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自らの影に怯える温暖化への思い

The Medieval Warm Period was a time of warm climate from about 900 A.D. to 1300 A.D. when somewhat warmer than at present. Its effects were evident in Europe where grain crops flourished, many new cities arose, and the population more than doubled.

(中世の温暖期は西暦900年から1300年にかけてで、現在よりもなぜか気温が高く、穀物の収穫が増え、多くの都市ができ、ヨーロッパの人口も倍増した)
― Science Direct より

「地球温暖化」が社会を発展させてきた?

 最近面白いことに気付かされました。
 それは、地球温暖化の社会への影響が議論されているなか、逆に太古から人類は地球温暖化の恩恵を受け、社会を発展させてきたという事実があることです。
 
 具体例を紹介します。いわゆる氷河期が収束したのは、おおよそ1万2,000年前のことでした。その後、地球は少しずつ温暖化が進み、5,000年前には現在より平均気温が1度から2度高かった時期があったのではないか、という気象考古学の専門家の報告があるのです。
 とはいえ、氷河期が収束した後、常に温暖化が進んだわけではありません。実際、今回のヘッドラインのように10世紀から14世紀あたりまでは地球は暖かく、その後15世紀から19世紀までは寒冷期に入っています。地球では太陽エネルギーの強弱や火山や生物の影響を受け、周期的に気温の上下があるのです。今後新たな氷河期に見舞われないという保証もありません。現在、地球は寒冷化に向かっているのではという学者もいるのです。
 
 最近我々が経験しているように、温暖化が進むと海水温の上昇から極地の氷が溶けて海面上昇がおこります。同時に、気温の上昇で大気も不安定になり、大型の台風が出現するなど、天候に異変が続きます。5,000年前にも同様のことがおきていたはずです。約1万2,000年前以降、上下を繰り返しながらも大気温はゆるやかに上がり、そのピークが日本の縄文時代にあたる5,000年前だったといわれているのです。その時期は降雨量が増えて川が氾濫します。すると、地表の豊かな養分がかき混ぜられ、周囲の土地が肥沃になります。こうして人類は農業という画期的な技術にありつき、食料の供給が増えたのです。その結果、エジプトなど大河のほとりにある地域では、周知のように四大文明が栄えます。
 
 同様のことは、中世におこった新たな温暖化現象の最中にもありました。
 10世紀ごろから400年続いた温暖化は、海水面の上昇をうながし、海の交通がより便利になりました。その恩恵を受けて、スカンジナビア半島からノルマン人が船でヨーロッパ各地に移住をはじめ、例えば現在のイギリスの母体ができあがったりしました。
 この時期にも、温暖な気候の恩恵で豊作がつづき、耕作地も増大します。食物が豊富になれば人口も増え、ヨーロッパ各地の為政者は力を蓄え、十字軍などの軍事活動をも可能にしたのです。さらに大切なことは、こうした活動でイスラム圏からの文明もヨーロッパに流入し、それがルネサンス運動の原動力となったことです。ルネサンスによって科学への探究が進み、15世紀以降に寒冷期をむかえた際、人類は産業革命によって気候の問題を克服することができたのです。
 アジアでも、10世紀から14世紀にかけては、北部の草原地帯の草も豊富で、遊牧民も力をつけました。このことが、モンゴル人によるユーラシア大陸をまたぐ大帝国の創立の原因であったかもしれません。
 
 地球が再び寒冷期を経て温暖化へと傾斜しはじめたのは19世紀後半のことですが、その要因が太陽エネルギーの問題だけではなく、産業廃棄物などによる汚染が新たな要因となっていることは否めない事実でしょう。
 

温暖化による人類の活発化に感じる脅威

 このように、歴史上、温暖化がおこれば人類の活動が活発化していたのです。
 では現在、温暖化に対して我々が脅威を感じているのはなぜでしょうか。
 
 答えは一つしかありません。それは皮肉にも過去の温暖化によって人類が進化を遂げたからなのです。人類が科学によって繁栄し、富が蓄積されると、地球上のあらゆる場所が開発されます。都市と都市は交通インフラでネットワークされ、人々は生活する場所に定住し富を蓄積できるようになります。この状態で同じ気象異変がおきれば、それは我々一人ひとりの財産や生活基盤を脅かすことになるはずです。
 過去の人類の生活はもっと単純でした。食料を求めて移動と定住を繰り返すこともできれば、「個人の富」という概念も希薄でした。しかも現代文明の恩恵で、人口も圧倒的に増加しています。今とは異なり、中世に人類がちょうど動物の群れのように、豊かな文明を求めて移動し、その地域の文明を貪りそれが破壊へとつながっても、それはいわゆる「世の常」だったのです。
 
 さらに、過去にノルマン人が剣を携えて長細い船に乗ってヨーロッパ各地に侵攻した頃は、人々は彼ら以上の武器も、それ以下の武器も持ってはいませんでした。しかし、現在の兵器は当時とは比べものになりません。温暖化で人類の活動が活発になればなるほど、気象異変や人類そのものが保有している科学の力で社会が破壊され、生活基盤が脅かされる可能性が高いわけです。我々は温暖化を通して我々自身の影に怯えていることになります。
 

21世紀に突入して4分の1が経過する2025年

 来年で、今世紀に入って4分の1が経過します。21世紀はその冒頭で同時多発テロがアメリカでおき、イスラム圏でのさまざまな混乱によって国際情勢が大きく揺れました。その過程で、新興国とされていたBRICS、すなわちブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのうち、ロシアはウクライナに侵攻して国際社会から孤立、中国は景気の後退、香港への新しい統治体制の導入などで欧米をはじめとした国々との対立が鮮明になりました。
 さらに世界が揺れるなかで、中東ではイスラエルがガザ地区に侵攻し、シリアでは長年権力の座についていたアサド政権が崩壊しました。
 
 こうした国際情勢の混乱は、世界の民意にもさまざまな影を落としています。AIが大きく進化したのもこの期間でした。人々が既存のメディアではなく広範なネット社会から情報を入手するようになり、既存のメディアへの不信感が蔓延しはじめたのも、この25年間の特徴でした。
 
 多くの国では、世界情勢の混乱という直接顕在化しない社会不安に人々の心が揺れる一方、そうした国々の内部では経済や教育格差の問題が深刻化し、人々のストレスとなりました。
 このストレスによる社会の分断のなかで、SNSなどによってポピュリズムへの民意の傾斜がはじまり、今までにはない新たな指導者の出現に世界は湧き立ち、あるいは震撼させました。アメリカのトランプ氏など、そうした事例は多くの国々で政治上の話題をさらったのです。
 
 これが今回の温暖化によって活発になった人類の動きに他なりません。
 今回の温暖化による社会変動への不安を、我々は自身の力によって制御できるのか。それは誰にもわからない未知の問いかけだといえましょう。
 

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『日英対訳 身近なサイエンスQ&A』田中 忠芳 (著)、Ed Jacob (訳)日英対訳 身近なサイエンスQ&A』田中 忠芳 (著)、Ed Jacob (訳)
日常的に感じる身のまわりの「なぜ?」という素朴な疑問について、科学的な視点から日英対訳のQ&A形式で解説します。専門的な言葉や数式をほとんど使わずに説明しているので、科学に詳しくない初心者でも楽しめます。自然界の不思議について科学が答えを与えられることを具体的に示すことで科学に対する理解を深めるとともに、身近で興味深いトピックだから楽しく読み進めることができ、大量の英語に触れることができます。

 

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