach or to Hollywood. But I am taking a Greyhound on the Hudson River line. I’m in a New York State of mind.”

(休暇を取って逃げ出す奴もいるね。マイアミビーチやハリウッドに。でも俺は、グレイハウンドに乗って、ハドソン川に沿って走ればいい。だって、ニューヨークに俺の心はあるんだから)
ビリー・ジョエル ”New York State of Mind” より

マンハッタンを走り抜けるタクシーの車中にて

 年末、ニューヨークに到着して、マンハッタンイーストリバー沿いに通るFDRと呼ばれる高速道路を走っていました。
といっても、タクシーの後部座席に座って、渋滞の中、雨にくすむ川を眺めながら、この原稿を書いていたのです。
タクシーの運転手は、渋滞にため息をつきながら、電話で仲間と話しています。言語は分かりません。英語ではなく、おそらくバングラデシュかどこかのローカルな言葉なのでしょう。彼らには、彼らの移民ネットワークがあるのです。
 ニューヨークは、いつ訪れても相変わらずの印象です。車の渋滞、空港の混雑と、様々なトラブル。クレイジーな街だと多くの人が批判します。
しかし、なぜかそんなニューヨークに戻ってくるとほっとするのは、ここに16年間住んでいたためでしょうか。
それだけではないかもしれません。この街は、表向きは何も変わっていないようですが、その内側は常に変化しています。ちょうど、人間の外見は変わっていなくても、内臓は常に進化しているような、あるいは頭脳がどんどん変化しているような、極めて特別な印象をニューヨークは持っているのです。
 これは大きな視野で見れば、アメリカ一般にも言えることでしょう。
几帳面な日本の社会から見れば、大雑把で、この国のサービスは決して良いとは言えません。自分から激しくアピールしない限り何も動きませんし、ある面ではとても理不尽なことも起こります。
しかし、アメリカの内臓や頭脳は常に進化を続けています。それは、たとえトランプ大統領が移民を制限しようが、世界との関わり方を変えようが、一時的なインパクトはあるものの、大きな流れを変えることはできません。
 相変わらずだなと思う背景には、この街では常に大きな工事があちこちで行われ、交通が制限され、そのために渋滞などの不便がつきまとうからかもしれません。無秩序に古いものが新しいものへと変わるため、歪みがあちこちに出るわけです。
しかし、このことからもお分かりのように、それは常に新しいものがそこに生まれている証拠なのです。
 我々日本人は、ともすればこうしたアメリカの姿を見過ごしてしまいます。
整然と物事が進化するのではなく、各々がそれぞれのニーズと欲望、そして期待によって勝手に変化を続けるのです。そして、その変化に対して、公はそれに沿った法則を作り、政策を発議するのです。民間の方が官より常に先に進み、国を変えてゆくのが、この国の特徴とも言えましょう。

好景気に沸くニューヨークのホテルでの一幕

 さて、そうこうしているうちに、ニューヨークのホテルに到着しました。
ホテルは、アメリカの景気の良さでごった返しており、チェックインにも長い列ができています。こちらのニュースによれば、クリスマスシーズンから年末にかけて家族旅行に出かける人は過去最高とのこと。
 これは、中国との摩擦などが続きながらも、アメリカの経済状態が最高潮であることを物語っています。当然、この景気が続くならば、今年の大統領選挙でトランプ大統領に追い風となるはずです。とはいえ、それを防ぎたい人が多くいることは、アメリカに来れば肌感覚で分かってきます。今回の弾劾裁判の後の審判がどうなるか、上院の中で共和党がどう反応するか。大半の人は、大統領は失職しないと言い切っています。ただ、共和党の中でどのような風波が起こるかは、興味深いものです。
 さて、そんな好景気に揺れるニューヨークのホテルで、幸い私はメンバーなので、チェックインの長い列に並ばなくてもよいはずだと思って安心していました。私と数人の顧客はそれを期待して、メンバーの特別ラインに並びます。ところが、いつまで経ってもその列が進まず、メンバーの人はむしろ置き去りにされているのです。
やっと自分の番になって、フロントに問題点を指摘すると、「私は今、ランチが終わって戻って来たばかりだから、そんなこと言われてもどうしようもないわよ」という応対です。
やれやれ、やはりニューヨークは変わらないなと思いながら、それでもチェックイン後、マネージャーを呼んで、起こった事を冷静に時間軸に沿って説明しました。
そして、「これはホテルのサービスのためにお話ししていることだし、私のメンバーとしてのプライドのためにもお話ししていることです。特別なことをお願いしているわけではないのですよ」と丁寧に話します。そして最後に、冷静な落ち着いた言葉で「でも、これには怒りを感じました」と説明します。
するとマネージャーは、「お客様のおっしゃることはごもっともです。我々はフロントの誰がお客様の応対をしたか、調べればすぐに分かります。ちゃんとフィードバックをしておきます。それから、この部屋に移動していただけますか」と言って、24階のスイートルームを用意してくれたのです。
 アメリカでは、何か起こったとき、感情的に話すより、事の経緯を冷静に描写する方がはるかに相手を動かすことができるのだということを実感しました。というのも、私はマネージャー個人を責めているのではなく、ホテルのサービスの課題を指摘しているのだ、というものの言い方が相手に伝わった方が、相手もしっかりとビジネスとして受け取って対応してくれるからなのです。

進化を続けていくニューヨークの街並み

 こうして、ニューヨークの夜は更けてゆきます。
今、ニューヨークはハドソン川に面した地域の開発が進み、昔はヘルズ・キッチンと呼ばれ恐れられていた地域が、モダンなショップやビジネスセンターが立ち並ぶエリアに様変わりしているとのこと。景気の実態を調べに、その辺りを散歩しようかと思っています。

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