海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

重慶市での共産党幹部の失脚と反日デモとの微妙な関係


【海外ニュース】

A Chinese court on Monday gave Gu Kailai, the wife of a disgraced Communist Party leader, a suspended death sentence for the poisoning death of a British business associate who she reportedly feared was plotting to harm her son. In the Chinese legal system, such a sentence is often commuted to life in prison. (International Herald Tribuneより)

中国の裁判所は、失脚した共産党の指導者の妻谷開来に対し、息子への危害をおそれたという動機でイギリス人のビジネスパートナーを毒殺した罪で執行猶予付きの死刑を言い渡した。中国では、こうしたケースは多くの場合終身刑に減刑される。

【ニュース解説】

この記事、中国の次世代の指導者と目されていた、共産党幹部で四川省重慶市党委員会書記であった薄煕来の妻にまつわる事件の結末です。この殺人事件がもとで、薄煕来の不正蓄財や四川省での汚職追放運動などに関するスキャンダルが暴かれ、彼自身も失脚 disgrace しました。執行猶予付き死刑 suspended death sentence とは中国独自の法制度で、文化大革命の後に処罰された毛沢東の妻、江青に課せられた刑として有名。多くの場合本人の反省をもって終身刑などに減刑される commuted ことになります。

日韓関係についで日中関係が領土問題で揺れています。日本が隣国の全てとうまくいかないことを、ただナショナリズムの高揚で解決できるのかを考える材料として、この事件に見える中国国内の事情を解説してみたいと思います。

中国は、文化大革命 the Cultural Revolution の惨禍とその後の経済政策の転換、その結果おきた民主化運動との後遺症に悩んでいます。文化大革命で受けた経済的ダメージからの回復を押し進めたのは鄧小平でした。彼の治世下に懸念された、経済改革を進めれば資本主義的な考えによって共産党一党支配そのものが揺るいでしまうという矛盾。それが顕在化したのが天安門事件 The Tiananmen Incident でした。この時鄧小平は共産党独裁を守るために民主化運動を封じ込め、当時の改革派と目されていた人々を中央からも追い落としたのです。その中で見事な政治手腕で政権の中枢に座ったのが江沢民でした。彼は自らの背景である上海の政治に関わる有力者を昇進させ、権力の礎とします。上海閥の台頭です。薄煕来とその妻は、この派閥とリンクする大物だったのです。

自由経済を積極的に導入しながらも共産党の一党支配を維持しようと江沢民がとった政策の一つが、中国共産党が抗日戦争に勝利して国の危機を克服したという、共産党の存在意義を強調する教育政策でした。つまり上海閥と反日運動には微妙な関連があるのです。その結果中国で反日意識が高まりますが、経済は驚異的な成長を遂げました。現在の中国の指導者である胡錦濤は、地方での手腕をかわれて出世した人物で、上海閥ではありません。電力関連の分野で頭角をあらわし、中国の複雑な政治闘争を生き抜いた胡錦濤は、退任後の江沢民とその一派、さらに文化大革命以来の保守派との微妙な力関係の上に政権を維持しています。

そんなバランスを維持するためか、胡錦濤は自らが出世する途上でチベットの統治に関わり、ここでチベットの民族運動を弾圧した経緯があります。彼のしたたかな政治手腕をものがたる事件ですが、チベット人の中に彼への強い怒りを植え付けてしまったのも事実です。上海閥などとの力学、経済発展による民主化意識、チベットなどでの民族運動、そして貧富の差などの社会矛盾からの不満こそが、現政権のアキレス腱となりうるのです。薄煕来の失脚は上海閥との微妙な関係の上でおきた政治的事件でもあり、アメリカ政府などはこの動向に特に注目しています。

中国では、地方の政治動向と様々な民衆運動などがそのまま中央政府の力学につながります。中国で大きな民衆運動があるときは、必ず政治的背景があり、反日運動も単なる日本への抗日意識の表明ではありません。だからこそ現政権はその暴走を危惧します。薄煕来の失脚と反日運動の高揚の向こうにあるものは。このテーマを胡錦濤政権の行方とともに見つめる必要があるのです。

今の日本の感情的なナショナリズムが、中国の政治にどう利用されるかが危惧されます。我々は、こうした複雑な力学の上にある胡錦濤政権をしっかりと見つめ、対応を冷静に検討しながら、地方レベルまで浸透した次世代の中国の指導者候補とのパイプを地道に作ってゆくことが先決なのではないでしょうか。

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