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AIに支配されると危惧する現代社会に光明を与えるには

Coptic is the indigenous Egyptian language written using the Greek alphabet.

(コプト語はエジプト古来の言葉で、ギリシャ語を借りて書き文字とした)
― Gemini より

古代エジプトに集積された叡智にAIが挑む

 今、AIが世界中で注目されていますが、AIと我々がどう付き合ってゆけばよいのかという一つのヒントを、ここに紹介したいと思います。
 よく言われることですが、AI、特にGeminiやChatGPTが我々に代わってさまざまな仕事をしてくれますが、その作業をただ盲目的に活用した場合、そこには著作権の盗用や、場合によってはAIによる誤った知識に頼ってしまうという課題が残ります。そこで、今回面白い実験をしてみました。
 
 先月エジプトのカイロと、ナイル川の中流域にあるルクソールという古都を訪ねました。ルクソールは、昔はテーベと呼ばれ、古代エジプト王国の首都でもあったところです。
 まず、カイロで訪ねたのが、古代キリスト教として知られるコプト教の教会や施設が残るオールドカイロという地区でした。そこの博物館で、古代の聖書の1ページを写真にとり、Geminiに日本語に翻訳することを依頼しました。
 すると、数秒で古代ギリシャ語が現代語訳され、その解説も付加されます。キリスト教の初期に記された文章が、長い歴史の霧の中から日本語で目の前に現れたときは、正直なところ感動でいっぱいでした。
 
 続いてルクソールでは、紀元前2000年ごろから1000年以上にわたる遺跡が並ぶカルナック神殿で、古代エジプトの文字として知られるヒエログリフを撮影し、同じくGeminiに解読を依頼しました。すると象形文字の解読方法から、撮影したヒエログリフの意味することなどがアウトプットされます。加えて、撮影した場所についてGeminiに質問されたとき、実際に撮影した場所とそう変わらないところをGeminiが言い当てたことには驚かされました。
 
 しかし、大切なことは、この二つの経験をどう活かすかということです。
 最近大学などで講義をして、学生にレポートを書いてもらうと、生成AIからそのままアウトプットしたものを提出する人もでてきます。あまりにも無味乾燥とした文章で、かつロジックが綺麗すぎることもあって、その不正はすぐに暴かれます。
 
 また、生成AIを単に質問の道具としてだけ使用する人も多くなっています。確かにそれは便利で、単純な質問であれば、問題なく回答を得ることが可能です。しかし、そこに思想や歴史観などより深い情報へのアクセスを求めたとき、AIは躊躇なく語ってはくれますが、その出典を問いかけ、さらに多方向から質問を繰り返してゆかない限り、信頼のできる、さらに求める回答に正確に行き着くことはできないかもしれません。
 そうした意味を込めて、生成AIに冒頭で示した作業を基に、いくつかの実験をしてみたのです。
 

シャンポリオンのように古代文明の融合を解読する

 19世紀初頭にフランスのシャンポリオンが、ヒエログリフを解読したとき、その解読のヒントとなったがロゼッタ=ストーンであったことを思い出しました。紀元前196年に制作されたロゼッタ=ストーンには、古代ギリシャ語とヒエログリフ、さらに当時の民間の文字が併記されていたのです。
 シャンポリオンは、ヒエログリフの古代ギリシャ文字と、エジプトに残るコプト語との関係を理解した上で、ロゼッタ=ストーンに挑みました。そこに記されていた古代ギリシャ文字から、コプト語の知識を借りて、その解読に成功したのです。
 
 実は、オールドカイロの博物館に保存されている2冊の聖書のうち、一つはアラビア語と古代ギリシャ語とが併記されていました。シャンポリオンに挑戦するように、中世に作成されたこの聖書の文字をGeminiに見せて、翻訳させた上で、その翻訳文を読みながらこう質問してみました。
 
 「あなた(Gemini)の説明から面白いことがわかりました。そこに翻訳された『憐れみたまえ』という祈りは人間が罪深いという、キリスト教の原罪説につながりますね。しかし、アラビア語を話すイスラムの世界では神は偉大だと讃えることに主眼がおかれ、人間は罪深いとはされていませんが、カイロにおいて、聖書の世界でこうした二つの言語が併記されているのは、お互いの宗教観の違いを受け入れる社会背景があったからでしょうか?」
 
 シャンポリオンは文字と言語の融合から古代文明の解読を試みました。そして今回は、文明同士の融合の過程そのものの解読に挑んでみたのです。
 この質問から始まり延々と4時間にわたって、Geminiとの会話が続きます。時には出典を問いただし、仮説で問いかけ、さまざまな方法で対話を続けてGeminiからの知識を引き出しました。先に紹介したヒエログリフを後世のローマ帝国がエジプトの統治にどのように利用したかといった問いかけも行い、対話が続いたのです。
 
 その結果、一つのことが導き出されます。中世のエジプト社会では、イスラム社会の公用語であるアラビア語が普及したとき、コプト教を信ずるキリスト教徒も、自らの教えをアラビア語で信徒に伝えていったことがわかりました。そして、イスラム教の支配者も、キリスト教徒の活動を認め、彼らが王朝の官吏として働くことも可能であったとわかりました。
 
 さらに対話を続けると、古代エジプトの多神教の世界と、一神教であるキリスト教と、その後普及した一神教のイスラム教の世界とが、そこで使われていたヒエログリフが承継され、ギリシャ語、ラテン語、アラビア語と変化する中で、さまざまに影響を与え合い、その痕跡が現在のキリスト教社会にも、イスラム教社会にも残っていることもわかりました。さらには、その影響がシルクロードを通って我々が日常接している仏教にも伝承された可能性があることなど、さまざまなことが浮かび上がってきました。そして、シャンポリオンもそうした文明の交錯を利用してヒエログリフを解読したのです。
 
 今、アメリカとイランが、キリスト教とイスラム教の代理戦争であるかのように反目し、お互いを傷つけ、世界に暗い影を落としています。
 しかし、古代人の知恵をこうして解読すれば、我々人類は同じ文明を共有し、それぞれの文明を交換しあい、享受することで進化してきたことがわかってきます。その証拠をエジプトで古代文字をGeminiに解読させたことを手掛かりに、古代から中世のエジプト社会に光を当てることで、追い求めることができたのです。中世エジプト社会ではイスラム教もキリスト教もお互いを認め、受け入れながら、文明の糧としていたのです。
 

仮説をぶつけてAIと共に答えを模索すること

 AIをいかに使うかということを考えるとき、積極的にこうした仮説をAIに問いかけ、AIと共に答えを模索する対話が必要であることを体験した瞬間でした。単に人間がAIに支配される課題と、人間がAIをただ便利な道具としてのみ使用する毎日から離れ、シャンポリオンの頭脳に挑戦するような対話ができることこそ、今後、我々がAIと付き合ってゆく上でのヒントとなるのではないでしょうか。
 
 エジプトでの経験は、そうしたことを実感できる貴重な体験だったようです。
 

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