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トランプ大統領と世界の気まずい調和の間で犠牲になる人々

Javid Khales, an Iranian soldier, has sentenced death for refusing orders to shoot protesters during nationwide unrest.

(ジャヴィッド・カーレスというイランの兵士は、イランで抗議する民衆への発砲を拒否したことで死刑に処される)
― Masi Behdad の Facebook より

厳しい統制下のイランから漏れ伝わる国民の悲劇

 イランから、民主化運動を弾圧する厳しい報道規制をかいくぐって持ち出されている映像が、インスタグラムなどのSNSを通して拡散されています。
 18歳の少年が軍隊の銃撃を逃れ、遺体の中に隠れていたところ、他の遺体と共に袋に投げ込まれ、3日後に家族が知人を通じて、賄賂によって軍からその袋を受け取り、なんとかその少年を救出した話も伝えられています。
 軍人の中には、この悲劇を収賄ビジネスに利用しているという悲しい事実があるのです。残酷なことに、遺体を引き取るときまで賄賂が要求されると伝える動画もあります。しかも、行き場所を失った海外のイスラム過激派の民兵が雇われ、抗議を弾圧する役割を担っているという報道もあり、犠牲者の数もわかりません。
 イランの正規軍の中には民衆に同情して処刑された軍人が顔写真つきで掲載されました。死刑判決が下されたことを伝えた記事(2026年1月3日)が今回のヘッドラインです。ショッキングで辛いニュースです。
 
 お年寄りが、こうした監視の目をかいくぐって「トランプ早く来て!」と壁にスプレーで文字を書いている痛々しい様子も伝わってきています。
 アメリカに亡命しているパーレビ元国王の息子クロシュ・レザー・パーレビは、ノースカロライナ選出の共和党上院議員リンゼイ・グラハム氏などを通して、トランプ政権に必死のロビー活動を行なっていますが、先行きは不透明です。
 ロビー活動を受けている当のトランプ大統領の姿勢がはっきりしないのです。
 

“TACO”なトランプ大統領に翻弄される米国と世界

 そんなトランプ大統領はグリーンランドを領有すると宣言し、それに抵抗したヨーロッパの国々に関税をかけるというお決まりのカードを切った数日後、それを撤回しました。EUに不安を煽り、NATOの連携にヒビが入ることを懸念し、株価が大きく変動したことがその理由の一つだといわれています。
 
 ウォールストリートでは、投資家などが大統領の有り様を “TACO” と言ってなじります。Trump always chickens out. という言葉をもじって、単語の頭文字を集めた言葉です。Chickens out とは英語で「怖気づく」という意味で、Chicken は鶏ではなく「臆病な」という意味で使われます。
 
 そんな騒動の最中に、世界中の経済界と政界の人々がスイスに集まるダボス会議が開かれました。ウクライナのゼレンスキー大統領も招かれ、アメリカの仲介でロシアとの和解を進めることが発表されました。EU諸国はなんとかアメリカを暴走させずにグリーンランド問題を片づけようと、気まずい和解のムードを醸し出していました。
 
 トランプ大統領は、国内ではICE(移民捜査官)の暴行に批判が集まり、金曜日にもICEによって連行された親と共に、5歳の子どもまでが収監されたことが問題となりました。子どもとその親は南米から合法的に移住してきた事実が明らかになったことで、ICEへの抗議が全米に拡散しているのです。そして、週末にはミネアポリスでICEが37歳の看護師を射殺する事件まで発生し、アメリカ社会が騒然としています。ミネアポリスでの射殺事件はこれで2件目です。
 
 このように内政と外交の双方でさまざまな騒動を起こしている大統領ですが、1月22日に発表された最新の New York Times の世論調査では、この一年でアメリカが「良くなった」と答えた人は 32% で、「悪くなった」と答えた人の 49% と大きな差がついています。それでも5割はトランプ寄りの人がいると評する人もいますが、明らかにトランプ政権の方針に疑問を抱く人が増えつつあることは事実でしょう。
 
 問題は、大統領選挙のたびにアメリカの政策が大きく変わることに世界が翻弄され、さらにトランプ政権の強気かと思うと、TACO と評されるようにそれを転換させる極端な変化に世界が当惑していることです。実際ヨーロッパの世論は、軍事だけでなく経済や科学技術を含め、アメリカの影響力があまりにも大きいことがリスクなので、日本やアジアとも連携して、できるだけ早く脱アメリカへと舵を切ろうという意見もみられるようになりました。しかし、日本の政府がプロアクティブに世界情勢に挑むかは、その能力からして悲観的です。
 
 戦後に作られた国際社会のガードレールは、民主党政権であろうが共和党政権であろうが、安定してぶれないアメリカへの期待に沿って建設されたものといえます。
 そんなガードレールを歯にたとえれば、歯茎であるアメリカがぐらぐらしはじめることで、世界にもさまざまな影を落とすようになったのです。
 
 トランプ大統領は、自らのビジョンを強く打ち出せば、経済の実態や海外と作ってきたガードレールに阻まれて、拳を上げたり下げたりしていることになります。皮肉にも、その行為によって歯茎がさらにぐらつくわけです。中間選挙までにクリーンヒットを狙う大統領の行動の矛先が、ウクライナ和平に向けられるのか、ガザ地区の安定へのさらなる介入なのか、ほんの2週間前まで世界の注目を集めていたイランの自由化運動への支援なのか、トランプ政権の動きが中途半端になればなるほど、先行きが見通せなくなってしまいます。
 

波にもまれる国家の中で犠牲になる市民たち

 確かに、戦後に培われた制度の見直しは必要でしょう。
 実際に、国連や国際司法裁判所が実効力を失いつつあるなかで、新たな求心力をいかに模索するのかという課題は、これからも何度となく議論されるはずです。トランプという「覇王」のご乱心を諌め、その挙動を持ち上げたりかわしたりしながら、3年後の大統領選挙までには歯茎の治療をしてほしい、というのが西側世界のリーダーの本音でしょう。ですから、国際政治は今後も大波や小波に揉まれるはずで、主要国自身がサバイバルに懸命なことから、イランにせよ、ウクライナにせよ、そこで苦しむ人々をどう救済するか道筋をつけることが困難なのです。
 その結果、今日も明日も、たとえばテヘランでは自由を求める人々への抑圧や虐殺が繰り返されているのです。
 
 この事実をみたときに、国連が2005年に採択した R2P という国際規範を思い出す必要があります。R2P とは、Responsibility to Protect という言葉を簡略化したもので、過去にアフリカや東ヨーロッパでおきた国家による国民の大量虐殺を繰り返さない仕組みづくりへの提案です。
 それは、各国の主権を尊重しながらも、国家の悲劇を事前に予防し、国家が市民を保護できないことが明白な場合は、必要によっては介入することも必要だとする国際社会の規範を創ることを取り決めたものです。
 
 しかし、その後も世界で何かが起これば、アメリカやロシア、中国など国連の常任理事国となった大国が自国の利益に沿って介入をし、ヨーロッパ諸国や日本などの先進国もそれぞれの利害によって、それを見て見ぬふりをしてきたことが、国連に対する信頼の欠如へとつながったのです。
 その信頼の欠如によって、我々が世界市民であるという意識が希薄になり、世論が内向きへと傾斜をはじめたのです。その傾斜を利用してアメリカファーストを唱えるトランプ氏が大統領になり、彼の TACO と呼ばれる拳の上げ下げに世界が唖然としながら、見えない未来への不安だけが増長しているのが、現在の国際情勢であるといえるのではないでしょうか。
 

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