ブログ

国際政治の思惑を尻目に世界を変えるK-POP現象

Specialists from around the world gathered in Tokyo this week for a series of innovative workshops about cross-cultural communication.

(世界各地のスペシャリストが東京に集まり、文化の異なる人々とのコミュニケーションの促進を目指したワークショプを開催)
― Bespoke Intercultural Group の Linkedin より

ロシアに隣接した国々に流れる韓国文化の風

 韓国に堤川(チェチョン)という都市があります。その地域の教育施設の中核ともいえる世明大学校で教鞭をとる李教授とは、毎年数回お目にかかるチャンスがあります。今回は彼女も招待し、文化の異なる人々とのコミュニケーション促進のノウハウを研修するワークショップを東京で開催しました。
 
 李教授は今回の来日直前に、ロシアに隣接した旧ソ連の構成国家であったジョージア、アゼルバイジャン、そしてアルメニアを訪問していました。
 そういえば、去年はルーマニアとブルガリアでしたねと尋ねると、毎年この時期に海外出張があるとのこと。彼女はもともと第二次世界大戦前後の日本文学と韓国との関係を専門にしていたのですが、最近ではK-POPと韓国語、韓国文化に関連した現地の大学、学生との交流のために、彼女の所属する学術グループからの招待で定期的な出張があるとのことです。
 
 最近よく報道されているように、ジョージアにはウクライナ戦争でロシアからの徴兵を嫌うロシア人が増加し、住宅価格が高騰し、ロシアからの避難者の受け入れによるロシアとの微妙な関係の中で揺れている国として知られています。
 そこでは韓国語学科で学ぶ学生も増えつつあり、授業は韓国語のやり取りで実施されたとのことでした。
 

政治経済の支配をめぐる西側と東側の攻防

 西側に所属する国からのそうした動きに神経を尖らせているのは、他でもないロシアのプーチン大統領でしょう。周辺の国家がロシア離れすることへの孤立感をなんとか払拭しようと、今彼らは北朝鮮などの友好国に加え、アフリカ諸国にも熱い視線を送っているのです。穀物の高騰で苦しむ途上国に無償で小麦を供与するなどして、こうした地域の国家の取り込みに懸命なのです。
 
 このロシアのライバルが、近年急激な経済成長を遂げつつあるインドです。インドは自前のIT技術によるインフラ整備を通して、アフリカとの関係強化に努めています。物量や軍事力に物を言わせることなく、政治経済上の支配を懸念することのない彼らのソフトなアプローチは、アフリカ諸国にとって好感をもって迎えられています。それは政治や経済でアフリカを傘の下に入れようとするロシアや中国のアプローチとは対照的でした。
 
 忘れてはならないのが、同じように、過去に好感をもって西側の経済や文化を吸収しようとしたのがウクライナだったという事実です。
 ロシアが2010年代になって、今話題になっている私兵グループのワグネルなどを中東やアフリカに派遣し、親露政権の維持に懸命になっていた時期に、ウクライナでは次第に民意がロシアから離れてゆきました。もともと旧ソ連の強い中央集権制度の中で経済的にも立ち遅れていたウクライナが、旧ソ連の崩壊に伴う国内の政治的な混乱が続く中で、次第に西側の経済力と自由な発想への憧れへと傾斜していったことは容易に想像できます。
 こうした動きは、旧ソ連に属していたバルト三国などでも顕著でした。これらの地域はロシアと決別し、EUのみならずNATOにまで加盟したのです。
 
 一方、バルト三国と比較すると、ソ連が崩壊した時期に、ウクライナはそのことをさほど甚大な変化とは受け止めていなかったようです。独立したウクライナには親露政権が打ち立てられ、モスクワとキーウとの往来も以前のままでした。そもそもソ連時代の政治の中心はモスクワでしたから、ウクライナには効率的に国家を運営させる政府機能のノウハウすら整っていなかったのです。
 こうした政治的な状況と、その後の民意の西側への傾斜というねじれ現象が顕著になった頃、ウクライナにロシアとの領土問題が勃発したわけです。
 これが国民の間に燻っていた親露政権への批判に火をつけ、2014年に当時のヤヌコーヴィチ大統領に対する激しい抗議活動へと加熱していったのです。その混乱の中で、ロシアが電撃作戦によってウクライナから獲得したのがクリミア半島だったのです。
 
