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イランの騒乱への希求と超大国の思惑

The Islamic Republic of Iran has shut down the internet, and they are killing their own people.

(イラン政府はインターネットを遮断し、自らの国民を殺戮している)
― Mackenziecsd のフェイスブック より

イスラム至上主義と経済困窮が着火した反政府デモ

 イランで再び、民衆が大規模な反政府デモを行なっています。
 現在のイスラム政権による抑圧からの解放を求めた抗議行動です。日本に住むイラン系の人々も、抗議行動に対する政府の弾圧の様子を拡散してほしいとSNSを通して訴えています。日本だけではなく、世界中のイラン系の人々が一つになって同じようにそれぞれの居住する国で訴えているように思えます。唯一そのネットワークが届かないのが、皮肉なことにイラン本国なのです。
 現在、イランは全てのインターネットや電話などの通信網を遮断して、抗議活動への厳しい取り締まりをしているからです。それでも、さまざまな方法で、時たま流出する情報を受け取った人々がそれを世界に拡散しているのです。
 
 1979年、イラン革命によって当時のパーレビ国王が国外に逃れて以来、イランはそれ以前の西側との経済連携によって進めていた国家建設を放棄し、反米国家としてイスラム教独裁国家に変貌しました。そのため多くのイラン人が国外に逃れ、イスラム教を支持して国内で活動をする人々との分断も続いていました。
 しかし、革命以来の厳しい言論統制と社会の極端なイスラム化によって、人々は厳しい言論統制下におかれました。経済的にも、海外からの制裁などの影響もあって、物価の高騰が人々の生活を圧迫していたのです。
 すなわち、今抗議行動を起こしている人々は、40年以上にわたるイスラム至上主義への鬱積した怒りに加え、経済的な困窮もその動機になっているのです。
 
 彼らの多くはパーレビ国王の息子で、当時皇太子だったレザ・パーレビ氏の帰国を求めています。レザ・パーレビ氏は現在、アメリカのワシントンDCに亡命していますが、今回の騒乱にあたって、イランの民衆をサポートするというメッセージをくり返し発信しており、それがさらにネットでも拡散しているのです。
 
 ある情報によれば、これから5日ほどでパーレビ氏がイランに到着し、今の政権の転覆が加速するのではないかともいわれています。もちろん、その情報の真偽はわかりませんが、一ついえることは、こうした動きにトランプ政権が呼応するようにイランへの軍事介入を警告している事実です。
 

自立を願うイラン民衆と好機を狙う超大国たち

 ベネズエラへの侵攻のあと、もう一つの石油資源大国であるイランに君臨する反米政権を取り除くことを、トランプ大統領は公言しています。
 ただ、ベネズエラ侵攻のような地上特殊部隊の投入は、事実上困難だといわれています。それであれば、ターゲットを絞り込んだ空爆やミサイル攻撃を行ない、民主化を支援する行動にでるのではと多くの人は思っています。
 
 しかし、イランの民衆の声は複雑です。アメリカに助けてはもらいたいが、イランのことはイランで解決したいというのが、パーレビ氏も含む多くの人々の本音でしょう。
 ベネズエラに対する国際法を無視した行動に危機感を覚えながらも、今回の抗議行動を本当の革命へとアップグレードするためには、限定的にはアメリカに介入してほしいというのが、人々の複雑な本当の思いだといえそうです。
 騒乱は全国に広がり、少なくとも500人の死者がでていると報道されていますが、本当の犠牲者の数はもっと多いはずです。
 
 また、イラン政府は民意が離れ、軍や警察の士気が下がることを恐れ、イランと海外で連携しているヒズボラなどの武装集団を、デモ鎮圧のために呼び込んでいるともいわれています。そうした武装集団がバイクに乗って群衆に発砲している動画なども流れはじめているのです。
 中には、たった一人で路上に立って官憲に向かって抗議している老婆を容赦なく射殺する動画など、その数は政府の統制にもかかわらず日を追うごとに増えています。この背景を考えると、5日以内という人々の間に広がる期待が、単なるフェイクニュースに踊らされているのではないかとも思ってしまいます。
 
 世界情勢は複雑です。片方で抑圧され自由を求める人がいれば、片方でそれを口実に経済的政治的な影響力を享受しようとする超大国が、文字通りハイエナのように好機を狙っています。
 それはアメリカのみならず、ロシアや中国も同様です。さらに、元々この地域にさまざまな影響力をもっていたヨーロッパの主要国も事態を注視しています。フランスやイギリスは、パーレビ氏が帰国することでアメリカがまた暴走するのではないかと、できれば現状維持を願っています。ベネズエラにはじまってイラン、さらにはグリーンランドへの干渉など、アメリカの行為はNATOの終焉にもつながりかねない亀裂をヨーロッパとの間に生み出しつつあります。ロシアと中国は、そうした状況をあえて声を荒げることなくじっと見つめているわけです。
 
 しかし、イランの民衆、そして海外に亡命している人々は、今回の抗議行動によって、なんとしても現政権の転覆を願っています。
 以前、パーレビ氏の父親であるパーレビ国王を追い出した群衆が、今その息子の帰還を求めていることも、情勢の複雑さを物語っています。
 ただ、拷問や公開処刑、さらには女性の人権抑圧といったことをくり返してきた現在のイラン政権が、ついに追い詰められようとしていることは事実です。
 ここに至って、現政権との円満な関係を維持してきた日本でも、ようやく報道機関が頻繁にイランの情勢を伝えるようになりました。しかし、日本のメディアですら、こうした日本政府の政治的な意図によってか、情勢が緊迫するまでは積極的な報道を控えていたことも、ここにお伝えしておきます。
 

古代ペルシャへの回帰志向がもたらす情勢の複雑さ

 パーレビ国王の時代、イランは中東にあって唯一イスラエルとも友好的な関係を維持していました。
 それは、パーレビ国王が自らのビジョンをイスラムの王国ではなく、それ以前にイランを統治していたペルシャの復活に求めていたからです。紀元前597年にイスラエルを滅ぼし、民衆を首都バビロニアへ強制移住させたのが新バビロニア王国でした。その新バビロニア王国を崩壊させ、捕囚されていたユダヤの人々を解放したのが、ペルシャ最初の帝国として知られるアケメネス朝ペルシャです。
 
 そんな古代の歴史のロマンを国家統一のビジョンの一つにしたことで、当時のイランはイスラエルや西側諸国と友好関係を構築していた一方で、中東のイスラム諸国やイラン国内のイスラム教徒の反発がおきていたのです。国際情勢の複雑さはこうした過去の歴史とも一直線でリンクしています。
 
 イランが自らの国民の意思で未来のあり方を決めることができ、その過程での流血がこれ以上増えないことを祈っています。
 

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