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ウクライナ問題で世界情勢の台風の目となりうるアフリカの今

France blocking gas pipeline project from Algeria/Spain to Germany.

(フランスが、アルジェリアからスペインを経由してドイツに至る天然ガスのパイプライン構想に立ちはだかる)
― Cosmos Chronicle より

攻勢を続けるロシアが狙うアフリカとの連携

 ロシアがウクライナに侵攻してから一年になろうとしています。
 一時は首都キーウの陥落も懸念された戦況をウクライナ側はなんとか反転させ、その後ウクライナ東部を中心に戦闘がこう着状態に陥っています。しかし、2月になってロシア側が攻勢に出るのではないかという情報もあり、戦況は予断を許さないというのが現状でしょう。
 2月初旬の段階でわかっているだけでも、市民7,110人が殺害され、その中には438人の子どもも含まれているといわれていますが、実際の数はさらに多いのではと懸念されます。
 
 最近、欧米の軍事専門家によって、ロシア軍が住宅地に打ち込んでいるミサイルを分析した結果が公表されました。それによると、弾道弾の多くが軍艦を攻撃するためのものであったことがわかり、このことからロシア側の武器不足の現状が指摘されています。民間人30万人を動員し、その戦力化のための準備が完了したことが、ロシアの攻勢を予測する背景にあるとはいえ、ロシア経済が今回の戦争でどれだけ打撃を受けているか、まだ正確な情報は入ってきません。
 
 では、ロシアは何を拠り所にして自国の戦争遂行能力を維持しようとしているのでしょうか。その一つが、長く続く欧米による経済支配、さらには過去の植民地や軍事支配への恨みを抱いている地域との連携の促進です。
 ロシアはウクライナへの侵攻という国際法違反を犯す一方で、欧米が世界に呼びかける結束を、新たな欧米による支配網の拡大であるというスローガンにすり換えて、様々な国との交流を進めているのです。
 
 その大きなターゲットがアフリカです。日本人はアフリカに対してあまりにも無知であるといえましょう。多くの日本人はアフリカでの出来事は遠い国の、しかも発展途上国のごたごただろうという程度にしか意識していません。ですからマスコミもアフリカ情勢はまれにしか取り上げません。
 しかし、アフリカはヨーロッパへの経済依存を脱することができないまま、内部ではそうした国の在り方への不満も充満している世界にとって極めて不安定な要素をはらんだ地域なのです。しかも忘れてはならないのが、そうしたアフリカにある膨大な天然資源です。
 

アルジェリアの天然ガス供給をめぐる欧州の足並みの乱れ

 今回、ロシアはアルジェリアに急接近しようとしています。それは、アルジェリアにヨーロッパ、特にドイツが求める天然ガスをはじめとする資源が多く埋蔵されているからです。
 アルジェリアは、もともとフランスの植民地でした。その統治下から脱却したあと、アルジェリアは欧米への反発から社会主義に傾斜し、旧ソ連、そしてロシアとの関係強化に努めていたのです。
 しかし、近年の石油価格の乱高下の波に経済がさらされ、「アラブの春」での近隣諸国の混乱が波及すると、アルジェリア政府は社会の安定を求め、欧米との積極的な経済交流へと舵を切ったのです。
 
 アルジェリアにとって、ロシアの孤立は自国の石油や天然資源を売り込む絶好のチャンスとなりました。そこで、まず天然ガスの供給不足への不安を抱えていたイタリアと協定を結び、ガスの供給を始めたのです。すでにスペインもアルジェリアの資源の恩恵によって危機を脱していました。
 こうした動きに危機感を抱いたロシアが、過去のアルジェリアとの関係を強調しながら歩み寄ってきたわけです。
 
 しかもNATO諸国、そしてEUも一枚岩ではありません。
 ヨーロッパにとって、特にドイツにとってはアルジェリアからの天然ガスは極めて魅力的で、国内を結束させて対ロシア政策を続行するためにも、是非そのパイプラインをドイツまで延長させたいと思っているはずです。
 
 しかし、スペインからのパイプラインをドイツにまでという話が出たときに、同盟国のフランスがアルジェリアとロシアとの関係強化のリスクを主張して難色を示したのです。
 もちろん、パイプラインをスペインからドイツに延長させるためには、フランスの協力が欠かせません。しかし、旧宗主国のフランスは、アルジェリアの政策には懐疑的で、むしろドイツが放棄した原子力発電をフランスが進めていることから、そのエネルギー供給を働きかける始末です。
 
 確かに、アルジェリアからの資源供給はヨーロッパのエネルギー危機を脱却する切り札となるでしょう。ロシアはそのことを熟知しているからこそ、外務大臣を派遣してまで、アルジェリアとの関係強化に取り組んでいるわけです。フランスとドイツ、そしてイタリアやスペインの思惑が一致しない限り、ロシアはさらにアルジェリアに揺さぶりをかけてくるはずです。
 

天然資源の宝庫・アフリカでの覇権争いが新たな火種に

 そして、これと同じような図式はアフリカのあちこちに見ることができます。レアメタルの供給源であるコンゴをはじめとした中部アフリカ地域、さらに経済の失速に悩む産油国ナイジェリアなど、例を挙げればきりがないのです。
 ロシアのウクライナ侵攻は、こうしたアフリカの国々にとっては欧米との新しい経済関係を構築するチャンスでもあります。しかし、当然それ以前のアフリカはといえば、欧米の植民地支配の傷から脱却できず、政治や経済の混乱が続く地域がほとんどだったのです。
 
 この現実を最もうまく利用したのが中国でした。中国のアフリカへの投資は21世紀になってから右肩上がりで、その影響力も着実に大きくなっています。その波に同じように乗って、欧米への傾斜に歯止めをかけたいのがロシアであるというわけです。
 
 ウクライナで罪もない市民が殺戮されているなか、欧米とロシア、そして中国は中東とアフリカにおける影響力の拡大競争に必死です。過去の怨念と現実、そして未来への欲望が入り乱れたグローバルな外交は、こうした地域の利害が絡む、複雑なものです。我々が知っているよりもはるかに難解なこうした地域をめぐる対立が、次の世界の緊張の種にならないことを祈りたいものです。
 

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『日英対訳 英語で話すSDGs』山口 晴代 (著)日英対訳 英語で話すSDGs』山口 晴代 (著)
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