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「対日モデル」の失敗が影響するアメリカの中東政策(中東問題その4)

【海外ニュース】

Islamic State stands with al-Qaeda as one of the most dangerous jihadist groups, after its gains in Syria and Iraq.
(BBCニュース)

アルカイダ系の「イスラム国」は、その勢力がシリアとイラクに拡大したのち、最も危険なイスラム原理主義者のグループとして勃興

【ニュース解説】

中東情勢について今まで3回連続して解説をしてきました。
その前提に立って、今イラクとシリアでおきている最も深刻な問題を見詰めてみましょう。様々なメディアがこのことを報道していますので、私は、日本と中東とアメリカという視点に立って、この現象を分析します。

実は、アメリカの世界戦略の根本にあるトラウマは、戦後の対日戦略にその原点があります。
アメリカは、第二次世界大戦終結後、ともかく差し迫る冷戦の脅威に備えるため、日本の再軍備と、アメリカの衛星国家としての国家再建に注力しました。
それは見事に成功し、今アメリカは日本があるがゆえに、極東の安定が保証されていると考えます。
そんな対日政策の第一段階は、旧軍国主義勢力の掃討でした。そして民主国家となった日本を今度は軍事的に自らの勢力下においていったのです。
これが大成功であったために、以後アメリカは混乱する世界に対処するときに、常にこのモデルを意識的にも、無意識にも念頭においてきたのです。

イラクが陥落し、サダム・フセインが失脚したとき、多くの関係者は、この「対日モデル」を例示しました。サダム・フセインの残存勢力をまず掃討し、その上でイラクの民主化を進め、アメリカの影響化においてゆくという方針を徹底して打ち出したのです。そのために犠牲になったのが、サダム・フセインの出身母体であったスンニー派の勢力でした。
アメリカが移行措置として支援したシーア派よりの政権が、スンニー派を排除した結果、スンニー派が多く住んでいた北部イラクに、新しい政府に反発する人々に支援された武装集団が育成されてゆく一つの原因を造ったのです。
そして、元々シーア派もスンニー派も共存していた社会に大きな亀裂が生まれます。
そこにおきたシリアの混乱。スンニー派の過激な集団は、シリアの混乱に乗じて両国で勢力を拡大。シリアとイラクをまたぐ Islamic State「イスラム国」の形成を宣言させるまでに至ったのです。この二カ国をまたぐ勢力が、ISIS という過激なグループなのです。

「対日モデル」以来のアメリカの世界戦略のモデルの見直しが、今急務なのです。「対日モデル」は、極東の島国で、単一民族の日本であれば、正にうまく機能し、いわゆる最も「純粋な」モデルとなりました。しかし、それを複雑な宗教、民族背景のある中東に応用することは、とんでもない混乱の原因になります。その代償を今アメリカは突きつけられているのです。

我々日本人は、こうしたアメリカに庇護された国家の中で、国際情勢を簡単な法的式でみようとする傾向があります。
北朝鮮問題を例にとれば、北朝鮮の核は日本への脅威で、アメリカと日本とが連携して対応すべきという「対日モデル」を意識します。
それは一面では正しいかもしれません。
しかし、北朝鮮の核の問題の本質は、経済とテロとの繋がりにあります。
核開発で得た技術を北朝鮮が、自国の経済的基盤の維持のために使用し、それが中東などに流れてゆくことが、最も大きな懸念材料なのです。
こうした世界レベルでの資金と技術の動きが、今や ISIS を世界で最も危険とされる軍事集団に育てあげたのです。
つまり、中東問題と北朝鮮問題は、世界を震撼させるテロの課題として見事にリンクするのです。
国際政治を見詰める時、こうした平面図に拡大する複雑な点と線を鳥瞰する技術が今「対日モデル」の傘下にあって視力を失いつつある日本には必要です。

このBBCニュースの見出しにあるように、アルカイダ系のイスラム原理主義者 jihadist group が活動は、今や西側世界の最も深刻な脅威となっています。そして、アメリカからの報道によれば、この脅威に対処するために、オバマ政権はシリアへの介入も含め、本格的な空爆作戦を展開するということです。

国際戦略は、一度縺れると簡単には元にはもどりません。
まして、パレスチナ問題以来こじれ続けた中東の和平の実現には相当の知恵が必要です。
ある意味で、ウクライナ問題で対立するロシアとの協調の道の模索も今となっては必要です。
空爆などの対症療法に終始しているアメリカも、心の中では中東への「対日モデル」の適応が失敗であったことを、既に実感しているのではないでしょうか。

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