 当時、欧米はバルト三国や旧東欧圏と同じようにウクライナを自らの陣営に引き入れようと様々な動きを見せました。
 アメリカは一時ルーマニアへの大陸間弾道弾の配備も検討します。ウクライナをターゲットにした政治と経済での支配を、民主主義の大義という錦の御旗を掲げることによって実行しようとしたのです。
 

国境や文化を超えてK-POPが自由な風を送り込む

 こうして、ウクライナを巡ってロシアと西側諸国の対立が鮮明になったころ、その遥か東の半島で芽生えたK-POPが世界を魅了し、アジアの若者が元気に踊り歌う姿が旧ソ連の構成国などにも伝播したのです。
 韓国は、低迷する経済の課題を救う救世主とまでに、この動きを歓迎しました。そして、いつの間にか、これらの国々ではK-POPはあたかも民主主義を拡散するミッションであるかのように、受け取られるようになったのです。
 それは日本人にとっての「韓流」とは異なる、自由な空気を満載した爽やかな風として捉えられたのです。この現象を嫌ったのが、中国だったことは印象的です。韓国と中国とは、反日政策で共闘しているように思っていたときに、中国が国内でのK-POPの拡散に待ったをかけたことで、二つの国の関係は急激に冷え込んでしまったのです。そんな時、韓国でも大統領選挙があり、日本との前向きな未来を模索しようとするユン政権が誕生したのです。
 
 記憶に新しいのは、前回のアメリカ大統領選挙の時に、アメリカ至上主義を掲げるトランプ前大統領への抗議がK-POP愛好者の間で拡大していったことでした。李教授やその一行は、こうした波に乗りながら、旧ソ連、そしてその衛星国家から分離した東欧や中央アジア各地を訪問しているわけです。
 ある意味でK-POPの流行は、アメリカの経済戦略や国際政治での様々な思惑を凌駕して、そうしたものとは全く無関係に、世界に自由な風を送りこむ役割を担ったのです。
 
 ジョージアでは、ロシア系移民が増えればそれを口実にプーチン大統領が攻撃を仕掛け、自国が第二のウクライナになるのではという懸念が広がっています。李教授のジョージア訪問は、こうしたタイミングの中で、韓国の現代文化の輸出を通し、民主主義国家の支援のメッセージを現地に届けたことになるわけです。
 

 李教授にも出席してもらった今回のささやかなワークショップには、世界10か国の異文化ビジネスコミュニケーションの専門家が集まりました。実際に参加できなかったシンガポールとアメリカのシアトルからも、Zoomを通して意見交換に加わってもらいました。私も含めた参加者に共通した思いは、人々が異なる文化背景を楽しみ、それらを融合することから、より強いビジネス文化をいかに創造するかというテーマを追いかけることでした。
 
 そして教授からは、このワークショップのテーマを背景に、文化や国境を越えたK-POP現象について、さらに多くの情報を学ぶ予定にしています。
 いつかジョージアやアゼルバイジャンなどの人々も、このワークショップに招待したいと思ったのは、私一人ではないはずです。
 

* * *

『働く選択肢を世界に広げるためのグローバル就活・転職術』大川 彰一 (著)働く選択肢を世界に広げるためのグローバル就活・転職術』大川 彰一 (著)
終身雇用という神話が崩壊した現在、これからの就活は最初から世界を見据えて、自身の専門性を高めていく活動が必要となっています。本書は、日本で生まれ育った人、長期の留学経験がない人でも、グローバル就活のスキルを得られるように構成しています。それは、社会人でグローバル企業への転職や海外での再就職を検討している方にも応用できるものです。グローバル就職のためのマインドセット、英文履歴書の作成方法、英語面接の際に絶対押さえておきたいポイント、休み期間やギャップイヤーに参加できる海外経験の積み方など、徹底的に、そして具体的に体験談も交えながら紹介します。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP