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アメリカ (欧米) との交渉術について特に知っておきたいことを教えてください。(その1)

エグゼクティブ・コーチング(35)

今ほど、アメリカのビジネスカルチャーについて真剣に理解しなければならない時はないと思います。
それは、何と言っても、アメリカのビジネスの中でも最も保守的で、かつアメリカのビジネスマインドを行動原理としているドナルド・トランプが大統領になっているからです。

例えば、アメリカ政府は、円安を誘導する日本を強くけん制しています。その一方で、日本はとても大切な同盟国として、北朝鮮や中国の脅威に対する連携を約束します。そして、同時に中国には今後信頼関係を築いてゆくと発表します。複雑な国際政治や経済関係の中で、過去にもアメリカは同様な一見矛盾したアプローチを続けてきましたが、これからはさらにそうした傾向が強くなるはずです。

では、この背景にあるアメリカ人のビジネスマインドとはどのようなものでしょうか。
まず、理解しなければならないのは、アメリカはモノクロニック monochronic なアプローチをとる国民性があるということです。モノクロニックとは文字どおり「単色的な発想」ということを意味しています。
常に、背景の異なる移民社会の中で育ってきた彼らは、メッセージはできるだけ単純に明快に伝えたがります。例えば、同じ交渉相手と複数の課題について打ち合わせなければならないとき、それを一つ一つ別の議題として、分離して、個々に分けて片付けながら前に進みます。
それに対してアジアの多くの国々は、ポリクロニック polychronic です。
例えば「恩と義理」という概念が日本人にはありますが、恩があれば自動的に義理が発生するわけで、人々は恩と義理とを同時に話し合い交渉することが可能です。
しかし、こうした複数のことを同時に混合させながら進行させるやり方は、複数の価値観が絡まり長年にわたって文化を形成してきた人々特有の発想法なのです。

ですから、アメリカでは、円高の交渉と、自動車業界のアメリカでの工場運営の話とは、一見同じ経済問題の範疇での課題にみえるものの、実は全く異なったテーブルで、異なった対応で交渉をしてゆくべきなのです。
そしてその集大成としてでてきた結果をもってアピールすればよいのです。つまり、「円高を是正する交渉なのだから、自動車問題も同じテーブルで」と一つの場で全てを団子にして交渉することは大変危険なのです。

ということは、アメリカでは交渉の時にグランドルールの設定がとても大切になってきます。
アジェンダを明確に設定し、そこで取り上げられる事柄がどのような段階でリンクしてゆくのかをしっかりとお互いに確認しなければ、日本側は交渉がうまくいったつもりでも、アメリカは「それはそれ、あれはあれ」と、まったく別の次元で理解していて、あとでとんでもない摩擦ともつれの原因になってしまうのです。

最後に、ユニバーサル universal とシチュエーショナル situational という概念の違いについても触れておきましょう。
日本人は相手と合意したことなどでも、状況によって原則ですら変更し、お互いに痛みを分け、情状を理解し合うことで物事を解決する傾向があります。
それに対して、アメリカでは一度決めたルールについてはそれを honor あるは respect (どちらも尊重するという意味) することを第一義とします。
従って、状況が変化したときは、必ず最初の合意がどうであったかを確認した上で、論理的に状況の変化に対応する方策を考えない限り、単に情でそうした話をもっていっても、それは相手に対しての背信行為ということに取られかねません。

逆に、一度お互いに合意した範囲内であれば、個々の判断はより多く現場が担っており、日本のように常に上部への報告と「報連相」を求められる社会からみれば、その場その場での小さな判断は実にタイムリーにしてくれるのもアメリカの社会の特徴です。

これから、日米交渉は、軍事、外交、経済、そして個々のビジネス案件と、ますます世界の利害と絡んだ複雑な対応に忙殺されるはずです。こうした時代であれこそ、ここに触れた彼らのビジネスマインドについて、しっかりと理解しておくことが大切なのです。

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『日英対訳 アメリカQ&A』山久瀬洋二日英対訳 アメリカQ&A
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

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