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今見直される共和党のあり方とは

Former President Barack Obama said the election results, in which each candidate received more than 70 million votes show the nation remains bitterly sprit.

(オバマ前大統領は、選挙の結果、双方とも7,000万票以上という票数を得たことこそ、厳しく分断されたアメリカを象徴していると語った。)
― CNN より

変質する共和党と保守主義のあり方

 今回の大統領選挙は、アメリカ社会に様々な波紋を投げかけました。
 あるプエルトリコの友人が、長いことプエルトリコがアメリカ自治領のままであることについて、コメントしてくれたことがありました。彼曰く、プエルトリコがアメリカの正式な州になると、上院に2議席割り当てられる。すると、元々プエルトリコ系の人々には民主党系の人が多いために、上院の勢力図が逆転してしまう。だから、共和党がプエルトリコの州への昇格を認めないのだと。
 
 このように、政治には理想とはかけ離れた現実が付きものです。今回の大統領選挙後、多くの共和党議員の対応にもそうした様相がうかがわれてなりません。
 共和党は、別名GOP(Grand Old Party)と呼ばれています。すなわち、共和党はアメリカの伝統的な保守主義をモットーに、労働組合や有色人種の人権団体などを支持母体としてきた民主党と対立しながら、アメリカの二大政党の一翼を担ってきたはずでした。
 
 そもそも保守主義が全て後ろ向きで、古っぽいというわけではありません。共和党はアメリカの伝統的な民主主義のあり方を維持しよう、というスローガンを掲げてきたはずです。民主党と常に対立しながらも、底流にはアメリカがもつ個人の価値観を尊重し、地方の自治を重んずるべきだという思想があります。それ自体は、確かにアメリカの成り立ちをしっかりと見つめようという真摯な考え方であったはずです。
 
 しかし、そんな保守を代弁する共和党のあり方が、この数年で大きく変化してきたのです。トランプ政権による強い求心力の元で、共和党の政治家は自らの利益のために、トランプ大統領の、ともすれば人種差別にも繋がりかねない、極端な主張や政策を受け入れるかどうかで大きく揺れてきたのです。
 

揺らぐアメリカの民主主義と大統領選挙

 選挙の後に、トランプ大統領は敗北宣言をしませんでした。そんなトランプ氏に対して、共和党の一部の議員は賛同し、多くの議員は沈黙を保っています。自分がどういった立場を表明すれば選挙に有利なのかという打算と、本来政治家がもつべき信義との間に揺れているのです。
 
 この状況こそが、今のアメリカが乗り越えなければならない最も深刻な危機なのです。アメリカは、本来4年ごとの選挙によって民意をしっかりと反映させ、それによって大統領や政治家が選ばれるという基本理念を常に堅持してきました。そのことこそが、アメリカが民主主義の旗手であるという自負を裏打ちしてきたのです。ところが、今回トランプ大統領が選挙の結果を認めず、様々なサボタージュを行おうとすると、それを有権者の多くが支持するという前代未聞のことが起きています。まさに民主主義の根幹を揺るがす危機と分断に、アメリカ社会が見舞われているのです。
 
 その時に、本来伝統的な保守主義を標榜する共和党であれば、平和な政権移譲こそが民主主義の基本であるという立場を貫くはずでした。実際に共和党の大統領で唯一存命のブッシュ元大統領は、今のトランプ氏のスタンスに対して批判的です。また、終始共和党の本来あるべき姿を問いかけながら、2年前に他界したジョン・マケイン氏は、自身がオバマ大統領と選挙戦を競った後に敗北を認め、支持者に対してオバマ政権に協力するように呼びかけたことも印象的でした。
 今回、マケイン氏の未亡人であるシンディ・マケイン氏は、夫のスタンスを支持し、共和党支持者にも自制を呼びかけています。今回のように異例な分断が起きている現実に対する危機感のあらわれとも言えましょう。
 
 世界中どこでも同じですが、過去の記憶が希薄化したとき、人はいつか来た道を再び歩み出すとよく言われています。戦争の記憶が風化した日本でも、戦争体験のない人がインターネット上などで、心ない差別や誹謗中傷をくり返します。アメリカでも、過去に体験したベトナム戦争公民権運動の記憶が希薄化し、過去に流された血の痛み、重みを体験していない世代が、大半を占めるようになりました。今回の分断は、そこにコロナでの苛立ち、教育や経済の格差が複雑に絡み、人々の感情を駆り立てています。
 
 しかし、そこで本来の民主主義のあり方をじっくりと問いかけ、アメリカの進むべき道を彼らなりの見解で表明するのが、共和党が常にとってきた道筋だったはずです。そのベクトルが崩れたことが、共和党の中にも分裂を生み、多くの政治家が風見鶏のように沈黙せざるを得ない、いびつな状況を作りだしたのです。
 

生まれる新しい保守、問われる従来の民主主義

 公民権法などを制定し、国民の間での差別撤廃を推進したのは、確かに民主党でした。しかし、共和党はアメリカに現存する最も伝統ある政党で、その原点は奴隷解放を宣言したエイブラハム・リンカーンにまで遡ります。20世紀になって確かに共和党は保守化し、主張が民主党と入れ替わることもありました。
 
 しかし、私の友人が以前、自分が共和党を支持する理由として、共和党は常に個人の権利を大切にしてきた政党だと語っていたことを覚えています。皮肉にも、そのことが銃を保持する権利などの擁護にも繋がり、論争の的になっていることも事実です。しかし、その友人は、共和党政権下で戦争が起きたことは、過去にもまれにしかないんだとも言っていました。湾岸戦争アフガニスタンイランへの侵攻という例外はあったものの、彼の言葉は全くの偽りではないはずです。
 
 今、保守が保守としての基盤と牽引力を失いつつあることが、アメリカにおける白人至上主義などの横行の原因となっていることは否めません。そうした意味でも、これから4年間の共和党の動向を注視してゆかなければならないのは、言うまでもないことです。
 
 ある熱烈なトランプ支持者が、FOXニュースをもう見たくないと言っていたことが印象に残ります。FOXニュースは、民主党系といわれているCNNに批判的なトランプ支持者が選んでいたニュースチャンネルとして知られています。そのFOXニュースが、トランプ大統領が敗北宣言をせず、政権移行に協力的でないことを批判したことが、その原因でした。
 
 今、アメリカは分断だけでなく、本来の保守からも離れた新しい右派勢力が、民主主義そのものへの疑問を投げかけ始めているのです。
 
 アメリカ社会が抱える深い悩みは、バイデン新大統領が相当な努力をしても、治癒できないかもしれません。
 

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『I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)I Have a Dream!』マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (著者)、山久瀬洋二 (翻訳・解説)
生声で聴け!世界を変えたキング牧師のスピーチ(日英対訳)
1955年、バスの白人優先席を譲らなかったという理由で逮捕された男性がいた。この人種差別への抗議運動として知られるモンゴメリー・バス・ボイコット事件を契機に、自由平等を求める公民権運動がにわかに盛り上がりを見せた。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアはこの運動を舵取りし、そのカリスマ的指導力で、アメリカ合衆国における人種的偏見をなくすための運動を導いた人物である。「I have a dream.」のフレーズで有名な彼の演説は、20世紀最高のものであるとの呼び声高い。この演説を彼の肉声で聞き、公民権運動のみならず、現在のアメリカに脈々と受け継がれている彼のスピリット、そして現在のアメリカのビジネスマネジメントの原点を学ぼう。山久瀬洋二による詳細な解説つきで、当時の時代背景、そして現代への歴史の流れ、アメリカ人の歴史観や考え方がよく分かる1冊。

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