海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

オバマ再選をもたらしたアメリカの背景


【海外ニュース】

Obama scored a decisive victory by stringing together a series of narrow ones. Of the election’s seven major battlegrounds, he won at least six.(ワシントンポスト紙より)

オバマは激戦州をしっかりとつないで勝利を収める。7つの戦場のうち、少なくとも6つを制す。

【ニュース解説】

今回のアメリカ合衆国大統領選挙は盛り上がりに欠けると、日本のメディアは再三報道してきました。しかし、私がみたかぎり緊張感のある選挙で、人々は必死でした。というのも、GOP (Grand Old Party の略)、つまり共和党を支持する人も、民主党を推す人も、それぞれの将来に強い危機感を抱いた選挙だったからです。

アメリカの政治をみるとき、いくつかの観測点があります。それは、1) race 人種、2) religion 宗教、3) 個人の権利 Individual right などです。
これを横軸として、これらのテーマに縦軸となる思想や政策が乗るのです。
例えば、race の問題の上には移民への対応、弱者への様々なケア、さらに人権や人権の問題。宗教の上には、同性愛の権利や、人工妊娠中絶の可否など、そして個人の権利の延長には、「大きな政府か小さな政府」という伝統的なテーマに基づいた健康保険問題、課税の方法、さらに人が裕福になる権利と、弱者をいかに守るかという課題との対立などが組み込まれます。

共和党と民主党は、これらの一つ一つのテーマで共通の認識を持つ部分と、全く相反する政策を唱える部分があり、各党の内部にも、穏健派と保守派との間にそれぞれのテーマについての取り組みの違いが見受けられます。
従って、一見大統領選挙での政策論争などをみると、二人の候補が全く異なる政策を持って対立し、競っているようにみえますが、その背景は時には曖昧 ambiguous で、かつ交錯したものです。

今回の大統領選挙は、かたやアメリカ初のマイノリティ minority 出身のオバマ大統領と、アメリカの世論に甚大な影響力のあるキリスト教主流派、いわゆるプロテスタントとカトリック以外の背景をもつロムニー候補 (モルモン教) との接戦であったという面も、人種、宗教の二つの観点からしても前例のないことです。伝統的に WASP、すなわち White Anglo-Saxon Protestant など、白人系プロテスタントがアメリカの政治経済界の表舞台を彩っていたことが、最早過去のことであることを象徴した選挙であったともいえましょう。

さて、こうした様々な論点によって複雑に分断されたアメリカの世論が、二人の候補者への期待を分けました。移民問題では似た立場をとる両候補ながら、違法移民の人権に一歩踏み込んだオバマ大統領が、例えば保守に流れがちなフロリダのラテン系 (主にキューバ系) 移民からの得票で善戦したこと。また、自動車業界をオバマ政権が救済した実績が、個人や私企業に政府が介入することを伝統的に嫌うアメリカでも支持を受けたことなどが、オバマ大統領の勝因であったことは否めません。今回はやはり人種や個人の権利というアメリカ人の価値観のベースでの判断が問われた選挙だったのです。

それだけに、選挙の結果は、ますますアメリカの世論の分断をもたらす可能性があります。ロムニー候補は破れたものの、そうした論点での「保守」のシンボルとしての役割を果たし、後進に大きな影響を与えたという評価がなされるかもしれません。実際、議会は上院は民主党ですが、より権限の多い下院は共和党が多数派として残りました。

Back then, Obama had run as a symbol of limitless hope. This year, he ran as a symbol of hope’s limitation. 以前 (4年前) は、オバマは無限の希望のシンボルだったが、今回は希望の限界へのシンボルであった。

ワシントンポストは、このようにうまく評論しました。つまりオバマ大統領は、保守の古いしがらみを払拭してアメリカを「Change」しようと、4年前には意欲満々でした。しかし、今は保守の執拗な反撃の中で、その渦中に飛び込んで戦い、時には妥協しなければならないのです。

ですから、今回のオバマ大統領を象徴する言葉は、「Change」から「Forward」、すなわち「前進」であったと人々はいいます。つまり今まで取り組んできたことを、さらに前進させ、後退させるなというのが、オバマ陣営のキャンペーンの主旨だったのです。

決められない政府の状況は日本もアメリカも同様と、日本のマスコミや評論家は強調します。アメリカの歳出削減と増税による経済ショック、すなわち「財政の崖」を民主共和両党がいかに連携して防ぐかも今後の大きな課題です。
しかし、明らかにアメリカの政治は民意と直結し、問題の明示とその解決を担う人の顔が明快です。ロムニー陣営、そして共和党が、この経済問題を今後悪化させず、アメリカと世界を救済するために、オバマ政権に逆にどのように協力してゆくかは、彼らの4年後への評価に大きくつながるということも、共和党側もよく心得ているはずです。

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