海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ヨーロッパの二つの選挙


【海外ニュース】

Italy election: Europe jitters over result deadlock

イタリアの選挙、ヨーロッパはその手詰まりに苛立っている

Pope Benedict will be known as “pope emeritus” and will retain the honorific “His Holiness” after he abdicates on Thursday, Vatican officials say.

ローマ法王ベネディクトは名誉法王に、そして木曜日の退位後も今まで通り、「聖下」という尊称で呼ばれることになると、バチカンは発表

(いずれもBBCより)

【ニュース解説】

ここのところ、イタリアがヨーロッパの震源地となっています。
一つは、今紙面をにぎわしているイタリアの総選挙です。財務体質の改善のツケを緊縮財政を断行することによって進めていこうとするモンティ首相の政策に待ったをかけ、スキャンダルまみれで退陣したベルルスコーニ前首相の人気も復活し、イタリア政局が大きく混乱しそうな雲行きとなっていることが、それにあたります。
そして、もう一つは今週退位するローマ法王ベネディクト16世の後継選び、コンクラーヴェを巡る話題です。

前者は、世界経済に、そして後者は世界宗教の主流の一つであるカトリック教会のあり方に、一石を投じています。

BBC のニュースではイタリア総選挙の結果にヨーロッパは jitter、すなわち苛立っていると報じています。苛立はごもっとも。確かに世界中が苛立っています。というのも、ギリシャ危機をなんとか凌ごうとしている EU が目下最も気にしているイタリア経済の先行きが、またも怪しくなるからです。
もちろん、経済の立て直しに懸命な日本にとっても、人ごとではありません。円や株価がすぐに反応し、日本経済にも陰を落としかねないからです。

さて、もう一つの選挙、すなわち法王を選ぶ選挙であるコンクラーヴェについても、実は多くの人にとっては jitter なのです。

というのは、この選挙間際になって、有力な枢機卿の一人、スコットランドのオブライアン枢機卿が過去のセックススキャンダルを暴かれ、辞任に追い込まれていたことが判明したのです。
彼は、そのことから、コンクラーヴェへの参加もできなくなりました。
前々回、法王の退位に関連して、その背景となるカトリック教会を取り巻く難しい環境について解説したばかりです。今回のスキャンダルは、正にそこで解説したローマカトリックの権威にかかわる事件といえましょう。

セックススキャンダルといえば、ベルルスコーニ前首相が辞任に追い込まれた一つの理由も、少女を相手とした性行為が暴かれたこと。それ以来、イタリアの政界は迷走を始めました。「そんなことやってる場合かよ!」と一刻も早い経済の安定を願う、ドイツやフランス、さらには世界の指導者は、モンティ政権へ挑む前首相に大声をあげたくなっているはずです。

一方、ローマカトリックは、今回のスキャンダルの嵐に見舞われながらも、自らの権威の維持に必死です。ベネディクト16世の名誉を守り、退位後も、名誉教授 professor emeritus ならぬ名誉法王 pope emeritus として権威を維持し、His Holinessという正に法王を呼ぶときの尊称も継続して使用されるというわけです。

「コンドームを否定して、自分の首をしめているのよ」
「どういうことさ」
「だって、これだけスキャンダルが多いのは、余りにも現代の常識に即していないからよ。エイズについての予防や、レイプと中絶の問題へも対応できないのは、彼らの発想が、ただかたくななせいでしょ」
これは、10日ほど前、カリフォルニアの友人夫婦と夕食を一緒にしたときの会話です。奥さんの方は、アイルランド系。伝統的なカトリックの家に育った人でした。彼女は、今でもローマ法王庁がコンドームの使用について難色を示している実態について皮肉を言ったのです。
こうした「変わらない体質」へのカトリック系の人々の苛立。それは既に彼らの宗教離れに繋がり、シニカルな嘲笑へと変化しています。

ヨーロッパでは、アルプスより南で物造りをして、北でマーケティングや販売戦略を実施してゆくといわれています。すなわち、南ヨーロッパの人は創造性が豊かで芸術精神に溢れていて、北ヨーロッパの人はそんな想像力を商品化して販売するビジネスセンスに長けているというイメージがあるのです。
確かに歴史的にも、ギリシャローマ時代から、様々な文化や思想の大きなうねりは南でおき、その波をかぶりながら北ヨーロッパが変化してゆきました。
なんといっても、キリスト教文化もローマで育成され、北へと広がり、その解釈を巡って、北で宗教改革もおきました。

そうした視点に立ったとき、今回の EU 危機も南ヨーロッパからうねりがはじまったことは皮肉といえば皮肉なことです。それが EU の崩壊につながり、世界経済の激震へと拡大しないことを祈るばかり。

一方、新しく選ばれるローマ法王が、イタリアからカトリック教会刷新の新たな波をおこせるかは、懐疑的な人が極めて多いようです。

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