「インドではね、英語の能力を査定すると、発話や聞き取りはまあまあだけど、読む力、文法力を査定する点数がどうしても低くなるんです。ネパールの専門家も同じことを言っていました」
英語の能力を査定する iTEP、そして英語での発話力を査定する E-CAT というテストについて、世界各国の関係者が集まった国際会議でのインドの英語教育者の発言です。
「なぜって、インド人もネパールの人も元々発話することには抵抗を感じていないからです。英語も耳で覚え、そのまま口にだして会話に加わることで、どんどん上達しますよ。でもね、文法をわきまえたしっかりした英語力となると別なんです。だから、書く力にも課題が残るんです」
サンパウロからきた人が、それを聞いて発言します。
「ブラジルでも同じかもしれません。多くの人が英語を喋り、コミュニケーションはしっかりとするんですが、文章を書かせてみると文法的なミスのみならず、スペルのミスなどの多い人がほとんどです」
この発言に、コロンビアやサウジアラビアなどの教育者も同意します。
「日本では逆ですよ。iTEP で読む、聞く、話す、書く、文法力の5つを査定すると、彼らの多くが文法力では高得点なんですが、話す力はとなるとひどいもんです。聞く力にも課題が残ります。世界各国とは全く逆の結果かもしれませんね。だから我々は発話力育成のために E-CAT を重視したいんです」
「どうしてなんでしょうね」
インドの教育者が怪訝な顔をします。
「日本はね。今まで英語教育が受験偏重だったからなんです。紙の問題、マークシートの問題を解くことに注力しすぎたために、こうした弊害が生まれたんです。だから、これからは会話力を重視しなければと多くの人が思っていますよ。じゃないとグローバルに活躍する人が育成できないという危機感があるのです」
「なるほど、その現象は中国でも同様です。受験では今でもペーパーが重視されていて、どうしても会話力が追いつきません」
「そうなんですか。意外です。日本からみると、中国の人はどんどん英語でコミュニケーションしているように思えますが」
「それは、あなたと会ったのが海外と関わる仕事をしている人だからでしょう。中国人は、一度言葉を覚えると、どんどん積極的に喋りますからね」
「なるほど。日本人はそこが違うんです。例えば、外資系企業などで仕事をしている人も、結構英会話力となると難ありなのです。むしろ、英語力よりコミュニケーション力に問題があるのかもしれません。受験教育のせいか、間違うことを恐れ、完璧に話そうとするあまり、結局うまく会話ができなくなる。自己主張をすることをよしとしない文化背景も影響しているのか、下手でもいいからどんどん喋ろうという人が少ないんです」
これを受けて、韓国からきた教育者がコメントします。
「韓国でもまだまだコミュニケーション力には課題が残るんです。でもね、韓国で iTEP を販売するのは大変ですよ。なぜって、TOEIC が相当浸透していますからね。しかも、韓国人はテストというと重厚なものを求めるんです。簡単に受けられるというよりも、コンテンツが豊富でがっちりとしたものを求めるんです」
「TOEIC って、日本と韓国ではすごく人気のあるテストだそうですね。でも、その他の国ではあまり知られていません。日本人も韓国人もテスト好きなんでしょうね。だから、一旦受け入れられると、徹底してそのテストの傾向と対策を人々が考え研究するみたい。不思議ですね」
こう語ったのは、フィリピンの英語教師です。
「でも、いざとなると韓国の人は必死で会話をしようとしてきます。私は、セブ島にいて、スカイプで多くの生徒と話をします。韓国、中国、ロシアなどなど。でも、最後まで会話が成り立たないのが日本人なんですよ。ともかく、どう喋ろうかって考えすぎているのか、最後までだんまりってケースが多いんです。他の国の人は、いざとなると開き直って、なにか喋り、そこから緒 (いとぐち) を見つけ、次第に会話が成り立ってゆきます。でも、日本人は、焦ってはいるようですが、じっと黙ってしまうんです」
日本人がなんで英語が喋れないのか。
このテーマはすでに語り尽くされているようにも思えます。
大学受験の方式が変わらない限り、日本人が会話力を重視した英語学習に傾斜することはないとも言われています。わかってはいるけど、現実に大学受験で失敗すればどうしようもないから、まずは読み、訳し、そして文法をしっかりとマスターしなければ仕方ないんですと多くの人は言い訳をします。
しかし、最も課題となるのは、教育現場で常に「型」を教え、例文や模範解答に忠実であることを教えつづけることにあるのではないでしょうか。
仮に、文法にこだわらず、会話重視でいこうと決めたとしても、教育現場が新たな「型」や「模範解答」を押し付けることを続けてゆけば、「正しい受験会話の傾向と対策」などという日本独特のガラパゴス現象がおきるのではと危惧するのです。
会話力、そしてコミュニケーション力を育成するには、無から有を生み出す想像力と創造力を養う教育が必要です。日本人が会話が苦手なのは、模範解答を求めるメンタルな動きが、想像力と創造力をブロックしてしまう、いわゆるメンタルブロックがあるからに他なりません。
文法や読解力をと強調するインドや南米、そして中東の英語教育者の悩みを「贅沢な悩み」と捉えるのは私だけではないはずです。
山久瀬洋二・画
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