It wasn’t about making a political statement-human rights are non-negotiable. That should be taken for granted, but it still isn’t the case. That’s why this message is so important to us. Denying us the armband is the same as denying us a voice. We stand by our position.
賛否を巻き起こすドイツ代表チームの抗議行動
しかし、同時にドイツ国内でワールドカップへのムードが今ひとつ盛り上がっていないことも、いろいろなメディアが報じています。その背景には、開催国のカタールでワールドカップの設備を建設する際に、海外からの労働者が劣悪な条件で働かされて犠牲者が出たこと、さらにカタールが同性愛者などへの差別をしているということへの抗議が広がっているためです。
ドイツのサポーターの中には、カタールでのこうした人権の問題に抗議してあえて応援もしなければ、テレビ観戦もしないという人も多くいました。
選手は、腕章をつけて抗議をしようとしましたが、その行為が政治的でありスポーツに政治を絡めることはもってのほかだとして、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長がこれ以上抗議を続けるならドイツチームの出場を停止すると警告したのです。そこでドイツチームは腕章をつけずに、選手は試合の前に全員が口に手を当てて抗議の意思を示したのでした。
イスラム圏には、今でも同性愛者や女性に対する差別が根強く残っています。そして、イスラム圏の人々のみならず、世界の人々の中には、それを異なる文化の問題として、人権問題をユニバーサルなコードとして押しつけてくることに反感を抱いている人も多くいます。よくアメリカが自由や民主主義を盾にとって、中国やロシア、ミャンマーなど様々な国を批判することが、傲慢な価値の押しつけだと思われるように、今回のドイツの行為も賛否両論の議論の対象となりました。
アメリカとは一線を画すドイツの民主主義のあり方
そうした過去への反省から、ドイツは他の国以上にEUの理想にも強いイニシアチブを取ろうとし、ウクライナ問題でもロシアからのガスの供給が止まりそうなリスクに晒されながら、ウクライナへのサポートを続けようとしているわけです。このスタンスは、民主主義を旗印にして資本主義国として海外への進出を厭わないアメリカのあり方とは一線を画したものといえましょう。
アメリカが自由主義をモットーに、経済原理で世界に進出し、同時にその利権を守ろうとするあまり他の主義主張を抱く国家への制裁や軍事的な圧力などを繰り返しているなか、ともすれば、アジアやアフリカ諸国の中には反米感情が根深く残っています。それが火を吹いたとき、権威主義の甘い誘いに傾斜する国家や民族も目立ってきます。アフガニスタンからのアメリカ軍の撤退や、中東での政情不安の背景にも、そうした民衆の不満がベースにあることを忘れてはなりません。また、ウクライナ問題でも、ウクライナへの同情は強いものの、アメリカのスタンスに対して世界中の人が同意しているかというと、そうではありません。
ですから、今回のドイツの行為を、こうしたアメリカやイギリスなどの政治的スタンスと混同してしまうことは、大きな誤解の原因となるのです。
島国で、平和を謳歌してきたこともあり、長年強い政治意識を持つこと自体がそれとなく憚られる雰囲気が社会を覆っています。それとは対照的に、ドイツは戦後東西に分断され、旧東ドイツでは厳しい言論統制もあり、冷戦の緊張に直接晒されてきました。ウクライナがほんの700キロ東にある国であることへの脅威も日本人には分かりにくいドイツ人の意識なのです。
世界の課題を前に日本が無関心でいてはいけない
ワールドカップというスポーツの祭典の背景にある我々日本人の課題、つまり政治や国際情勢への無関心という課題を、ここで改めて考えてみたいものです。
* * *
『音読JAPAN(ヤーパン) ドイツ語でニッポンを語ろう!』
浦島 久 (著)、チャールズ・ドゥ・ウルフ (訳)
ドイツ語で日本について話す表現力と、自分の意見を発信する力が身につく! そのまま会話に使える“現代の日本社会”をテーマに集めた、バラエティに富んだ35のトピックで行うドイツ語音読学習書。ただ文章をうまく読むための音読ではなく、「ドイツ語で自分の意見を言えるようになる」ことを目指した学習ステップで構成されています。各トピックに対する賛成・反対意見を参考にすることで、「日本」についてただ紹介するだけでなく、自分の意見も伝えられるようになります。より一般的で、自然な内容だから実践的なドイツ語力が身につき、さらに日本人として必要なさまざまな知識も得られる一冊です!