海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

世界に繋がる「ケンジコール」に水をさす「蛮勇」コメント


【海外ニュース】

President Obama condemned ‘the heinous murder’ and praised Goto’s reporting, saying he ‘courageously sought to convey the plight of the Syrian people to the outside world.’
(ボストングローブより)

オバマ大統領は、許しがたき殺人行為と非難した上で、後藤さんの活動を「シリアの人々の苦境を勇気を持って世界に伝えようとしていた」と讃えた

【ニュース解説】

湯川さん、後藤さんに続き、ヨルダンのパイロットへの残忍な処刑に接し、ISIL(以前は ISIS と記しましたが、国の公式発表に従って、今後は ISIL と表記します)の蛮行のショックウエーブが世界に広がっています。
日本で、これほど ISIL に関するニュースが大きく取り上げられた例は過去にはありません。もちろん海外では既に去年からこの問題こそが、人類の未来を脅かす最も深刻な危機として、トップニュースを占めてきました。そうした報道をみながら、私もトルコに接近する ISIL とクルド人等の部隊との攻防についてなど、何度かこの問題を取り上げてきました。

今回の後藤さんの殺害については、ニューヨークタイムズ、ワシントンポストなどは、悲しみの中で痛ましくコメントを発表する後藤さんの母親石堂順子さんの様子を大きく掲載し、その上で事件の詳細を解説しています。

殆ど全ての紙面では彼の行為を courageous 勇気あることとして賞賛し、オバマ大統領も、heinous という表現、つまり普段は余使用しない最大級の非難の言葉を使って、ISIL の野蛮性を指摘しています。その上で、ここに紹介したように、彼は同じく courageously という単語を使用し、後藤さんの行動を讃えています。その後、多くのメディアは、Facebook で世界に拡がる I am Kenji というメッセージを、今年始めに、同じくイスラム過激派により、パリで12名が殺害された後に拡がった同様の動きと共に報道しているのです。

その後、ムアーズ・カサースベ中尉が中世の異端者や魔女狩りの犠牲者への刑罰さながらに焼殺された報道は、さらに世界に深い衝撃を与えました。

こうした流れの中で、自民党副総裁高村氏が後藤さんの行為を「蛮勇」と言明したニュースに怒りを覚えたのは私だけでしょうか。
命をかけて危険地帯で報道を行う人がいればこそ、我々は世界でおきている真実を知る事ができるわけです。国のプロパガンダに惑わされず報道を行うためには、国の警告を知りながらも、敢えて現地に赴く事は、勇気ある職業意識に支えられた行動です。

湯川さん救出のために彼は危険地帯に行く必要があったかという人がいます。
個人が行動する判断に厳しい、甘いはありうるとして、人を救出するために動いた行為は美しくこそあれ、軽率と他者がいえるかどうかは疑問です。
後藤さんの行為が「蛮勇」であれば、こうした命をとして人を助ける行為の全てが向こう見ずな愚かな行為ということになるはずです。
「蛮勇」は一つの英単語では記せません。英語にすれば reckless、すなわち「向こう見ずでむちゃな」という形容詞が必要になります。例えば、ABC放送では高村氏のいう「蛮勇」を、reckless courage と訳して報道しています。

国の舵取りを担う政治家が、ジャーナリストの行為を reckless だとすれば、報道をする全ての人は、国の指示に従わなければならなくなります。
もしかすると、政府の関係者は、本音では後藤さんの行為をやっかいな行為として、「面倒なことをして」と思っていたのではとすら推測してしまいます。
あるいは、政府は湯川さんの救出を、実は現地に詳しい後藤さんに極秘に依頼し、その失態を隠しているのではと、疑ってしまいます。

今、大手メディアなどで報道される世界情勢の多くは、こうした後藤さんのような個人で活動するジャーナリストの命がけの取材によるものなのです。
そうした人が多くいる国は、より豊富な判断材料を国民に提供できる、民主主義のバランスがとれた国家だと我々は認識するべきです。

実は、以前イラクでボランティア活動をしていた日本人が拘束されたとき、日本の世論が「自己責任」という方向に傾いたことがありました。
しかし、海外の多くのメディアは、被害者の行為を勇気ある行為として賞賛しています。そして、今回もオバマ大統領が後藤さんを賞賛したように、彼の勇気を讃えるのが世界の論調であることをここに確認しておきましょう。
それと比較して、母国の日本の政治家だけが、「蛮勇」などとコメントし、そのコメントを厳しく戒める動きもないことこそ、ジャーナリズムの役割という視点で見た上からも情けないことなのではないでしょうか。

政府の役割は、政府が税金で動いている以上、国民の生活と安全を守ることがその一義です。その立場にある人は、自国の被害者を冒涜するようなコメントをだすべきではありません。

是非、日本人全体が、この問題に向き合い、政府のなす役割と、ジャーナリストや報道活動の大切さについて、意識してもらいたいものです。

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