Britain should consider all options for its future relationship with the European Union, including ultimately rejoining the bloc, Prime Minister Andy Burnham has said.
イギリスは、EUとの将来の関係構築について、究極はEUへの復帰も視野に入れたあらゆる選択肢を検討すべきである——アンディ・バーナム首相はそう述べた。
Reuters(2026年9月30日)より
物価高と移民排斥が揺らす英国政治
現在のイギリスの首相アンディ・バーナム(Andy Burnham)氏は、就任当初から高い支持率を維持しています。
彼は、もともとグレーター・マンチェスター市長で、その当時、公共交通を一元化し運賃を抑えるなどの改革を成功させた勢いで、いきなり政界のトップに躍り出たのです。労働党の党首として、社会改革を通して物価高や移民政策などに具体策で取り組もうという意欲が、支持率を支える原動力となっています。
イギリスは、他の国と同様に最近の世相を反映してか、ナイジェル・ファラージ氏の率いる移民排斥を訴える右派ポピュリズム政党リフォームUKが台頭するなど、政界に多くの波風が立っていました。
実際、イギリスでの物価高や庶民の生活苦は他人事ではありません。それは日本やアメリカを含む先進各国に共通した課題なのです。イギリスで自動車に給油すれば、1リットル約1.6ポンド、日本円でおよそ330円かかります。円安を加味してもその価格は尋常ではありません。このガソリンなどに代表される物価高は人々の生活を直撃しているのです。
ファラージ氏は、こうしたイギリス人の生活を守るために移民の流入をストップし、イギリス人による社会を取り戻そうと訴えて、支持率を伸ばしたのです。今までの保守党と労働党というプロの政治集団による二大政党政治に楔が打たれるのではと多くの人が思ったほどです。
アメリカの場合は、共和党がトランプ政権によってファラージ氏と似た政策に傾斜したことで、二大政党の均衡と対立の状況は変わっていません。しかし、よくよく考えれば、トランプ氏は従来の共和党から見れば異色であり、プロの政治集団に失望しつつあった国民の目からすれば、共和党のトランプではなく、トランプ氏そのものの政策に票が集まったのです。

ファラージ氏と同じ土俵に立たない戦略
バーナム氏はこうした政界の変化を敏感に感じていたのです。つまり、労働党に属していながら、労働党というよりはバーナム色を強く打ち出すことで、より庶民の生活に密着した政治家というイメージを植え付けてきたのです。
それは、トランプ政権に対して民主党が有効な政策を打ち出せない中で、民主社会主義者のゾーラン・マムダニ氏が、トランプ氏とは真逆の主張で、自らの個性によってニューヨーク市長に当選した経緯とも似ているところがなきにしもあらずといえましょう。
ただバーナム氏の巧妙なところは、決してファラージ氏と同じ土俵で戦わなかったことです。バーナム氏はファラージ氏と論戦を挑まず、人々の生活を安定させることのみに注力した主張を続けました。ファラージ氏は社会問題の原因を移民というスケープゴートに求めることで人々から注目されました。これは極右政党がしばしば使う手であるともいえましょう。
しかし、バーナム氏は不法移民には厳しく、合法移民やすでに市民権を持っている海外出身者の権利は守るという姿勢で、是は是、非は非という極めて現実に寄り添った政策に終始したのです。
人道という人々の良心にも率直に訴え、難民の救済は必要だと述べる一方で、過去に移民を政府がしっかりと管理してこなかったことは課題であるとして、ファラージ氏を支持していた人々の気持ちへの理解も示しました。
政治は妥協の産物とよく言われますが、バーナム氏は過去の失政は率直に認め、同時に生活の改善を政府の最優先事項とするという手法を取ったのです。この手法は、ともするとトランプ政権のなすこと全てを批判し、そもそもなぜトランプ氏が支持されたのかという社会の課題への効果的な対応策を打ち出せず、分断をそのままにしてきたアメリカの民主党からみても参考になる手腕だといえそうです。
ポピュリズム政権が直面する現実
そこで、マムダニ氏の状況に再び注目します。
彼も、庶民の生活に寄り添い、公共交通や公共教育の無償化などを打ち出し、通常の政治家のイデオロギーを優先した議論よりも、より人々の生活に寄り添った左派ポピュリズムによって市長選を勝ち抜きました。
しかし、実際に政策を実行するとなるとそう簡単にはいきません。まず市が大幅な財政赤字を抱える中で、どこにどのような分配をするのかは容易に判断できないのです。片方を立てれば片方が成り立たないという中で、下手に妥協をしてしまえば、あの勇ましい公約は嘘だったのかという失望につながります。
バーナム氏の場合も状況は似ています。庶民に寄り添った公約は、実際の財政問題を目の前にしたとき、どこまで人々に失望を与えることなくそれを実現できるかとなると一筋縄ではいかないのです。
バーナム首相は、イギリスがEUを去ったことで受けた不利益も現在の経済や外交問題がねじれている原因であると表明し、イギリスのEU復帰も含めあらゆる選択肢を検討すべきだと述べました。こうした言動によって、スコットランドなどの分離独立運動を抑制することができるかも大きな課題です。
そして、アメリカやロシアなどを中心とした大国の論理で国際情勢が揺れ動き、大国が引き起こした戦争などが物価高などの原因を作っているなかで、庶民に寄り添うという首相にとって、内政と外交政策との整合性をどのようにしてゆくかも、政治という妥協の場ではどうしても避けて通れない課題なのです。矛盾した方程式があちこちにある現在、ポピュリズムによって生まれた政権は、それが左であれ右であれ、これらの矛盾から庶民の目を背けて一見心地の良い受けを狙ってきたつけが、どこかで大きな代償になるリスクは無視できません。
アメリカの中間選挙が近づくなか、イギリスに生まれた新政権の帰趨は極めて参考になるケーススタディです。アメリカの有権者の間にも既存の政党への不信感は根強く、ともすれば右と左のポピュリズムの綱引きが目立ちがちです。
既存政党から、そうした不信感を払拭できる優秀なリーダーが出てくるかどうかがアメリカのみならず、今後グローバルな情勢を大きく左右する要因となりそうです。
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