海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

もう一つの 9.11 とその後


【海外ニュース】

Venezuelan opposition leader Henrique Capriles says he would stop trading oil to Cuba for services such as Cuban doctors providing medical care for Venezuela’s poor.
(ワシントンポストより)

ベネズエラの反政府派のリーダー、エンリケ・カプリレスは、キューバの医療団がベネズエラの貧困層に施す医療行為のように、キューバに石油を奉仕することはないと言明

【ニュース解説】

社会主義運動を標榜してきたベネズエラのチャベス大統領が3月5日に癌で死亡。新たな政権を目指す opposition leader 反体制派リーダーが、キューバと一線を画し、今までの社会主義化にくさびを打とうとしています。
この背景、日本からは遠くにある南米の、20世紀後半から現在に至る様々な確執を象徴しています。この動きの向こうに見えるものは何か。アメリカは実はピリピリしているのです。

中南米は、もともとアメリカの影響力の強い地域です。しかし、20世紀後半に至っても、多くの国では旧態依然とした地主制度や一部の富裕層を優遇した経済制度の中で、人々の生活は劣悪でした。
そのため、中南米では常に社会主義運動がくすぶっていました。この風潮は時には軍部の中にも浸透します。そして、自国の権益を維持するために中南米を傘下においてきたアメリカは、常にそうした動きに神経を尖らせてきました。

中南米での最大の社会主義革命は、1959年のカリブ海の小国キューバでのカストロ政権の樹立です。カストロ政権をソ連が全面的に支援したため、アメリカはカリブ海という自国の脇腹に大砲を突きつけられてしまったのです。

その後、カストロの盟友チェ・ゲバラが南米に渡り、革命の輸出に取り組みます。彼がボリビアでアメリカの支援を受けた政府軍に拘束され殺害されたのが 1967年。しかし、その動きはさらに新たな事態へと拡大します。
ゲバラの死から3年後、貧困層や労働者階級に支えられ、合法的な選挙でチリに社会主義政権が発足したのです。大統領となったのはサルバドール・アジェンデ。当時隣国のペルーにも穏健な社会主義革命を通して農地改革を進めようというアルバラート政権が発足していました。キューバから南米へと正にアメリカの絆が崩壊しはじめたのです。

アメリカは過敏に反応します。CIAを通して露骨にアジェンデ政権に痛手を加えます。その結果、チリの経済は崩壊し、社会不安が増長しますが、それが却って人々を団結させ、反米感情の激化につながったのです。
アメリカはついに、最終手段に打ってでます。チリ軍部の反アジェンデ派のピノチェト将軍を抱き込み、クーデターを画策。1973年9月11日、将軍率いるチリ軍は、大統領官邸を攻撃。アジェンデ大統領は銃火の中で国民へ向けた最後の演説をラジオで行い、直後に非業の死を遂げたのでした。南米の「セプテンバー・イレブン」として語られるドラマがこうして終わります。多くの作家や映画監督がこの物語を取り上げました。そして2年後、ペルーのアルバラート政権も崩壊します。
それ以降、民主化が進むまでの長い期間、この地域は社会主義とアメリカに支援された軍部などとのひずみと混乱で、数万人とも言われる人々が殺害され、失踪者として今なお歴史の闇の中に葬られているのです。

アジェンデの死後16年して冷戦が終わり、やがて21世紀になりました。
冷戦終結によって、アメリカの反共の旗手としての立場がぐらつきます。そこで、新たな基軸として、人権外交をもって世界に影響力を維持しようとしているとき、アメリカ自身が反共政策をつらぬくために、20世紀に中南米で支援していた軍事政権の非人道的な行為が暴かれます。それは人権を無視した南米の軍事政権や旧体制を支援した気まずい過去でした。

そんなアメリカに敵愾心をいだき、キューバのカストロ、ペルーのアルバラート、そしてチリのアジェンデといった指導者に憧れた若き軍人。それが大統領となる前のウゴ・チャベスだったのです。
やがて彼は、貧困層を中心とした人々に支えられ、ベネズエラで政権を獲得し、露骨な反米政策を標榜します。1999年のことでした。今なお入院中とはいえ存命のフィデル・カストロから強い支援を受け、ベネズエラの命ともいえる石油資源を管理しながらアメリカと対立したチャベスは、アメリカが最も忌み嫌う政治家の一人となったのです。
彼は、19世紀にスペインからの独立を進め、南米にコロンビア共和国を樹立しようとした革命家シモン・ボリバルを理想とし、自らの政策をボリバル革命として中南米に輸出しはじめたのです。
ブラジル初の女性大統領ジルマ・ルセフのように、中南米には20世紀に軍事政権と戦った経験のある指導者がいます。ボリバル革命は、こうした人々にも共鳴し、アメリカと協調しながらも、アメリカの衛星国とはならないようにする中南米の国々の新たな政権運営のヒントとなったのです。

世界的にアメリカの退潮がささやかれる中、中東の民主化運動と同じほどのマグニチュードでアメリカが神経を尖らせながら注視する中南米の動向。
チャベス大統領死後のベネズエラの政情、そしてカストロ以後のキューバの将来など、アメリカが取り組まなければならない繊細で微妙な外交課題がそこに山積しているのです。

A poll released Monday says government candidate Nicolas Maduro leads Capriles by 14 percentage points.
(月曜日に発表された世論調査によれば、チャベスの後継者であるニコラス・マドーロがカプリレスを14ポイントもリード)
まだまだアメリカの悩みは続きそうです。

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