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アフガニスタン撤収での日本の実態が語ること

U.S. Carries out drone strike in Kabul, as airlift of Afghans Ends.

(アメリカは空輸撤収作業の最終段階にあたって、ドローンでカブール市内〔テログループの拠点〕を攻撃)
― NY Times より

日本の政府とメディアが示すリーダーシップの欠如

 この記事がリリースされるときが、アメリカ軍のアフガニスタンからの撤退期限当日になります。
 アフガニスタンでの撤収作戦の最中に起こった爆弾テロで、多数の死傷者が出たことは世界に衝撃を与えています。
 それを受けて、アフガニスタンで各国が動きを見せる中で、日本の撤収の立ち遅れが厳しく指摘されています。G7緊急首脳会議に出席してアフガニスタン問題を協議したにもかかわらず、日本としての積極的な立ち位置を示すこともできず、難民受け入れにも消極的な上に、撤収作戦にまで出遅れてしまったことは、情けない限りです。
 外交関係者の退避は事前に完了していると言われてはいますが、もしかすると、日本のために様々な場所で働いてきたアフガニスタン人の多くが、取り残されてしまうかもしれません。これは国の信用にかかわる問題です。
 
 ペンタゴン(アメリカ国防総省)では、連日記者会見が開かれています。
 その記者会見にはアメリカのメディアのみならず、世界各地の記者も参加し、積極的に担当官に質問を浴びせています。ペンタゴンでは、シビリアンと武官の双方が入れ替わって、そうした質問に答えています。
 その中で、韓国人記者の片言な英語での数回にわたる質問に対しても、担当者はしっかりと回答し、韓国がアフガニスタンでの現地人の関係者も含む迅速な撤収を行なったことを踏まえ、今回の協力についても感謝の意を示していました。
 問題は、日本のメディアの顔もちらほら見えるのですが、私の知る限り誰も一言も質問をせず、担当官と他の記者とのやりとりの録音に終始していることです。
 こうした場面で質問の意思を示さないということは、国際社会においてはその場に参加していないと受け取られてしまうことを知っているのでしょうか。
 
 日本政府の状況とメディアの状況とが重なり合い、日本の対応のまずさが正確に国内に伝えられていないことが気になります。
 政府にしろ、メディアなどの組織にしろ、何か事が起こると国内法や憲法の制約などを言い訳にしていますが、今手元にある材料をどう柔軟に有効的かつ臨機応変に使って物事を解決するかという、リーダーシップに欠けているのです。
 結果として、アメリカが再三にわたって警告していたテロの可能性と撤収期限に関する通告があったにもかかわらず、撤収が遅れ、日本が国際協力の輪の外に取り残されているかのように見えることは悲しい現実です。
 

アフガニスタン情勢を動かすタリバン、IS、そして中国

 そもそも、ISIS-Kの存在について、我々はもっと知識を持たなければなりません。
 ISIS-Kとは、イスラム教過激派組織ISのアフガン支部組織のことで、Kとはササン朝ペルシャ帝国(西暦226年−651年)の頃にKhorasan(ホラーサーン)と呼ばれた地域、つまり現在のアフガニスタンとその周辺地域を指しています。
 重要なことは、彼らはタリバンと対立する過激派組織であるということです。我々はイスラム教を一つの宗教であると、ついつい誤解してしまいます。キリスト教にカトリックやプロテスタントなどの様々な分派があるように、イスラム教にもいくつもの宗派があり、各派の中にも原理主義者から現代社会に溶け込んだ一般市民まで、様々な人がいるわけです。
 
 ISIS-Kはアメリカも当初からマークして警戒していた組織です。彼らが自爆テロなどのゲリラ活動によって、アメリカを中心としたカブールからの撤収作戦を妨害する理由は二つあります。
 一つは彼らの宿敵アメリカへの報復。そして、もう一つはタリバンへの嫌がらせに他なりません。
 タリバンはアメリカの撤収に協力しているわけですから、そこにくさびを打つことで、タリバンの状況を不利にする狙いがあるわけです。
 
