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「ガードレール」の危機でもあるミネソタの事件のその後

After Renee Good Killing, Derisive Term for White Women Spreads on the Far Right

(ルネ・グッド殺害事件以来、極右の間に白人女性への嘲笑が拡散している)
― New York Times より

民主主義の「ガードレール」が破壊されようとしている

 以前、民主主義国家には「ガードレール」があると解説したことがありました。
 議会制民主主義国家が機能している場合、法が社会の規範をつくり、人は法によって裁かれる一方、その法律は国民が選挙で選ぶ代議士によって制定されます。
 アメリカなどの大統領制度をとっている国は、国家の元首である大統領が国民によって選出される一方、大統領の権限は軍事と外交を主体としながら、国家全体の安全と繁栄に貢献するための権限が与えられ、議会や司法のチェックを受けることもあるのです。
 当然、こうした機能を稼働させるためには、市民の言論や思想信条、さらに信仰などの自由が保障されなければなりません。
 
 したがって、議員や元首の政治的なスタンスが右であろうと左であろうと、ここに書いたルールは守られるというのが、民主主義国家を運営するためのガードレールなのです。
 また、国際法も法である以上、それを批准した国は、それを国内法と同様に尊重するというのが、近代国家での民主主義のルールであり、ガードレールとなってきました。
 
 今、アメリカでおきている脅威は、このガードレールが破壊されようとしていることにあります。
 アメリカの北部にあるミネソタ州で、今月7日に移民執行官(ICE)の職員が、自家用車に乗っていたルネ・ニコール・グッドさんを射殺するという事件が発生しました。トランプ政権になって以来、ICEによる移民に対する厳しい取り締まりと強制送還への脅威がアメリカの社会問題となっていました。彼らは不審に思った人物を拘束し取り調べる権限を持ち、かつ銃の携帯と使用も許されています。
 グッドさんの場合、彼女はアメリカの市民であり、特に社会的にマークされていた人物でもありませんでした。しかし、ICE側は彼女が車で職員にぶつかろうとしたから発砲したと主張しています。ところが、現場にいた多くの目撃者はその事実を否定します。
 
 そもそも、民主党の市民の多くがICEの強引な捜査に抗議し、さらにミネソタ州で多数のICEが軍隊のように展開して移民の摘発を行なっていたことで、市民がそれを脅威に思っていた矢先の出来事でした。
 事件の直後からICEの行為は犯罪だとして、抗議運動が全米でおこりました。
 

MAGAの憤懣の矛先が向けられようとしているのは

 問題は、ここでICEの行為に強く反発した同市のジェイコブ・フレイ市長と、それを擁護したミネソタ州の州知事、ティム・ウォルズ前副大統領候補を、トランプ大統領が民衆の蜂起を煽動した容疑で捜査すると発言したことでした。
 また、大統領は民衆の抗議活動を左翼による暴動だと非難し、反乱を鎮圧するために国軍を派遣することも考えると発言したのです。
 
 これに対して、多くの市民に加え、知事も市長も大統領との対決姿勢を鮮明にしたのです。正当なデモや言論による抗議活動はアメリカ市民の基本的権利であるというのが彼らの主張で、それを力で抑えることは憲法への侵害だと弾劾します。つまり、ガードレールを壊す行為だというわけです。
 さらに、事件の調査をFBIなどの国家機関が強制的に行ない、証拠の透明な開示もなく、地元の警察等の介入までもが困難になっていることも、地方の自治への重大な侵害だと人々は訴えます。
 
 ICEの捜査は、ときには合法的に在留許可を申請している移民や、すでに在留資格を持っている人々にも及んでいて、警察による逮捕監禁と同様の処遇に遭う人も増えています。
 
