「世界の心の交差点で」〜コミュニケーションと誤解の背景〜

韓国でのビジネスコミュニケーションの一つの課題: ステレオタイプのバイアスが、誤解を増幅


ソウルのヒルトンホテルのロビーで、ある出版エージェントと打ち合わせをしたときのこと。
彼女は私の長年の知り合い。私は残念ながら韓国語は喋れない。しかし、彼女は日本語が堪能。そして、日本のことをどんどん質問してくる。

「最近円安に是正して日本経済を立て直そうってしてるけど、本当に日本は大丈夫なの」

「わからないよ。消費や雇用、賃金のアップがついていかないと、国の借金だけが残るからね」

「でも、なんかはっきりしないわね。日本の方針って」

「そう?どうして?」

実は、ここ数年彼女の中に日本への不信感がたまっていることを、私はなんとなく意識していた。

「韓国のように、はっきりと方針をだして、どんどん前に進もうとしないんだもの。日本の出版社の人と話をしても、プロジェクトをやるのかやらないのか、さっぱりわからない。むにゃむにゃとネガティブなことをいうだけだし」

「出版界全体が未だに不況だもんね」

「一体、いつまでそんな状態が続くのかしら。だって、日本って大きな国じゃない。日本人に韓国人のような活力があれば、とっくに問題は克服できてるって思うんだけど」

「なるほど。でも、中国との関係なんかを考えると日本の将来はまだまだ課題だらけさ。だから、日本と韓国がもっとしっかりとタグを組むことも、本気で考えなければと思うんだけどね」

「それってありえないわ」

「でもね。そんな風に考える韓国人の友人もいるんだよ」

「へえ。そうなの」

そろそろ彼女のお決まりのコメントがはじまるなと、私は心の中で予測しながら、コーヒーを一口。

「だって、日本人って、やはり韓国人と本気に知的な交流をしようと思っていないんじゃないの。疑問だわ」

「そうかな。昔ならともかく、今は時代錯誤な一部の右翼を除いて、そんなことはないと思うよ。ある意味で、反韓を唱える人も、韓国で反日を唱える人も、そりゃいつの時代でもいるんだけど。一般の人は、そんなことには関心ないし、両国の関係が大切だと積極的に思っている人は結構いるんじゃないかな。僕も勿論そう思っているし」

「でもね、このところ、日本の版元を訪ねていって、韓国の企画を売ろうとしても誰も関心を示してくれないの。今、余りこうしたことには読者の関心がないんですっていわれてね。例の曖昧な含み笑いをしながら、私の目も見ずに」

外国人が日本人の曖昧な笑みを理解できず嫌うことはよくあること。また、日本人が、一般的にアイコンタクトが弱くて、相手の目を見ながら話をしないことも、日本人の悪い癖で確かに相手に誤解を与えている。

「なるほど。でも、それはたまたま企画が相手のニーズにあわなかったからじゃない?」

「そうじゃないわよ。こうした拒絶反応が最近本当に多いの。なんか、結局日本人は韓国のことに興味がなく、心の中で韓国人を下に見てるいるんじゃないかなって思っちゃう」

きたきた!と私は思う。
歴史的に日本と摩擦のあった韓国人の心の中には確かにバイアスがある。
だから、日本人と誤解があったり、うまくいかないことがあったりすれば、そうしたネガティブな思考回路に入り易い。
これも異文化での誤解のプロセスの一つである。

私は説明した。

「あのさ。今実は日本では韓国に限らず海外の著者の書籍の販売が落ちていてね。どこの国の著作物に対しても出版権の購買に慎重になっている。だから、韓国を下に見て買わないんじゃなくて、今の日本の海外に向けた閉鎖的な側面がたまたま出版界に影響を与えているだけなんだよ。それ自体は日本人としては深刻な問題だけどね」

「そうなの…」

「日本人が韓国人に偏見をもっているって、繰り返すけど、中にはそんな人もいるよ。でも、そんな人って世界中にいるでしょう。韓国にもいるはず。むしろ、韓国の人が韓国と日本との歴史的な問題などを通して、日本人一般にステレオタイプな意識を持っていると、日本人の反応や商談での課題がでたとき、ついついそこに思考回路がつながってしまう。これって危険だよ。日本人も注意しなければならないことかもしれないけど」

彼女はコーヒーを飲みながら、私との商談に移る。
私は韓国に出張すると、いろいろな人と夕食を一緒にし、お酒をのみ、交流する。この種の交流が韓国でのビジネスでは特に大切。日本以上に「のみにケーション」での腹を割った紐帯が必要なビジネス文化を持つ国である。
そろそろ、彼女ともそうした時間が必要だな。韓国の出版社の友人も交えて、そんな時間を今度もとうと私は思う。

でも、既に彼女とは何度かそんな時間をもってきた。
だから、日本人とのセンシティブな会話も私には平気でするわけだ。そこのところはありがたい。少なくとも本音で話し合いができるのだから。普通は、よほどのことがなければここまで率直に意見交換をしないのが、国際社会でのコミュニケーションの実態なのだから。

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