「戦争とビジネス」、そして「グーグルとビッグデータ」


Delegations during signing of the Treaty of Versailles

“We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.”

(われわれは、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということは、自明なる真実であることを信じる。)
― アメリカの独立宣言より

パリ講和会議に見る「アメリカの世紀」

 ちょうど100年前の1月18日から、パリで第一次世界大戦後の体制を決定するための講和会議が開催されました。
 会議の名前は、パリ講和会議。日本を含む主要な戦勝国5カ国を中心に、世界大戦に関与した国々が集まり、戦後の世界のあり方について討議したのです。
 
 世界史に興味のある人ならお分かりのように、この会議では当初、敗戦国には賠償金を請求せず、恒久的な和平を実現するために国際連盟を設立することなど、様々な理想が討議される予定でした。
 しかし、実際に締結された講和条約には、敗戦国ドイツに対する高額な賠償金の支払いが盛り込まれ、国際連盟にアメリカ合衆国は参加しませんでした。その結果、経済的に破綻したドイツが国家主義に走り、ヒトラー政権を生み出したことは、多くの人の知るところでしょう。
 
 講和会議では、世界史で初めてアメリカの存在感の大きさが注目されました。20世紀は「アメリカの世紀」と呼ばれています。20世紀初頭に移民による豊富な労働資源と消費パワーに押され、さらに19世紀に開拓した広大な領土と、そこで根付いた産業に押され、アメリカは経済大国へと成長したのです。
 アメリカは世界の金融市場にも大きな影響を与えるようになります。もともとアメリカは、イギリスの経済的束縛から脱却しようと独立した国家です。ヘッドラインで紹介した独立宣言にも書かれているように、アメリカは「幸福を追求すること」を国民の基本的な権利であると、世界に先駆けて保障した国家です。この「幸福を追求する権利」の保障こそが、アメリカ人の資本主義精神の背骨となるのです。言い換えれば、アメリカでは経済活動、資本主義活動は、国民の根本的な価値観に沿った行為であるといえましょう。
 
 さらにいえば、こうした経済的発想こそが、アメリカ人のいう「business」という感覚なのです。例えば、日本人は露骨にお金の話をすることを伝統的に忌避する傾向があります。ですから、「business」感覚をむき出しにせず、商業活動においても物事を婉曲に進めることを求めがちです。しかし、20世紀になって、そうした「business」的な風土を持つアメリカが世界経済に大きな影響を与えだすと、人々は以前よりも資本主義を信奉し始めるのです。
 

John Trumbull: Declaration of Independence

資本主義が推進する「戦争」という名の「ビジネス」

 第一次世界大戦は、そんな経済的な論理の影響を強く受けた、最初の戦争といっても過言ではありません。アメリカの金融界は戦争に対して投資を行い、その投資した資金の回収を強引に進めます。特にイギリスやフランスへの投資が無駄にならないようにと、アメリカは経済界の圧力の下、伝統的な孤立主義を打ち破って自らもヨーロッパ戦線に参戦します。そして、戦争が終わると、敗戦国からの賠償金の取り立てによって投資の回収を急ぎます。当時のアメリカのウィルソン大統領が提唱した理想主義も、金融界のそうした動きの中で封じ込められてしまうのです。
 
 それ以降、「戦争はビジネス」という一つの常識が生まれました。戦争は国家による巨大な消費行動です。武器のみならず、ありとあらゆる産業が戦争に動員されます。このことが、金融業界や資本家を益々豊かにしてゆきます。
 戦争は、必ずしも有利に展開するとは限りません。しかし、仮に味方が不利であったとしても、生産活動やそれに対する投資には追い風になるかもしれないのです。ある時期まで、ヘンリー・フォードをはじめとしたアメリカの経営者の多くが、ヒトラーを支持していたことは有名な話です。彼らの心の中によぎったのは、こうした資本主義の理念が、ソ連によって打ち砕かれることへの恐怖でした。ドイツに共産主義の浸透を阻止する壁となって欲しかったのです。同時に、独裁国家によって急成長を遂げるドイツの軍備、そして経済への投資にも興味があった彼らにとって、ヒトラーを支持することは、一石二鳥の効果があったのです。
 
