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プーチンの独り言

Putin behind Novichok poisoning, e-spy Skripal claims

ノビチョク〔毒薬〕注入の背景にはプーチンが介在、元スパイのスクリパリが供述
― BBC より

常に暗殺をおそれ猜疑心とともに権力を維持すること

 長期化するウクライナ問題を抱えるプーチン氏の本音とは何なのでしょう。アメリカ大統領選挙を前に、今回は彼に語ってもらうようにしてその気持ちをまとめてみました。
 
「今年の8月。私は国防相にウクライナ政府が私の暗殺を企てていることをリークさせた。私が28日のサンクト・ペテルブルクで開催される海軍の式典に出席するときの決行計画で、国防相からアメリカに正式に情報を流し、制止を求めた。アメリカ政府は即座に動いて、ウクライナ側に計画の中止を要請した。あの頃、ウクライナはロシア領内に侵攻し戦争が拡大しようとしていた。この情報リークでバイデン政権がウクライナ問題でそれほど強硬に出ないことが示唆されたことは有益だ。彼らは選挙までは、戦争の拡大を避けたいと思っている」
 
「私への暗殺計画はこれだけではない。今年2月にはチェチェンの武装グループの計画が暴露され二人を拘束した。決して油断はできない。私は極めて懐疑的な人間だ。猜疑心と権力の掌握と維持は、あの134万人を拘束し、64万人を殺害したスターリンと似ているかもしれない。彼の大粛清は歴史的に有名だが、犠牲者の中には彼に忠誠を誓っていた者や、海外から共産主義に憧れてきた者もいる。拘束してナチの秘密警察ゲシュタポに引き渡された同士もいたのだから、スターリンの猜疑心はご立派なものだ」
 
「ロシアや中国では、味方の中にも政敵が潜む。それは数百年、中国では数千年にわたる帝政時代からの長い歴史の中で、無数に繰り返された陰謀や謀殺の事実をみれば明らかだ。人々は権力に魅了される。そして操られ、時には側近が裏切ることもある。だから、あのワグネルのプリゴジンが私に反旗を翻したことも驚きではなかった。海外に逃れた者でも安心できない。あの元国家保安局に勤務し、その後西側に寝返ったリトビネンコを、ロンドンで放射性物質を使って毒殺した。うまくはいかなかったが、2018年に我々のスパイであったにもかかわらず、同じく我々を裏切ったスクリパリとその娘の毒殺をロンドンで画策したことは、このヘッドラインのように大きな波紋を呼んだ。こうした行為を実行する目的は、私へのリスクは断固阻止すると内外に示すために他ならない
 
「側近ですらそうなのだから、もちろん反体制運動を繰り広げたアレクセイ・ナワリヌイのような人物は言語道断だ。そこまでしない限り政権は維持できず、私の生死にも関わってくる。これは、政治をビジネスマインドによる駆け引きと捉えている西欧と、生死の問題と意識している我々との根本的な違いなのだ。日本などはこのどちらの意識もないがために、北方領土の問題などは放っておいても何ら問題はない」
 

根本的に異なる権威主義と民主主義の外交ビジョン

「なぜ、そんなに猜疑心が強いのか。まず、私の政権基盤は決して強くない。そもそも私が若い頃、旧ソ連のKGBに応募したとき、誰も私を認めてくれなかった。最終的に東ドイツに勤務させられたが、それは閑職だった。だから、ソ連の崩壊のあと、故郷サンクト・ペテルブルクで伝手を頼り、時にはおもねって政界に入り、うまくエリツィン大統領に取り入るチャンスができたことはラッキーだった。でも、ただそれだけだ。その後もずっとビクビクする毎日だった。大統領になったあと、潜水艦沈没事故で遺族から突き上げられ、自らの弱さを露呈したとき、私は二度とあのような醜態は晒すまいと、ロシア国民のカリスマになるよう注力した。元々、ソ連の内政上の都合でウクライナに引き渡したクリミア半島を2014年に奪取したのは、その転換点だった。あのとき行なった愛国的な演説が国民に響き、支持率が高騰した。だからウクライナは絶対に譲れない」
 
