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フランスの国民戦線の台頭が撃ち鳴らすEUへの警鐘

【海外ニュース】

France’s far-right National Front (FN) appears to have made big gains in the first round of regional elections, estimates show.
(BBCより)

フランスの極右政党国民戦線が、地方選挙の第一回投票で大きくリードの模様

【ニュース解説】

フランスで同時多発テロが起きて以来、気になる動きがあります。
それは、マリーヌ・ル・ペン Marine Le Pen 率いる国民戦線 National Front という政党が、日本での統一地方選挙にあたる選挙で大躍進をしているという報道が、ヨーロッパ主要メディアのトップニュースで流れているのです。
この選挙はフランスで同時多発テロがおきて以来初の選挙として注目をされています。

フランスは比例代表制と一般投票とを組み合わせる形で、多くの選挙に2度の投票があり、今回はその第一回目となります。次回は13日。あと一週間以内で、現在のフランスの世論がどのように傾いているかが見えてくるのです。

実は、この選挙、日本ではほとんどのメディアが、相変わらず鈍感な対応をしていますが、ドイツやイギリス、イタリアなど多くの国が注目しています。理由はテロのあとの国民の心理を見極めるためだけではないのです。
この政党は、EU の存在こそが、不法移民やテロの温床になるのだとして、フランスの EU 脱退を訴え、現在支持を急速に拡大しているのです。

第二次世界大戦後、ヨーロッパで2度と悲劇を繰り返すまいとフランスのジャン・モネ Jean Monnet の構想に基づいて、時のフランスの外務大臣ロベール・シューマン Robert Schuman が正式に提唱して成立した、「欧州石炭鉄鋼共同体」European Coal and Steel Community が成長し、現在の形になったのが、EU です。
EU の理想を提唱した当事者であるフランスが、EUから脱退するといいだしたら、どのような衝撃がヨーロッパを見舞うでしょうか。

第二次世界大戦は 8000万人以上の死者をだした人類の悲劇です。
そして、戦争が終結した後も、その悲劇が故に、深い憎しみを国際社会に残しました。モネは、そうした憎悪が再び戦争へと繋がらないよう、社会の仕組みを整えようとしたのです。
つまり、戦争に必要な鉄と石炭を最も深刻な不信と憎悪の渦中にあったフランスとドイツ、さらにベネルクス三国やイタリアで共同に管理することで、ヨーロッパ主要地域での交戦が、事実上不可能にしようという発想に基づいた構想だったのです。

当時は、ドイツへの敵意から、そうしたことは不可能で非現実的だということが世論の大半でした。
これを、理想を貫いて実現させたことが、EU へとつながる道筋を造っていったのでした。そしてそれ以来、ヨーロッパの主要地域では戦争がおきておらず、人類の長い歴史の上からみても、記録的な平和と繁栄が続いているのです。

今、テロへの憎悪が、移民への憎悪、そして EU からの脱退という孤立主義へと新たなうねりを生み出し、ヨーロッパ各地へ伝染しています。
それを象徴する今回の選挙に、ショックを受けている人は少なくありません。

フランスの国民戦線は、創設者ジャン・マリー・ルペン Jean Marie Le Pen の時代には、露骨に反ユダヤなどの人種差別発言を繰り返した危険な政党でした。今のその娘のマリーヌ・ル・ペンが党首となり、多少穏健な路線へと方向を転換させながら、巧みに世論の支持を取り込み、政権を狙い始めています。

そして、2012年のフランスの議会選挙では、彼女の姪にあたるマリオン・マレシャル・ルペン Marion Marechal Le Pen が 22歳の大学生でありながら、フランス史上最年少の国会議員として当選を果たしたことでも注目されています。

今、国民戦線は、テロを防止するためのイスラム原理主義者への厳しい法的規制を求め、追い風にのっています。
今回の選挙は、北部の自治体を中心に、結局保守派の「国民運動連合」から名前を変えた共和党 Les Republicans と国民戦線とが多数を獲得するのではないかと予想されています。
共和党の党首は、全大統領のニコラ・サルコジです。

フランスの、そして EU の将来がどのようになってゆくのか。
世の中は 10年もすれば、大きく世論が変わります。
第一次世界大戦が 3000万人以上の犠牲者をだした末に 1918年に終結し、ドイツに当時最も民主的だと評価されたワイマール憲法が成立した時、誰が 20年後にヒトラーのヨーロッパでの暴挙を予想できたかということは、多くの人が主張していることに他なりません。

同時多発テロの後でこそ、こうした過去から学びながら、どのような未来を造ってゆくべきか、冷静な試行錯誤が必要とされているはずです。

一週間後の第二回投票の結果が気になるところです。

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『海外メディアから読み解く世界情勢』山久瀬洋二日英対訳
海外メディアから読み解く世界情勢
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊

海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。

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