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世界を疎外してしまう日本特殊論

Japan’s history has been greatly influenced as a result of it being entirely made up of islands. Because of this, it has often escaped war, separated from the mainland by rough seas.

(IBC刊「どうしても英語で伝えたい、日本の事情100」より)

日本の歴史は、この国が島国であるという事実から大きな影響を受けています。大陸から波涛に隔たれ、しばしば戦乱を回避してきたからです。

今、日本を訪れる海外の人の数が増加しています。
ゴールデンルートと呼ばれる東京と京都、大阪の間を行き来する人も、それに伴い、目に見えて増えています。
当然、多くの外国人が日本の歴史に触れる機会も多くなるはずです。
その影響もあり、表題の文章のように、日本をどのように英語で紹介するかという課題と取り組む人も、これからは増加するのではないでしょうか。

日本を説明するときに、気をつけなければならないことがあります。
ついつい、日本人は、日本を海外の国々と比較して特殊な国であるという意識をもって自国の文化や風土、そしてビジネスなどの環境を説明しがちなのです。

この 150年、日本は一つの矛盾を抱え続けてきたようです。
歴史的にみるならば、そもそも島国に生活してきた日本人は、海外とコンタクトをする必要性が希薄でした。
Given that Japan has a mild climate with just enough land to harvest a sufficient amount of food for its people, the Japanese did not see the need to make contact with countries abroad, which meant risking what little it did have to war, invasion and other predicaments. (温暖な気候によって、生活してゆくために充分な食料を収穫できたことから、日本人は、わざわざ戦争や侵略、おこりうる苦難というリスクをおかしてまで、海外とコンタクトをとる必要性を意識していなかった)というわけです。

ところが、産業革命以降の技術革新で、流通が世界規模で活発になり、交通手段も飛躍的に進歩してくると、豊かな「島国」であることを理由に海外との門戸を閉じることが事実上不可能になったのです。
ですから、「島国」のままでいたい日本と、海外との交流によって現代のニーズに対応してゆきたい日本という二つの矛盾した意識が、ペリーによって日本が開国されて以来、我々の中に並存してきたのです。その意識は、日本人個々の心の中に矛盾しながら共存しているのです。
ちょうど pendulum (振り子) のように、時には内向きに、そして時には外向きに人の意識が揺れ動きます。

海外の人とコミュニケーションをして、グローバルな波に苛まれると、日本人は「自分たちは unique (特殊) な文化や歴史があり、あなたがたとは違うのです」と言って、殻の中に閉じこもります。しかし、そんな日本人をみて海外の人は、「どこの国だって unique さ。なぜ日本人は自分たちだけが特殊だって思うんだろう」と怪訝に思います。
逆に、日本の製品や技術は、その特殊な環境故に時には他の追随を許さない進化をとげ、それが世界を席巻します。
元々、島国に育った日本人同士であれば、阿吽の呼吸で「ものづくり」ができるため、他の国々よりも効率的に、かつ完璧に質の高い製品が製造できるのかもしれません。そんなとき、日本人はふるって世界に出てゆこうとします。
「内向き」な殻に閉じこもる日本人と、外に挑んでゆく日本人が、正に一つの個性の中に共存しているのです。

現在は、島国という言い訳は全く通用しない時代です。
そして、自らが望まなくても、海外からどんどん人々がコンタクトし、流入してくる時代です。
だからこそ、日本人は自らの意識の中に、この矛盾した二つの意識が存在していることを冷静に見詰めてゆく必要があります。
例えば、よく「日本には美しい四季があります」という人がいます。でも、海外からみればそれもおかしなコメントです。四季の変化があり、そのうつろいに美学を抱いている人々は、世界のどこにでもいるからです。
つまり、日本人が内向きになり、自分の姿を特殊だと捉え、それを表明した瞬間に、それが海外の人々との誤解や摩擦につながってゆくのだということを、理解しておく必要があるのです。

今日本は、オリンピックに向け、「おもてなし」という発想で海外との交流を盛り上げてゆこうとしています。それ自体は素晴らしい試みです。であればこそ、その発想が、内向きの「日本特殊論」から発信され、相手を疎外しないように注意してゆくべきなのです。
これは、長い間島国としての歴史を歩んできた日本人が、現代にあって直面する課題であり、試練、そして宿命なのかもしれません。

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『どうしても英語で伝えたい日本の事情100』山久瀬洋二どうしても英語で伝えたい日本の事情100
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

日本の成り立ち、憲法から、アラフォー、オタクの生態まで、外国人によく聞かれる100の事象をやさしい英語で説明。

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