「実は、私は私にべったりのベラルーシのルカシェンコ大統領ですら、信用していない。彼も自らの地位に執着し、しかも小物だ。どこでどう変化するかわからないので首根っこをしっかり押さえている。トルコのエルドアンも同様で、彼の本音は全く読めない。金正恩はうまく利用すればこちらの利になるし、失うものはない。イランのハメネイも役に立つ。彼らは彼らの利益になることを強調すれば裏切らない。私と同じ臭いを感じたのは習近平だ。彼は私と同じく小心者で猜疑心が強く、権力への執着のためには側近にだって疑いを持つ。中国とロシアはよく口の中の下顎と上顎に例えられるが、こうした陰謀とサバイバルの歴史には確かに共通点があり、政治文化も似ている。しかし、だからこそ注意も必要だ。台湾をどのような意図で包囲したのか。彼らはアメリカの出方を推し測って次の戦略にでるのだろうか。習の腹の中がわかるのは来週あたりかもしれない」
 
「実は、私にしても習近平にしても、大切なのは自らの帝国をどう維持するかという課題につきる。外交はそのための道具で、アメリカの外交ビジョンとは本質的に異なる。国内の権力を維持するための外交と、ビジネスやビジョン、国際交流による利益を追求するための外交とでは折り合いはつかない。これが彼らのいう権威主義国家と民主主義国家の根本的な違いだ。中国が台湾を自らの国内問題としているのと同様に、ウクライナはロシアの一部だ。このことで、国民の意識を高揚させ、自らの帝国を維持するわけで、これはヨーロッパや日本、そしてアメリカとの駆け引きの問題ではなく、国内の権力維持のための方策だ。外交を国内の利益のために動かすことと、海外との連携や協調のために動かすこととでは、おのずと対応策が異なってくる
 
「EUの足並みは揃わないはずだ。もともと我々と同じような背景を持つ国家は、上に従順でなければ人々は生活できない。だから、そんな国が民主化されても国民は常に指示を待ち、国家の方針に目をむける。ロシア文化の母体は農奴にある。彼らが無知で従順であれば国家は安定してきた。だから、EUでも似た背景を持つハンガリーなどでは、EU流の個人尊重の民主主義と資本主義は本質的に馴染みにくいこの亀裂が今の移民問題などによるEUの分断に繋がっている。これは彼らの苦境に乗じて交渉を進める上で好都合だ。しかもアメリカは極めてビジネスマインドの強い国だ。だから、彼らにとっての利益は実は国のビジョンに優先することがある。ということは、ロシアに強硬策を訴えてはいるが、トランプの方がうまく手玉にとれるだろう。私は国内問題としてゼレンスキーをウクライナから追い出せればそれでいい。トランプはそのように舵を切るかもしれない。あとは、スターリンが政敵トロツキーをメキシコで暗殺したように、料理の仕方はいくらでもある。トランプとネタニヤフの構造が、私にとっては小うるさい人間が多くいる民主党と組むよりは楽なはずだ。このことはしっかり考えたい課題だろう。外交の失敗で国内の中で波風が立つことだけは避けたいものだ」
 

国が違えば政治文化も違うということを理解する

「ウクライナに侵攻した当初、ロシアのテレビで私に騙されるなというステッカーをカメラの前に持ってきて抗議したマリーナ・オフシャンニコワという女がいた。世界は彼女を支持しているが、彼女もできれば抹殺したい。そんな犠牲者の数を数えても仕方ない。そう、国内問題の解決には時には冷酷な粛清が必要なのだ。そして、外交はそのために効果的に実施する手段に過ぎないのだ。
政治文化の違い、それは権力者の意識の違いに直結していることを世界は知っておいたほうがいいかもしれない。握手をしながら、相手の本音を疑い、最悪の準備を怠らない。お人よしはいつもばかを見るということだ」
 
 もしこの通りであれば、ウクライナの人々の苦しみはまだ続くかもしれません。アメリカ大統領選挙の行方も気になるところです。我々は、我々とは全く意識の異なる人物が指導者となっている国があることも理解しなければ生き残ることはできないのです。
 

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