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韓国の政権交代からみえる課題

President Donald Trump says the US will charge a 15% tariff on imports from South Korea, in what he called a “full and complete trade deal.”

(トランプ大統領は、韓国に対して15%の関税を課し、これは十分で完璧な取り決めだと言明した)
― BBC より

不安定な対米外交から日本との連携も視野に

 韓国に「共に民主党」政権ができ、もともと対日強硬派だった李在明(イ・ジェミョン)氏が大統領になって2か月が経過しました。
 当初、過去の李氏の発言から、大統領就任後の日韓関係の変化を懸念した人も多かったと思いますが、今のところ韓国情勢は静寂を保っています。
 
 その背景には、不安定になっているアメリカの状況が見え隠れしています。トランプ大統領の外交政策の揺れがあまりにも激しいために、日本との関係をどうこうというより、そうしたアメリカとどのように付き合っていったらいいのかと思いを巡らしているのでしょう。先週になって、やっと日本と同様の条件での関税率に落ち着き、胸を撫でおろしているというのが韓国の新しい政権の本音のようです。
 
 ただ、トランプ大統領の意図的かどうかもわからない不規則な対外戦略がこれで収束したとは思えません。たとえば、もし今後日本の対米輸入が大統領の思うように改善できず、対米投資も伸び悩めば、アメリカが再び豹変することもあり得ないわけではありません。その都度株価が乱高下し、経済不安に見舞われてはかなわないという気持ちが日本の一般の意識ではないでしょうか。
 
 そして、それは韓国でも同様です。日本への関税が上がれば韓国が喜び、逆であれば日本が胸を撫でおろすというような事態ではどうにもならないという意識が、両国に芽生えていることは間違いないようです。
 実際、韓国の世論は以前と異なり、日本と韓国とがもっと連携してアメリカに対応し、時には中国やロシアといった近隣の課題にも対応するべきだと思う人が増えていると、韓国の識者は語っています。
 
 ただ、気になるのは韓国のこうした変化に対して、日本があまりにも鈍感であることです。よくあることですが、雪解けに向かったときに日本側が領土問題や靖国問題などによって、あえて相手を刺激するような態度にでることで、相手が日本側に握手の手を出せなくなる事態がおきるのです。
 
 今回の参議院選挙の結果を、韓国側は日本にも危険な動きが増えつつあると報道し、参政党の躍進などへの懸念を表明しています。彼らにとって気になるのは、少数与党となった自民党がこうした党と連立を組み、右傾化した行動にでることでしょう。そうなったとき、もともと対日強硬派だった李大統領が取る道は一つしかなくなるはずです。外交センスのなさからくる、タイミングを見誤ることだけはないようにしたいものです。
 

韓国の保守派/リベラル派と北朝鮮との対話

 韓国では、親日的だった尹(ユン)前大統領はすでに拘束され、これから長い法の裁きを巡るやり取りが待っています。多くの韓国人は、尹前大統領や朴槿恵(パク・クネ)元大統領のルーツを60年代から70年代にかけて独裁政権を維持していた朴正熙(パク・チョンヒ)大統領に結びつけます。
 
 北朝鮮の脅威から反共を強調し、国内世論を統制しようとしたのが当時の政権です。民主化以来、そうした動きは封印されました。しかし、韓国の右翼といえば、日本のように日の丸を振って凱旋車でデモンストレーションをする姿と異なり、反共のメッセージと、反共である韓国を守ってくれるアメリカへの敬意をあらわにする人を指しています。
 
 これは日本ではあまり知られていないことですが、韓国社会での右翼はしばしば星条旗をシンボルにして、北朝鮮への敵意をあらわにするスローガンを掲げます。そこには反日というメッセージが入り込む隙間はほぼないのです。
 それに対して、リベラル派の方が、開かれた平等な韓国社会を目指すなかで、むしろ北朝鮮とは融和し、日本は戦争責任を逃れるべきではないと強調するわけです。ですから、韓国の国旗を振りかざして反日を唱えるというイメージは、韓国社会にはないといっても過言ではありません。
 
 それだけに、リベラル派の代表とされる李大統領が、就任後最初に試みたのが、北朝鮮との対話の可能性をさぐることでした。しかし、その試みはロシアとの連携を強める金正恩によって反故にされ、李大統領の外交的な軸足がずれてしまったのです。しかも、関税や不透明な外交戦略に終始するアメリカへの対応にも戸惑いを持たざるを得ないわけです。であれば、このタイミングで日本との関係を悪化させることは、韓国にとっては内外の状況からしてみても、決して得策ではありません。これは、長年「共に民主党」への不信感を募らせてきた日本ではあるものの、日本側がそうしたマイナスの懸念を払拭するまたとないチャンスといっても過言ではないはずです。
 
 このチャンスを活かして、日韓関係の絆を一層強くするはっきりとしたメッセージを日本側が出せるかどうかが、最も大きな課題です。シャトル外交を復活させ、両国がカジュアルに話し合い連携できれば、それはそれで東アジアの情勢に大きなインパクトを与えることができるからです。
 

日本の外交ネットワーキング力が試されている

 課題は、そうした人的なネットワークが今、日本の外交関係者にあるのかどうかということです。人と人との繋がりがあり、そうした人脈を効果的に活用しなければ、困難な外交課題を解決することは不可能です。
 
 そうしたネットワークづくりで、対米関係のみならず、韓国や中国など多くの国々と層の厚い人脈が育つことで、本当の意味での安全保障や経済的な互恵関係が構築できるわけです。
 韓国の政権交代は、この課題を日本にストレートに突きつけていることになるのです。
 

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『日英対訳 英語で読む地政学』山久瀬洋二 (著)、エド・ジェイコブ (訳)日英対訳 英語で読む地政学』山久瀬洋二 (著)、エド・ジェイコブ (訳)
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