海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ワシントン大行進から50周年、あの名演説は未だ夢か


【海外ニュース】

Marching for King’s dream: ‘The task is not done’
(WSFAモンゴメリーより)

キング牧師の夢への行進「いまだミッションは完結せず」

【ニュース解説】

今年は、アメリカの歴史にとって大きな節目の年です。
1963年8月28日に、ワシントンDC のリンカーン記念館 Lincoln Memorial の前に集まった20万人の群衆に向け、キング牧師 Martin Luther King, Jr. が行った名演説から50年にあたる年なのです。
この50周年記念にあたっては、オバマ大統領もスピーチを行い、キング牧師のスピーチを行った場所には当時と同じように、人々が集まります。

50年前にワシントンDC に集まった人々は人種差別撤廃を求めて大行進を行いました。その行進は英語で The Great March on Washington と呼ばれ、その一年後に差別を禁止する公民権法 Civil Rights Act が成立したことによって、アメリカ社会そのものが大きく変化していったのです。
大行進に集まった人々の前で行われたキング牧師の演説の中で、アメリカ人なら誰もが知っているくだりは、以下のフレーズにはじまる文章です。
I have a dream that one day this nation will rise up and live out the true meaning of its creed: “We hold these truths to be self-evident: that all men are created equal.”
(私には夢がある。ある日この国の人々が立ち上がり、「我々は全ての人は平等に創造されているという自明の真理をここに掲げ」という言葉の本来の意味にのっとって生きてゆけるようになるという夢が)

ここにある、We hold these truth にはじまる文章は、1776年にイギリスからの抑圧に立ち上がり、独立革命をおこした人々が造り上げた独立宣言の中の最もよく知られた一節です。
キング牧師はこの独立宣言に記された文章が本当に全ての人に行き渡ることをそこで強く訴えたのでした。
さらに大切なことは、I have a dream という言葉が何度も繰り返される中で、
one day right there in Alabama little black boys and black girls will be able to join hands with little white boys and white girls as sisters and brothers.
(ある日、このアラバマで黒人の少年少女が白人の少年少女と手に手を取り合ってゆくことができるように―)と彼が訴えていることです。
キング牧師は、インドの独立の父マハトマ・ガンジーがなしえた非暴力での社会変革と、対立する人々の融和という考え方に深く共鳴していました。
ですから、彼は黒人を差別していた白人層にも共に歩もうと訴え、その強いメッセージが当時全米を動かしていったのでした。

この独立宣言から、公民権法の成立に至る約190年の過程に、古くは南北戦争での奴隷解放があり、その後様々な形で合法的にも非合法にも横行した差別への撤廃運動があったわけです。
今年は、この50周年記念に、オバマ大統領をはじめ、多くの人々が全米からメッセージを送り、キング牧師の求めていた夢が本当に実現したのかというテーマでの議論も沸騰しているのです。

今回、見出しで紹介したヘッドラインは、アラバマ州モンゴメリーの放送局のサイトに掲載された記事のヘッドラインです。モンゴメリーは、1955年に同地の乗り合いバスで白人に席を譲らなかった黒人女性が逮捕された事件で全米の注目を集めた都市です。この事件がきっかけで、バスをボイコットする運動 (Montgomery Bus Boycott) がおこり、それがアメリカ中を巻き込む公民権運動へとつながってゆきました。
そんな都市のメディアが、キング牧師の I have a dream の演説から50年、人々の平等を求める活動は様々な方向に拡大しつつ、まだまだ真の平等社会は創造されていないと、キング牧師の息子のコメントなどを紹介しながら解説しています。それは、貧富の差などによる社会的確執が深刻化する中で、新たな差別が生まれようとしていることを意味しています。
そして、50周年に再現される大行進も、お祭りではなく、道半ばであることを訴える行進であるべきだと記しているのです。

64年の制定以降、公民権法は何度も修正が加えられ、さらに各州でも独自の公民権法が制定されました。元々人種差別の撤廃を原点として、color, religion, sex and national origin. (肌の色、宗教的背景、性別、出身国) をもって人を差別することを禁止したのが公民権法の骨子でした。それが時と共に年齢や婚姻状況、障害の有無、同性愛など様々な人々への差別の撤廃が盛り込まれるようになったのです。

日本人が知っておかなければならないのは、アメリカで仕事をする場合、この公民権法に従って全ての人事やマネージメント戦略を実施しなければならないことで、それを怠ったときのリスクは思っている以上に深刻だということです。
また、この時代を境に、例えばビジネス上、上司と部下のコミュニケーションがよりフラットになり、カジュアルなってゆきます。また、女性の意識向上によって、社会進出が進むと同時に、離婚や子供への親権の問題などが語られるようになったのも、この時代以降のことなのです。
そして現在では、Equality 平等という概念をさらに積極的に拡大させた、Diversity (多様性) という様々な移民に代表される人々の多様な文化や考え方を尊重するということが、公民権の新たな骨子になっているのです。

アメリカ人にとって、独立宣言とリンカーンが南北戦争の最中に行ったゲティスバーグの演説、そしてキング牧師による I have a dream の演説は、最も良く知られた、アメリカ人の常識ともいえるテキストです。
この3つのテキストに共通していること。それは、アメリカという国が目指す社会のあり方を明解に指し示しているということ。そして、それが、その功罪への議論はあるものの、世界に向けたアメリカのビジョンの輸出の原点にもなっているということなのです。

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