If humanity cannot live with the dangers and responsibilities inherent in freedom, it will probably turn to authoritarianism.
冷戦の終焉から民主主義化した国家が抱える社会の矛盾
そのIKEAが、以前ハンガリーに進出したときのことでした。
IKEA本社から送られてきたマネージャーが現地に着任して悩んだのが、現地の社員の行動様式だったと、以前語ってくれたことがあったのです。
一つひとつのプロジェクトについて、まさに右なら右、左なら左と細かく指示を出さないかぎり、社員が思うように動いてくれず、物事が前に進まなかったのです。それぞれの自主性を重んじながら、結果をもって判断し改善を重ねてゆく欧米型の手法が通用しないのです。社員が常に上からの指示を待ち、判断を求めてくることで、着任したマネージャーは翻弄されてしまったのです。
したがって、現地に派遣されたマネージャーの最初の仕事は、こうした異なる意識を持つ人々へIKEAとしての社風を移植しながら、いかに現地の人々と妥協しながら業務を進めてゆくかという環境作りでした。
彼はその中で、人間は上にある強い権威と自らが見下すことのできる社会層の間に当てはめられたときに、心理的な安心感を覚える傾向があると主張したのです。個人の中に上へのマゾヒズムと下へのサディズムが同居し、そのバランスの中で人々が安心感を抱くという心理学的なメカニズムが存在すると、彼は記したのです。したがって、人々が「自由」という環境の中に放りこまれ、完全な個人として、上や下という考え方を捨てなければならなくなったとき、多くの人は不安になり、自由から逃走しようとする現象が発生するわけです。
これと同様の見えない意識が人類の中にあって、社会が不安定になったときに、あたかも牧童に導かれる羊のように、人々を操る新たな権威を生み出すことになるわけです。この現象は、エーリヒ・フロムが生きた時代を超え、現在の世界を分析するときにも十分に通用するのではと思うのです。
民主化した自由主義から権威主義へと逆走するハンガリー
もちろん、EUの中核となっているドイツやフランス、さらにはEUを離脱はしたものの西側の主要国との足並みを重んずるイギリスなどの内部にも、移民を受け入れるか否かという議論は沸騰しました。ですが、その議論は個人個人が主張の違いを堂々と表明しディベートする形での、自由に慣れた人々の対立でした。民主主義国家の内部で横揺れや縦揺れが起きることは、こうした国々ではよくあることといえましょう。
しかし、ハンガリーの場合は少々異なっています。元々あった縦社会への回帰願望が、こうした議論の背景にあったのです。権威主義と呼ばれ、アメリカやEUと本質的に対立する社会への回帰現象が、ハンガリーの中で起きているわけです。
「自由」をめぐって激しく揺さぶられ分断される世界
このロシアの変化に、常に自由社会への傾斜寸前に体制を立て直してきた中国も同調します。この同調が新たな軸を作り、欧米と対立するもう一つの核を生み出したのです。本来「対立する」ことは、人々の心に不安を植えつける行為のように思われます。しかし、対立することで、新たな権威が生まれれば、人々はほっとして対立する相手を自らの下に置きながら、心の安堵を獲得するのです。
ウクライナにロシアが侵攻した当初、世界は一つになってウクライナを支援するかと思われました。しかし、残念なことに、その思惑はアメリカと対立する中国やイランなどの国々の反抗によって挫折しつつあります。
そして、さらに懸念されるのが、EUやアメリカ社会が、社会の分断によって内部から崩壊の危機に晒されている現状なのです。
スロバキアで今月発生した大統領の暗殺未遂事件なども、人々の心の振り子が「自由からの逃走」をめぐって激しく左右に揺れていることを裏付けます。
* * *
『日英対訳 アメリカ暮らし完全ガイド』
ダニエル・ヴァン・ノストランド (著)、八町 晶子 (訳)
‟アメリカ暮らし”のリアルを徹底網羅! あらゆる不安を解消する完全ガイド! 留学や駐在などで、これからアメリカで生活することになった人々が間違いなく直面することになると思われる様々な事項について、アメリカ人の著者が詳しく解説! 気候などの一般的な知識から、生活する上で知っておくべきアメリカの歴史や政治の解説、家探しや食事、教育、冠婚葬祭まで、アメリカでの生活のリアルを紹介。はじめての‟アメリカ暮らし”を失敗しないために必要な準備と心構えについて、日英対訳でしっかりと伝授します! 異文化コミュニケーションのコツも満載!
===== 読者の皆さまへのお知らせ =====
IBCパブリッシングから、ラダーシリーズを中心とした英文コンテンツ満載のWebアプリ
「IBC SQUARE」が登場しました!
リリースキャンペーンとして、読み放題プランが1か月無料でお試しできます。
下記リンク先よりぜひご覧ください。
https://ibcsquare.com/
===============================