 その後、ヒトラーの政策が過激になり常軌を逸してくると、彼らの態度も一変します。しかし、この「戦争とビジネス」との関係は、第一次世界大戦以後、現在に至るまで継続しているのです。ベトナム戦争はアメリカに苦い教訓を与えました。しかし、当初ベトナム戦争に消極的であったケネディ大統領を押し切って、泥沼の内戦への介入を強く求めたのは、アメリカの経済界だったのです。中東でも同様のことがおこります。「戦争とビジネス」、それは今もなお切っても切れない、人間の欲望の追求のテーマとなっているのです。
 
 もちろん、こうした発想にブレーキをかけようと、人々が良心に訴えてきたことは事実です。しかし、戦争とビジネスとの相乗作用によって世界がより便利になり、軍事技術が通常の産業に転用され、人々の「幸福を追求する権利」への甘い蜜となったとき、我々はともすれば妥協をして、そうした繁栄を享受しようとしがちです。
 
 21世紀に入り、「戦争とビジネス」との関係は新たな段階へと「進化」しました。それは、サイバーセキュリティという新たなビジネスが、戦争やそれを遂行する国家運営と手を組んだことです。
 世論を操作するために、グーグルなどによるデータが、国家のニーズに沿って活用されつつあることも懸念材料です。個人の様々な消費行動や趣味趣向がビッグデータに集積され、それが世論操作へ活用されようとしています。選挙はいまや、ネットビジネスにおける巨大な市場の一つです。民主主義を操るツールとしてSNSやAI、さらにビッグデータが活用されていることは周知のことです。しかし、それが第一次世界大戦以降の「戦争とビジネス」との婚姻関係が進化し、モンスター化した結果であることに気づいている人は少ないかもしれません。
 

2019年、「戦争とビジネス」はどこへ向かうのか

 18世紀から19世紀にかけて、人々はアメリカでの綿花の生産を支えるために、進んで奴隷貿易に投資しました。奴隷を捕獲し輸出したのは、アメリカの資本家だけではありません。それによって利益を享受した、イギリスやオランダも奴隷貿易の恩恵にあずかったのです。そのモラルが問われたとき、人々はさらに巧妙に民主主義やグローバリズムの衣を被りながら、「戦争とビジネス」との婚姻を進めました。そして現在、その婚姻関係の蜜月を享受しようと、新たなツールであるインターネットやAI技術に目をつけているのです。
 
 ビジネスは、人々に幸福と不幸を同時にもたらす諸刃の剣であることを、我々は今まで以上に知っておく必要があるわけです。
 パリ講和会議からちょうど100年経つ今、我々は改めて「戦争とビジネス」との関係に注視するべきなのです。
 

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『The Mark Zuckerberg Story (Facebookを創った男: ザッカーバーグ・ストーリー)
』トム・クリスティアン(著)The Mark Zuckerberg Story (Facebookを創った男: ザッカーバーグ・ストーリー)』トム・クリスティアン(著)

世界を席巻する巨大メディアFacebook創始者マーク・ザッカーバーグ。最新の話題をシンプルな英語で読む!ビジネスシーンで使えるボキャブラリーも満載。
利用者が全世界で増え続ける交流サイト最大手”Facebook”のアイデアは、米ハーバード大学の寮の一室からはじまった。2004年のことだ。その部屋に住む男子学生の名前は、マーク・ザッカーバーグ。数年で巨大メディアを生み出すことなど想像もしない19歳の学生だ。その若き実業家ザッカーバーグの大学時代の活動から、最新の超大型企業買収までを平易な英語で綴る。

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