海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ドイツの明快な外交姿勢に翻弄された超大国アメリカ


【海外ニュース】

Germany Demands Top U.S. Intelligence Officer Be Expelled
(New York Timesより)

ドイツはアメリア合衆国の諜報活動の責任者を国外退去に

【ニュース解説】

前回、中国とアメリカとの諜報活動について解説をしました。その原稿を発信した直後に、ドイツから大変興味深いニュースが飛び込みました。
外交用語で Persona non grata (好ましからざる人物) という言葉があります。これは、その国家にとって滞在して欲しくない外交関係者の受け入れを拒絶したり、国外退去を命じたりするときに使われる言葉です。ドイツは、自国に駐在する最も緊密な同盟国アメリカの諜報機関の責任者に Persona non grata のレッテルを貼ったのです。

スノーデン事件によって、アメリカのドイツをターゲットにした諜報活動の実態が暴かれ、ドイツ政府はメルケル首相の個人の電話まで傍受されていたことに強い苛立を表明していました。
オバマ大統領は、“I’m the end user of this kind of intelligence. If I want to know what Chancellor Merkel is thinking, I will call Chancellor Merkel,” (私は情報のエンドユーザーだ。もしメルケル首相が何を考えているか知りたければ、ただ電話すればよいだけのこと) と声明を発表し、こうした活動が不適切であることを認め、火消しに必死になりました。

しかし、その後ドイツでアメリカのために活動していた諜報員が拘束され、ドイツ側はアメリカの諜報活動への捜査をさらに加速させます。一方で一連のスキャンダルに対し、アメリカ側から満足のいく情報の提供がないことに、ドイツ政府は業を煮やしたのです。
冷戦時代には、同盟国内でお互いを諜報活動する目的は、得た情報の信憑性を確認し、裏をとるためでした。しかし、今では相手国の経済活動、さらには経済関係での交渉を有利に進めるためにも、諜報員が暗躍しているのです。

The two countries have better things to do than “waste energy spying” on each other. (両国ともスパイ活動という無駄なことにエネルギーを注ぐよりも、もっとやることがあるはずだ) とメルケル首相は、今回の措置にあたって声明を発表しました。

このドイツの対応は、アメリカにとって大きなダメージです。日本と同様、ドイツはアメリカのヨーロッパにおける世界戦略の要だったからです。
メルケル首相は、この措置を発表する前に、中国を訪問し双方の経済活動をより一層緊密にすべく積極的に活動しました。その直後にアメリカに往復ビンタを放ったことになります。ウクライナ情勢や中東問題、さらにはヨーロッパの通貨問題などでドイツとの緊密な連携を願う、超大国アメリカを相手に極めて強硬でしたたかな外交を展開したことになります。
さらに、アメリカからしてみれば前回の記事のように、中国の諜報活動に対して外交上の包囲網によって対抗しようとしていた矢先の出来事であるということも、ここに特筆しなければなりません。
加えて強調したいことは、オバマ政権自体が NSA や CIA といった自らの組織を完璧にコントロールできていないという実態が、ドイツとの緊張関係の中で暴露されたということです。
先ほどのオバマ大統領の声明からも明らかなように、諜報機関が大統領の意向とは関係なく活動し、時には諜報機関自身が、情報の取捨選択によって大統領を操っている様子が浮き彫りになったのです。国家の中での組織の暴走の懸念が見え隠れします。

では、日本はこの事件をどのようにみればよいのでしょうか。
そもそも、日本のマスコミは、世界の外交やパワーバランスに大きな影響を与えるこの事件をどうして積極的に報道しないのか不思議でなりません。情報を巡る世界の動きにいかに鈍感かが、そこのことからもうかがえます。
そして、今回のドイツの対応を、同盟国であるということだけを強調し、ことさらアメリカにすり寄って外交問題の解決を目指す日本と比較したとき、同じ第二次世界大戦の敗戦国でありながら、その辣腕な姿勢に脱帽します。
実は日本にも、今回のドイツのようにアメリカに対応できた事件がありました。それは普天間基地問題の原因となった、沖縄でのアメリカ海兵隊の兵士による少女暴行事件がおきたときです。しかし、今、普天間基地の移設問題は、その「原因」から離れ、アメリカの注文にただどう答えるかということだけに政府は苦慮しています。

このドイツの明快な対応は、アメリカの中でも一目置かれるはずです。
「タフな者はタフな者に敬意を表する」というわけです。
今回の一連の外交問題は、組織プレイよりリーダーによる明快なメッセージの交換を好み、同時に複雑な多国間のバランスを読みながら見事なタイミングで厳しい一手を打つ、欧米のしたたかな外交戦略を見せつけられたように思うのは、私一人だけではない筈です。

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