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大統領選挙に見えるアメリカの分断

【海外ニュース】

Obama comes on strong, Romney stands ground in second debate(CNN より)

2度目のディベートでは、オバマは強く、
ロムニーは一歩も引かず

【ニュース解説】

本日 (日本時間の水曜日、アメリアでは火曜日夜)、ニューヨークのロングアイランドで開催された2度目の大統領候補のディベート Presidential Debate は、今回の大統領選挙の行方を決定づけるものになるのではと、予想されていました。結果は、1度目に防戦に終始したオバマ大統領が積極的に持論を展開。それに対してロムニー氏も一歩も引かず応戦という白熱したものになりました。

今回のディベートは、タウン形式といい、町の集会場の雰囲気で、まだ支持者を決めていない有権者 uncommitted voters 80名から質問を受ける形で、進められました。両候補は政策全体に対して論戦を展開しましたが、特に経済的な低迷に苦しむ中産階級への政策に、議論が集中しました。

直後の調査では、ディベートではオバマ氏が勝利したとする人が7%上回る一方、ディベートの結果とは関係なく、経済政策など一般的な政策では、ロムニー氏の方を支持するという人が、オバマ氏を依然上回っているなど、未だに選挙の行方は混沌としています。

なぜでしょう。それはアメリカそのものが混迷し、人々がどこに向かってゆくべきか迷っているからに他なりません。
オバマ大統領は漢方薬を強調します。雇用を促進し、強いアメリカを再生するには、教育、職能、さらにそれを公平に評価できる社会システム、加えてクリーンなエネルギーの育成などの必要性を強調します。

それに対して、ロムニー氏は、オイルビジネスなど、従来アメリカがリードした業界を再生させ、人民元を自由化しないことで貿易赤字をアメリカにもたらす中国などの脅威を取り除くことによって、アメリカ経済を再生させることを強調します。いわゆる抗生物質 antibiotic 的な政策です。オバマ氏は高所得者に税金を付加し、財政を健全化しながら、中産階級を救おうとし、ロムニー氏は減税によって中小ビジネスを再生させ、アメリカ全体を活性化しようとします。どちらも、現在いかに中産階級が経済的に苦しんでいるかを理解した上で、処方箋の提供に懸命です。

日本にとっては、中国の脅威が目前にある以上、中国に対して強硬な政策をとることに肯定的なロムニー氏を支持する人も多いでしょう。
しかし、日本にとって大切なことは、アメリカ経済が安定し、国として強力であることです。そうした意味からは、安易にロムニー氏の政策だけを鵜呑みにはできません。ロムニー氏はバイアウトファンドなどの経営でその手腕を発揮し、マサチューセッツ州知事時代には、保険制度の改革や財政再建などで功績を上げた人物で、ビジネス上の手腕と政治手腕の双方を持つ政治家として知られています。とはいえ、ブッシュ政権のときに、中東の戦争に巨費を投じ、大企業と金融資本優先の政策で、リーマンショック以降の混乱を招いた共和党の時代を人々は忘れてはいません。

アメリカ国民は、ロムニー氏の手術者としての手腕を買うか、長い道のりかもしれないものの、オバマ大統領のビジョンであるアメリカそのものを金融資本によるマネーゲームの国から、中産階級の人力と経済力によって繁栄する国家に体質改善してゆくかという選択を迫られているともいえましょう。

従って、今回の論戦は拮抗し、ディベートそのものではオバマ大統領が有利ではあったものの、選挙そのものの行方はさらに次のディベートと、選挙間際までのキャンペーンにかかっているというのが現状なのです。
以前、アメリカは人種によって分断されていました。しかし、今はそうした分断と共に、イデオロギーで、さらに持てるものと持たざるものとで分断されているといわれています。今回は、そうした複雑なアメリカ社会を象徴するような熾烈な選挙になっています。

ちなみに、日本のことはディベートでは全くといっていいほど触れられませんでした。今、アメリカの知識人は、日本の直面する領土問題の存在は知っているものの、ほとんど無関心です。「グローバルな時代にあんな小さな島で騒動を」というのが、大方の見方です。

大統領選挙でのディベートは、候補のプロとしての能力全体を問われるもの。ディベートのあと、候補の発言の検証までメディアは細かく分析し、発言中の国民の反応を分単位でモニターします。
一国の指導者になるための関門とはいえ、この試練が大統領候補に3回、副大統領候補に1回課せられるということは、日本の政治のあり方を考える上でも参考になるはずです。

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