The 29-year-old Afghan national has been detained over the shooting of two soldiers in an ambush style attack in Washington on the eve of Thanksgiving.
(感謝祭の前夜にワシントンで29歳になるアフガン国籍の容疑者が、戦争での待ち伏せ攻撃のスタイルで二人の将兵を狙撃)
― Independent紙 より
犯人はアフガニスタンの元CIA特殊部隊員
先週アメリカで起きたことは、日本人にとっても、世界の情勢をみる上で意識してほしいことと言えます。
ワシントンD.C.で、アフガニスタンから移住してきた29歳の男が
発砲事件を起こし、それによって同市の警備にあたっていた二人の州兵が銃弾をうけ、そのうちの一人、20歳のサラ・ベックストロームさんが死亡したのです。
多くの人は、アメリカでよくある銃撃事件かと思うかもしれません。しかし、その波紋は重大でした。トランプ大統領は、この事件を強く非難し、「第三世界」からの
移民の受け入れを無期限で停止し、特にアフガニスタンをはじめとする19カ国から移住してきた人々には、与えていた永住権も再審査すると発表したのです。
アメリカのメディアによると、犯人のラフマヌラ・ラカンワル容疑者は、アフガニスタンがタリバンによって奪還されるまで、特殊部隊としてアフガニスタンでアメリカに協力していた人物でした。
彼はCIAが現地人を雇用して編成した「ゼロユニット」という部隊に所属していました。彼の部隊がイスラム過激派を掃討するために、容赦なく被疑者が居住していると思われる部落を攻撃し、無差別の殺害や処刑に関与していたという報道もあります。その重圧が本人に考えられないストレスを与えていたと、彼の友人がニューヨーク・タイムズのインタビューに答えていたのです。
彼が活動していた
ホースト州は、パキスタンとの国境にも近く、昔は交易で栄えた町でした。あのシルクロードの隊商の行き交う商業の町だったのです。しかし、冷戦時代にソ連がアフガニスタンに侵攻し、その後発足したイスラム過激派による政権が崩壊し、アメリカに支援された政権が成立したとき、彼はアメリカに雇われたのです。
ホースト州は、アメリカ軍と彼らに雇われた現地人による市民への攻撃や殺害事件が頻繁に報告される、我々には想像もできない過酷な戦場だったのです。
戦場での憎しみの連鎖の中で生き抜いた容疑者が、挙げ句の果てに目にしたのは、自らが支持していた政権の崩壊でした。当時のバイデン政権のはからいで、ラカンワル容疑者はアメリカへの入国を認められた亡命者の一人となったのです。
おそらく、ラカンワル容疑者にとってはアフガニスタンに留まる選択はなかったでしょう。そこで待ち受けていたのは過酷な刑罰に他ならないからです。では、なぜ彼はアメリカでこのような暴挙にでたのでしょうか。
一口で悲劇というには余りにも傷ましい事件です。彼がアメリカで州兵を射殺した動機はまだ発表されていません。詳しい調査と聞き取りが必要です。

個人と国家・人種を安易に直結させる危険性
犠牲者となったベックストロームさんは、ウェストバージニア州で自ら志願して州兵の任務に就いていました。若くして銃弾で未来を失った彼女への同情は当然のことでしょう。アメリカの世論もアフガニスタン人の犯人への憎悪に傾きがちです。銃弾を受けたもう一人の24歳の青年も、重体で予断を許さないと発表されています。
一方で、こうした事件が起こるたびに気になるのが、犯人の背景、つまり国籍や人種への偏見です。個人の起こした犯行と、国家や人種とを安易に結びつけることは、重大な差別や偏見の原因になります。日本人が海外で罪を犯したからといって、我々が偏見を受けるのが理不尽であることと、同じ理由です。
トランプ大統領は、容疑者を「アニマル」と非難し、彼を入国させたバイデン前大統領の政策も強く批判しました。しかし、そうした感情論では片付けられない事件の背景にあるもつれた紐については、一切言明を避けています。
今、日本にも海外から多くの人々が流れ込みつつあります。そのなかで、共生とは何かという課題が社会に突きつけられています。
そのときにも、ともすれば個人の犯罪と国家や民族とを混同させた言動が多く見受けられます。さらに、犯罪を憎みながらも、その背景への検証や犯罪がおこる状況への理解や同情の意識が薄れつつあります。このことが、追い詰められた人をさらに追い込み、新たな犯罪への連鎖となり、さらにそれが人々の憎しみという悪循環へとつながります。
アメリカの場合、もしトランプ政権が第三世界からの移住者の門戸を閉ざした場合、世界で行き場を失ったどれだけの人々が犠牲になるか、想像もつきません。アメリカだけがそうした役割を担うことには無理があることは理解できます。しかし、他の国家が世論を動かして地球や人類全体のために税金を使うようになるかといえば、そこには幾重もの高いハードルがあります。日本も例外ではありません。ですから、これは日本も含む世界の課題なのです。

地域活動を主とする州兵の首都派遣を背景に
ところで、アメリカにおける州兵とはどんな軍隊かと疑問を持つ人も多いでしょう。
州兵は、予備役となった人やボランティアによって州ごとに編成される自衛組織で、その指揮権は州知事にありますが、国家的な必要性によっては大統領も指揮権を発動できます。通常は災害救助や地域社会への貢献活動をしているため、軍事組織として特別な訓練を受けているかといえば、国軍である陸海空軍のような洗練された教育を組織的に行なっているわけではないのです。
実は、そんな州兵を首都ワシントンD.C.に派遣する決定をしたのは、他ならぬトランプ大統領でした。都市としてのワシントンD.C.の行政は、選挙によって民主党の市長に託されています。共和党右派であるトランプ大統領は、そんなワシントンD.C.の治安維持に問題があるとして、つい最近州兵による警察活動を命じたのです。これが地方自治の権利を侵害するとして、アメリカで問題視されていた矢先に起きたのが今回の事件だったのです。警察よりも治安維持に対しては素人である州兵を派遣したことで、こうした事件が起こりうる危険性は、アメリカの主要メディアでも報じられていました。
今回の銃撃事件は、このように政治が産み出した複雑な矛盾によって発生した悲劇です。犠牲となった州兵にとっても、加害者である容疑者にとっても、本当の犠牲者と加害者が誰なのかを考えさせられる悲劇です。
一つのニュースに我々が接するとき、その背景にあるこうした複雑な事情や事実に目を向ける余裕がなくなりつつあることは、危険なことだといえましょう。
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