海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ダビンチ・コードか、それとも宗教界を震撼させる発見か


【海外ニュース】

A team of scientists has concluded that a controversial scrap of papyrus that purportedly quotes Jesus referring to “my wife,” is not a fake.
(CNN より)

科学者のチームは、イエスキリストが「私の妻」と語っているとされるパピルス片は本物であると結論づけた。

【ニュース解説】

キリストが妻帯者であったかどうかという謎は、古来何度も宗教界で議論されてきました。
最近では、ダン・ブラウンの小説ダビンチ・コードでも、キリストに仕えたマグダラのマリアが妻であったとして話題になりました。

キリスト教が度重なる迫害の後に、ようやくローマ帝国で公認されたのは、313年のことでした。その後、キリスト教は急速にローマ帝国に浸透しますが、その過程で教義を整え、宗教的な権威を高めていこうと、信者が現在のトルコにあるニケーアという町に集まり、会議を開きました。
この会議こそが、現在のローマカトリック、そしてギリシャ正教の教義の母体となった会議です。
既にキリストが架刑となって3世紀が経過するなか、会議で宗教上の信仰の形態が整えられるにつれて、人としてのキリストの側面がどんどん払拭されてゆきました。ローマ教会では、キリストを人とする考えは異端とされ、迫害の対象ともなりました。
しかし、異端とされたキリストへの様々な考え方は、その後も密かに受け継がれ、時にはカトリック教会などへ果敢に挑戦する異端活動などもありました。

キリストは妻帯者だったのか。つまり、キリストは我々と同じ人であって、女性を愛し、家族を思っていたのか。 Celibate という言葉があります。禁欲で女性と関係を持たないことを意味し、キリストは celibate virgin、つまり女性と関係をもたない禁欲者であるということから、現在でもカトリックの神父はその教えに従い、禁欲を貫くことを義務づけられています。
そうした宗教的な常識に挑戦するかのように、2012年9月18日に、ハーバード大学の中にある Harvard Divinity School のカレン・キング教授がパピルスの断片 fragment にキリストが「私の妻」と語っている記述があると発表したのです。
そして、今回そのパピルスが古代のものであり、本物であるということが科学的に立証されたと発表されたのでした。

以下、Harvard Divinity School の会報から、このことに関する記事を引用します。
A wide range of scientific testing indicates that a papyrus fragment containing the words, “Jesus said to them, my wife” is an ancient document, dating between the sixth to ninth centuries CE. Its contents may originally have been composed as early as the second to fourth centuries.
(「イエスが人々に向けて”私の妻”と語った」という一文が記された古代のパピルスの断片を様々な科学的手法で調査した結果、それは6世紀から9世紀にかけてのものであることが判明した。この文章は元々2世紀から4世紀の間に綴られたものでるかもしれない)

宗教は歴史を通して成長し、その過程で教義や制度を整え、自らを権威づけ、神格化してゆきます。科学は、時にはその過程でのねつ造や、創造、あるいは誤解を暴き、宗教のあり方に一石を投じます。
地動説を唱えたガリレオが生きていた時代、それは命がけの挑戦でした。そして今でも、信仰に頑な人々の間では進化論を否定し、アメリカの中にはそれを子供に教育することを拒否する人々も存在します。
宗教界自体、長年科学と対立しながらも、最近では科学の成果を受け入れながら、柔軟に教義を変革していこうとも努力しているようですが。

ここで、興味ある書籍を紹介します。それは The Year of Living Biblicaly (邦題「聖書男」)。ニューヨーク在住のジャーナリストが一年間聖書の戒律に従って生活した体験をまとめた書籍です。
著者は本書の中で、聖書に記された記述に従うと、ヒゲをそらず、生理中の女性には触れずという、現在では考えられない戒律を守り、それを破る人には石を投げろというわけなので、大変だったと、自らの体験を記しています。
今、アメリカでは聖書の教えに従って暮らしているという人が全人口の半数強もいるとされています。しかし、宗教は見事に時代に合わせて変化し、その時の都合によって解釈され、信仰されているのです。

今回のパピルスの発見が、宗教界にどのような影響を与えるかは、まだ未知数です。しかし、少なくとも、キリストは人間であったと考えるほうが、妥当性があると心の中で思っている人は多いのではないでしょうか。

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