 ここでさらに問題となっているのが、トランプ大統領を支持する人々が、ICEの行為を当然だと主張し、今では抗議行動に参加している女性を“AWFUL”だと揶揄するに至っていると報道されていることです。それがここに紹介したヘッドラインです。AWFULとは「ひどい」という意味の単語で、「Affluent White Femail Urban Liberal」(金持ちのリベラル白人女性)とひっかけて使っているのです。
 
 この言葉は、アメリカの分断を象徴的に物語っています。すなわち、女性やマイノリティの権利の主張にうんざりしている一部の白人男性の憤満が、トランプ政権の熱烈な支持者であるMAGAMake America Great Again)の本音なのです。
 つまり、セクハラにしろ、人権侵害にしろ、歴代の政治家は弱者といわれる女性や有色人種、あるいは移民の権利に重きをおいて、白人男性は常に加害者として糾弾されると彼らは思っているのです。
 今回の事件の犠牲者も、抗議に参加している人々の多くも、このカテゴリーの「人種」だと彼らは公言し、トランプ大統領によるガードレールをも破壊するかのような改革に溜飲を下げているのです。
 
 報道によると、グッドさんを殺害したジョナサン・ロスは、そうしたMAGAのサポーターの中でも筋金入りだったと、友人が証言しているともいわれています。彼は、イリノイ州の地方都市の高校出身。イラン戦争に従軍した記録のある人物で、その後ICEで勤務しています。
 この経歴だけでその人物をステレオタイプに捉えることは危険ですが、今回の彼の行為と、彼がMAGAであることを組み合わせると、今のアメリカの分断が、暴力を誘発するほどに深刻なものである現実が浮き彫りにされます。同時にそれを背景に、国軍の投入をほのめかし、事件の捜査を国が一方的にハンドルし、抗議者を威嚇までする現トランプ政権のスタンスにも危機感を覚えます。
 

中間選挙を前にアピールに固執するトランプ政権の手法

 ポピュリズムとは、長期的な視野や複雑な考察を抜きに、即座にわかりやすい回答を出すことで民衆を刺激します。
 トランプ政権の手法は、こうした過激な意思表示によって、ガードレールが邪魔ならばそれを壊して、新しいガードレールを造ればよいという主張をすることで、民意を得ようとしているわけです。
 このことが、外交面でいえば、グリーンランドの領有やベネズエラへの介入など、目に見えるその場での成果をもって中間選挙にアピールしようとする行為にもつながっているのです。
 
 しかし、地方の自治は憲法で保障されたアメリカの最も重要な概念であり、集会や抗議、スピーチの自由も同様です。
 ですから、ミネソタの市長も州知事も、危機感をもってトランプ政権やICEに強い抗議を行なったのですが、その行為を受けて、トランプ政権や共和党系の政治家の多くが、彼らが反乱を煽動しているとカウンターアタックにでているのです。多くの共和党の議員は、今ではそうでもしないと票が取れないという危機感に陥っているのかもしれません。
 
 ミネソタで発生した事件は、同地で2020年に黒人のジョージ・フロイド氏が無抵抗のまま地元の警察官に殺害され、全米に波紋を呼んだケースを思い出させます。その調査を、国家という組織が一方的にICEを擁護する形で進められていることも、ガードレールの危機の象徴であるといえましょう。
 

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『怪談 Kwaidan: Ghosts, Yokai, and Curiosities in Old Japan』小泉八雲 (原著)怪談 Kwaidan: Ghosts, Yokai, and Curiosities in Old Japan
小泉八雲 (原著)
ギリシャ生まれで後に日本に帰化した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の代表作『KWAIDAN(怪談)』は、1904年にアメリカで出版されました。八雲の妻である小泉セツから聞いた日本各地の古い民話や幽霊話などを基に、独自の解釈を加えて文学作品として英語で書き上げた『KWAIDAN』には、17編の物語作品と3編のエッセイをあわせた20編が収められています。本書では、日本人に馴染み深い怪談である「耳なし芳一」や「ろくろ首」「雪女」をはじめ、原書の20編が全て原文のままの英語で楽しめます。

 

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