海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

鉄道が全盛期のドームが語るニューヨーク物語


【海外ニュース】

Grand Central Terminal: My Landmark New York
(New York Post より)

私の思い出のつまるグランド・セントラル・ターミナル

【ニュース解説】

ニューヨークにいると、Landmark という言葉をよく耳にします。
そのまま訳せば歴史的建造物。しかし、グランド・セントラル・ターミナルと生涯を共にしているジャスティン・フェラーテ Justin Ferate にとって、それは正に我がグランド・セントラル・ターミナル。彼は 32年間にわたって、このターミナルのガイドをしてきたと、ニューヨークの大衆紙 New York Post は語っています。

今、グランド・セントラル・ターミナルには、通勤電車しか発着しません。
しかし、この巨大なコンコースと、地下に2重構造のホームの列がのびるターミナルがちょうど 100年前の2月2日にオープンしたときは、アメリカ各地への長距離列車も発着する華やかなターミナルでした。
メトライフ・ビルのロビーを通り、エスカレーターをおりると、鉄道の黄金時代を彷彿とさせるドームの中に迷い込みます。
薄緑色の天井には Zodiac (昔の黄道帯を中心とした天球のイメージ) の星座がちりばめられ、中央には時計台のある information ブースが印象的です。

ターミナルは 10年の歳月を経て完成しました。
その前には、1871年に完成した初代の鉄道駅がありました。
初代の駅の完成の影響で、もともと貧しい移民のバラックが点在する他はなにもなかった周辺は、オフィス街へと変身していったといいます。
さらにそれ以前は、23丁目のマディソン・スクエアに小さな駅があって、ニューヨークの北からやってきた列車は蒸気機関車に引かれてそこまで行き、そこから馬車に引かれてマンハッタンの南端に近い市庁舎の近くまで南下していたのです。
しかし、蒸気機関車のまき散らす煤煙が社会問題化し、42丁目以南の蒸気機関車の使用が禁止されたことが、この位置に駅を造るきっかけとなったのでした。

そして、現在のグランド・セントラル・ターミナルの建設がはじまったとき、そこから北にのびていたニューヨーク・セントラル鉄道の軌道を暗渠化し、その上に現在のパークアベニューが完成したのです。
実は、1891年から4年間、ニューヨーク・ナショナル音楽院の招きで、「新世界交響曲」で有名なドボルザークが、この街に滞在していました。彼は今でいう「鉄道オタク」で、初代グランド・セントラル駅から出発するシカゴ行きの特急を毎日見にいくのが日課だったといいます。
今のマンハッタンのミッドタウンが都市化してゆくのは 19世紀も終わり頃。区画整理されたところに家々が建ち並びはじめた夕暮れの郊外を、蒸気機関車に牽引されて北へ向かう長距離列車を見送りながら、「新世界交響曲」がイメージされたのかもしれません。

1913年。そんな過去の上に、再び現在のグランド・セントラル・ターミナルが建設されます。“It’s amazing to realize that it’s 100 years old and it’s still exciting.”「すごいよね。100年経って、今も人の心を沸き立たせる」ジャスティン・フェラーテはそう語ります。こうした生粋のニューヨーカーは今も街のあちこちで古き良き時代のニューヨークの語り部 (かたりべ) となっているのです。

20世紀初頭は、移民の活力がみなぎり、大陸全体が開拓され、入植地での生産や消費が活発になって、アメリカが大国へと飛躍を始めた時期にあたります。
ニューヨークも、既にセントラルパーク周辺まで街が北上し、5番街が目抜き通りとして脚光を浴びると同時に、ダウンタウンはイタリア系、東欧から渡ってきたユダヤ系、そしてアイルランド系など、様々な移民が貧しさを克服しようと懸命に働いていた時代でした。

そのエネルギーがいくつものアメリカンドリームを生み出し、成功者は競って豪華なビルを建造しました。
グランド・セントラル・ターミナルが完成した年、ダウンタウンでは、アメリカ初の超高層ビルであるウールワースタワーが落成しています。
あの同時多発テロで破壊された貿易センタービルの側に、中世の教会のデザインを取り入れた華麗なビルは今でも建っています。このビルも小売店から身を起こし、巨大チェーンストアを築いたフランク・ウールワースがキャッシュで建てたビルなのです。

グランド・セントラル・ターミナルが落成した翌年、ヨーロッパでは第一次世界大戦が勃発し、まさに動乱の 20世紀が始まります。
そして第一次世界大戦が終わったとき、アメリカは世界第一の債権国として、世界史の舞台の主役へと成長するのです。

それから 100年。ウールワースの起こした小売りチェーンをはじめ、当時のアメリカを創った様々な企業や建築物は既に姿を消しています。
それだけに、グランド・セントラル・ターミナルをはじめとする、ニューヨークの Landmark は、現代人のノスタルジーを触発するのです。

山久瀬洋二の「海外ニュースの英語と文化背景・時事解説」・目次へ

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