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遠い国が「ユーラシア」でリンクする、ベラルーシと日本

Belarus President Alexander Lukashenko, Europe’s longest-serving ruler, is facing unprecedented opposition to his power.

(ベラルーシのアレクサンダー・ルカシェンコ大統領は、今までにない反体制運動の危機にさらされている)
― BBC より

ユーラシア連合の一翼を担うベラルーシで今、起きていること

 「ユーラシア連合」という言葉を知っている人は、そう多くはいないはずです。
 反面、ヨーロッパ連合(EU)は日本人には馴染み深いはずです。
 いうまでもなく、EU はヨーロッパの国家を一つの経済集団とみなして拡大してきました。そして、EU が拡大していた頃に、政治的にも経済的にも劣勢に立たされたのがロシアでした。
 20世紀の終盤に旧ソ連が崩壊し、それを引き継ぐ形で成立したロシアは、旧ソ連によって統合されていた多くの国々が独立をしてゆく中で、自らの経済圏をどのように維持してゆくのか悩んでいました。
 
 そんなロシアを中心に、旧ソ連の国家の紐帯を強くしてゆこうと構想されたのが、ユーラシア連合という発想だったのです。
 それから時が経ち、ロシアは、ウラジーミル・プーチンが大統領に就任して以来、次第に国力をつけ、周辺の国家への影響力を取り戻すようになりました。
 ユーラシア連合に加盟している国にとっては、その影響力に対応しながら、自国の主権を維持するという課題を突きつけられたことになります。
 
 ここで最近、一つの問題が持ち上がりました。
 それは、ベラルーシでの民主化運動の高まりです。イギリスやアメリカのメディアは、ちょうど香港の民主主義運動と同様の、世界情勢にとって極めて重要な事件として、ベラルーシの騒動を報道しています。
 それは、ベラルーシで政変が起これば、EU や西側諸国に微妙な脅威を与えてきたユーラシア連合の一角が崩壊するからに他なりません。
 しかも、ベラルーシの政治的な状況は、ユーラシア連合の他の国々とも似通っており、この民主化運動の成功がロシアの外交政策にどのようなハレーションを起こすのか、多くの人が注目しているのです。
 

世界が注視するロシアと中国の動向、そしてユーラシア大陸政策

 ベラルーシのルカシェンコ大統領は、2004年に政権をとって以来、長年にわたって独裁体制を維持してきました。ソ連の崩壊後、ロシアが混乱していた当時、ベラルーシがイニシアチブをとってロシア・ベラルーシ連邦国家を創設し、旧ソ連の影響力を復活させようという動きもありました。しかし、その後プーチン政権が強力になると、ロシア側がベラルーシを併合する意図をちらつかせたことから、両国の間には微妙な緊張関係が生まれたのです。
 これは、ウクライナがロシア軍の奇襲でクリミア半島を失ったことなどとも関連して、ロシアが今後東欧やカザフスタンなどの中央アジアにどのような覇権を拡大してゆくかという点で、西側諸国が注視するところとなったのです。
 
 そんなベラルーシで民主化運動が起こり、西側寄りの政権が生まれれば、すでに西側の一員となっているポーランドとベラルーシが国境を接しているだけに、ロシアにとっては大きな打撃となるはずです。
 一方、旧ソ連時代に宇宙開発の拠点を置いた中央アジアのカザフスタンは、親ロ政権ではありながら、決してロシアにべったりというわけではありません。ロシアはカザフスタンから、宇宙開発の拠点となっている地域を租借して宇宙競争を行っているだけに、このことも彼らにとっては大きなリスクなのです。
 
 このように、ベラルーシで起きていることは、世界が注目する一大事なのですが、日本ではほとんど報道されない、遠い小さな国でのできごとのようです。
 ソ連はユーラシア連合構想の一環として、シベリアから東アジアの経済開発に熱心なわけで、このことは日本へも様々な影響を与えているのです。
 
 次に注目したいのが、中国です。
 ロシアにとって中国は、隣国であり大国です。善隣外交を維持し、対米政策や北朝鮮政策などで歩調を合わせたいものの、歴史的に常にお互いがどう動くか双方とも相手に対して目を光らせています。決して心を開き合う隣国ではないのです。
 
 実際、ルカシェンコ大統領率いるベラルーシがプーチン大統領と不和になり、さらに経済危機に陥ったとき、中国は巨額の援助をして、ベラルーシを救済しています。こうした中国の大胆で巧みな動きは、ロシアにとっては不快なものだったに違いありません。
 カザフスタンやタジキスタンなどといった中央アジアの国々も、成長した中国というもう一つのカードをもって、ロシアとのバランスをとってくるはずなのです。
 

大陸国家の外交関係の狭間に置かれる島国・日本

 我々は忘れがちですが、日本はユーラシア大陸の東の端にある島国です。島国であるからこそ、こうした大陸での駆け引きには、ともすれば鈍感になりつつあります。
 しかし、覚えておいて欲しいことは、日本はロシアや中国、そしてその動きに神経を尖らせているアメリカやイギリスといった、19世紀以来のクラシックな外交関係の狭間にいまだに位置する国家だということです。
 
 日韓関係や日中関係の舵取りを行う場合、この大陸での大国同士の覇権をめぐる動きが、玉突きのように日本にも影響を与えかねません。その事実を日本の外交政策の判断材料としなければならないのです。
 それにしては、日本の報道機関も政権自体も、ただ中国やロシアを単独で見て、ユーラシア大陸政策という位置づけで外交政策を考えることに鈍感であるように思えるのは、私一人ではないはずです。
 大陸国家の発想に、日本人はもっと敏感であるべきなのです。
 

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『ロシア語で読むカラマーゾフの兄弟』フョードル・ドストエフスキー (原作)、ユーリア・ストノーギナ (リライト)、及川功 (翻訳)ロシア語で読むカラマーゾフの兄弟』フョードル・ドストエフスキー (原作)、ユーリア・ストノーギナ (リライト)、及川功 (翻訳)
物欲の権化のような父フョードル・カラマーゾフ。それぞれ相異なりながらも色濃く父の血を引いたミーチャ、イワン、アリョーシャの3人兄弟。そして、フョードルの私生児と噂されるスメルジャコフ。これらの人物の交錯が作り出す愛憎の地獄図絵の中に、神と人間という根本問題を据え置いた世界文学屈指の名作を、学習者が読みやすいよう、シンプルなロシア語と日本語の対訳にしました。音声付き (MP3形式) なので、リスニングも鍛えられます。

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