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見通しが立たない大統領選挙の行方にある背景とは

Vice President Kamala Harris showing new strength in North Carolina and Georgia as former President Donald J. Trump erases her lead in Pennsylvania and maintains his advantage in Arizona.

(カマラ・ハリス副大統領は直近の調査でノースカロライナやジョージアで優位に立っていることがわかった反面、トランプ前大統領はペンシルベニアでカマラ・ハリスの票を奪い、アリゾナ州では優勢を維持している)
― New York Times より

有権者の「不公平感」が生み出す政治的な対立

 分断を英語ではGapと呼びます。アメリカ社会の分断が、今回の選挙の結果を不透明にしているという評論をあちこちで見かけます。では、Gapの生み出す社会現象とはどのようなものでしょうか。
 教育格差、経済格差などからくる意識の分断を説く人は多くいます。しかし、その前に、なぜそれが政治的な対立につながるのかということへの分析ができているかといえば、誰もが明快な答えをだせずにいます。
 カマラ・ハリスとドナルド・トランプのどちらが次期大統領になるか、アメリカの専門家でも予測を立てられません。それほど両者の支持率は拮抗しているのです。
 
 この激しい選挙戦の最中に日本でも衆議院選挙があり、自由民主党が大敗しました。この現象とアメリカの大統領選挙における分断を比較してみると、一つの共通点が浮上します。それは「不公平感」という有権者意識が選挙に影響を与えているということです。
 
 社会には充分に教育を受け、経済的にも優位に立つ人の層があります。逆をいえば、充分に教育を受ける機会のない人は、収入の面でも社会的な地位の面でもハンディキャップに苦しみます。
 その苦痛からくる憤懣を操ることで、政治家は得票を試みます。しかし、もしそうした政治家そのものへの不公平感を人々が抱いたとき、それは社会の分断に関係なく、その政治家への評価につながります。これが今回の自民党敗北の原因でした。
 もともと都市部には経済格差の上位に位置する人や、教育を受け物事を批判的に判断する人が多く居住します。こうした人々が左派勢力の基盤となるとき、その逆の立場にある地方で格差に苦しむ人々は、通常「逆の基盤」を形成します。しかし、そうした人々の前に不公平感が突きつけられたとき、「逆の基盤」がぐらつき、今回の衆議院選挙のような結果を導くのです。
 
 一方、アメリカではどうでしょうか。一見この「逆の基盤」のぐらつきがあれば、トランプ候補は選挙に勝つことができないように思われます。言い方を変えれば、トランプ候補に対する不公平感からくる怒りが有権者に浸透しないことが、今回の大統領選挙で両候補の支持が拮抗している原因なのです。
 

アメリカの有権者が抱く不公平感とトランプ氏への期待

 では、アメリカで一般有権者の不公平感の矛先はどこに向けられているのでしょうか。それは、ワシントンD.C.の政治そのものだったのではないでしょうか。そして、トランプ氏は、その政治を操る政治家ではなかったのです。
 なぜ、もともと裕福な家に生まれ、ニューヨークという大都市で不動産の売買によって成功したトランプ氏を、地方の人々が不公平感なく支持するのかという問いを掘り下げてみたとき、一つの事実がみえてきます。それは、既存の政治への不公平感を有権者が抱き、トランプ氏がその不公平感を利用して、普通の政治家なら語らないようなことを歯に衣着せず発言したことが思わぬ波紋を呼んだことです。
 
 つまり、民主党にせよ旧来の共和党にせよ、ワシントンD.C.の議事堂やホワイトハウスで繰り広げられる政治ゲームへの疎外感を有権者が抱き、それが自らの生活面の課題解決につながらないことへの不公平感を意識したとき、トランプ氏はその政治の土俵の全く外で、そんな有権者たちの不満をそのまま拡声器で語ってくれたのです。そのことが彼の岩盤支持層が形成された原因でしょう。ですから、トランプ氏は共和党から支援を受けているものの、その共和党の中にもトランプ氏に違和感を抱いている政治家が多くいるのです。
 トランプ氏は、国民の政治家そのものへの不公平感を、政治家の外の立場で煽ったのです。通常の政治家ならバランス感覚をもって移民への批判などは控えるところを、彼は平気でそれを口にします。諸外国との外交を考え繊細な論調に終始する政治家に対して、彼はアメリカがよければそれでいいのだと言い切ります。
 
 これに対して、カマラ・ハリス副大統領は、サンフランシスコ近郊という大都市で教育を受けた移民の子どもとして成長しました。裕福な家の生まれではないものの、貧困から立ち上がったわけではありません。典型的な都市の教養ある家庭で育ち、公民権運動の洗礼も受けています。つまり、彼女は政治の世界でも左派とはいえ、ワシントンD.C.の空気に染まった人材なのです。
 彼女はトランプ氏が大統領になることは、アメリカの民主主義の基盤を脅かす深刻な禍根となるだろうと有権者に訴えます。アメリカのモットーである移民社会の多様なパワーと、そのパワーに支えられたアメリカ流の民主主義が危機に瀕していると訴えるのです。
 これに賛同する人は多数います。冷静にみれば、その主張には頷けることも多くあります。トランプ氏が大統領になれば、世界のリーダーとしてのアメリカのブランドに傷がつき、アメリカ社会の分断が助長されたまま、差別や偏見による社会不安が拡大するかもしれません。少なくともカマラ・ハリス氏を支持する人々はそのように思い、深刻な危機感を抱いています。
 
 しかし、他の人々はそうした議論そのものに倦怠感を覚えているのです。というのも、アメリカの経済が今までになく好調であるにも関わらず、その恩恵に預かっているのはウォール街の金融投資家や一部の富裕層で、大多数のアメリカ人は生活のために余裕なく働いているのです。
 その歯車が少しでも狂えば、深刻な生活難に見舞われる不安を抱いている人が多数います。医療費の支払いに追われ、子どもの教育にも投資できない人にとって、政治家が政治的な理念をどんなに説いても、疎外感を抱くのみでしょう。つまり彼らは、既存の政治全体に対して不公平感を抱いているわけです。ですから、そうした有権者がたとえトランプ氏が都市部の富裕層であっても、彼の政治家らしからぬ発言に新鮮な期待を抱いたのです。
 

アメリカ大統領選挙の結果が与える影響とダメージ

 アメリカの大統領選挙は今週結果がでます。すでに投票を済ませた人も多くいます。そして、諸外国もその結果に戦々恐々としています。
 トランプ氏が大統領になれば、経済難に追い打ちをかける関税の報復が加速するのではないかと、中国の指導者は思っているはずです。そんな中国と親密なロシアは逆に、トランプ氏がウクライナへの支援を打ち切ってくれると期待しているはずです。日本やEU、そしてアジア各国は、トランプ氏のアメリカ中心の政策の中で、防衛負担を求められ、経済的にもさまざまな不利益を被るのではないかと危惧します。
 しかし、アメリカの有権者は海外の反応に気配りする余裕もありません。今回の大統領選挙はどちらが勝利しても、敗者を支持する人々に与える精神的なダメージが気になります。それほどまでに、双方を支持する人々の分断を治癒することができなくなっているのです。
 

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