 ただ、このことは今回のアフガニスタン情勢を巨視的に見る上で重要です。それは、中国が最も嫌うウイグル人による反政府活動の糸を引いている組織の一つが、ISに他ならないからです。
 ウイグル人を抑圧していることで世界から非難されている中国にとって、今回の爆弾テロはタリバンとの関係改善に向けた絶好の口実となりそうです。中国にとってライバルのアメリカの敵であるタリバンは、敵の敵という関係、すなわち「敵の敵は味方」という位置付けになってもおかしくありません。
 ただ、前回の記事で解説したように、中国は元々アルカイダなどとも共闘していたタリバンと手が組めるのか、という課題に悩まされてもいました。また、タリバンから見れば、今後アフガンを支配してゆく中で、国際社会のサポートを求めざるを得ない事情もあったはずです。この両者の思惑と矛盾のパズルが、二つの敵、つまりアメリカとISというまったく異なる二者の存在を利用することで解ける「糸口」となったことは否めません。
 
 アメリカのバイデン政権は今回のテロ行為に素早く対応し、ドローンでISIS-Kの拠点を攻撃し、アフガニスタン政策の瑕疵に対する世論の批判をかわそうとしています。しかし、今回の攻撃によって現地の爆発物にも引火し、子どもを含む民間人の死傷者が出たことも報道され、事態は混沌としそうです。
 おそらく、アメリカ政府はタリバンがカブールを制圧する前に、すでにISIS-Kについてかなりの情報を得ていたはずです。アメリカ政府は以前から、撤収時のテロの可能性にも触れて警戒をしていました。
 
 8月31日を過ぎてアメリカ軍が撤退すれば、あとはアメリカの言う「地平線の向こうからの作戦」によって、アメリカはアフガニスタン国内にある過激派組織に対して、海外の基地から無線誘導による攻撃を続けるかもしれません。
 さらに、タリバンはある意味で政治組織ではなく、民兵の集まった軍事組織です。ですから、タリバンの一部の兵士の誤った暴走が、カブールなどでの思わぬ治安問題や外交問題を引き起こしかねません。タリバンはすでに自らの兵士が統率されておらず、間違いがあってはいけないので女性は外出を控えるように、という声明まで発表しています。こうした発表の真意すら実はわからない状態です。
 現在のアフガニスタンは、従来の政権のもとで運営されていた行政サービスが継続する中で、タリバンに占領されているという不安定な状態が続いています。タリバンに、統治というプロフェッショナルなノウハウがうまく移譲できるか、世界中が注目しているのです。
 

国際社会で期待されない日本の悲しい現実

 こうした状況であればこそ、今回の日本のお粗末で消極的な対応に失望した国際社会のことを考えなければなりません。「そもそも期待なんかされていなかったよ」と言う人もいるかもしれません。しかし、そんな薄れている期待がさらに希薄になることによる、国としての利益喪失を考えなければならないのです。
 
 こうしたことの原因は、なんといっても日本のネットワークとリーダーシップ、双方の欠如にあります。アメリカのみならず、世界の主要国はタリバンと緊張関係にはありますが、ネットワークは維持しているのです。民間と公の双方での協力関係もあります。おそらく、日本にも民間にはそうしたネットワークや知識を持つ人がいるはずですが、常に官僚の厚い壁に阻まれ、彼らの言動は軽視されます。
 これはアフガニスタンのような紛争地域だけではありません。今回のペンタゴンでの記者会見の模様からも推察できるように、日本の人的なネットワーク力の欠如による情報収集や情報交換の課題は、我々が思っている以上に深刻なのです。
 

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『日本語ナビで読む洋書 What is Global Leadership?』山久瀬 洋二(ナビゲーター)/アーネスト・ガンドリング、テリー・ホーガン、カレン・チヴィトヴィッチ(原著者)日本語ナビで読む洋書 What is Global Leadership?
山久瀬 洋二(ナビゲーター)/アーネスト・ガンドリング、テリー・ホーガン、カレン・チヴィトヴィッチ(原著者)
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