対韓輸出規制が批判される本当の理由とは


Photographer: Kim Kyung-Hoon/Pool

“A trade dispute rooted in WWII history is heating up between Japan and South Korea. From today, Tokyo is restricting exports of equipment needed to make semiconductors and computer displays. The move is intended to hurt South Korea’s hightech industry.”

(日韓の第二次世界大戦の歴史問題が過熱し、貿易論争の原因に。東京は半導体やコンピュータディスプレイに必要な製品の輸出規制を。これは、韓国のハイテク産業への痛手を意図したものだ)
― DW Newsより

関係が冷え込む日韓に共通のコミュニケーション文化

 日本と韓国との関係が冷え切っています。
 そもそもこの二つの国は、距離を取って観察すると、極めて似た文化やコミュニケーションスタイルを持っています。
 よく韓国のコミュニケーション文化は、日本のより感情に訴えて激しいものがあるといわれますが、感情移入や物の言い方といった表層面をとやかく言っても始まりません。ここで解説したいのは、ロジックの作り方の問題です。

 
 今回、輸出規制を発動した後になって、日本政府は慌てて規制は韓国での徴用工問題慰安婦問題とは関係なく、純粋な貿易管理の問題に起因するものであると発表しました。確かに、それはその通りかもしれません。しかし、そうした日本側の説明も甲斐なく、韓国では日本製品の不買運動が起こるなど、状況は楽観を許せません。また韓国は韓国で、貿易問題においては福島県などの水産物への輸入規制をいまだに続けています。
 
 第三国からこうした状況を見ると、日本も韓国も共にお互いをターゲットにしたハラスメントを繰り返しているように見えてくるのは残念なことです。
 そこに見えるのは、「団子型コミュニケーション」という、日韓に共通したアジア独特のものの言い方や対応方法です。
 つまり、様々な事象を一緒に団子にして相手にぶつけ、その応酬によって双方が負のスパイラルを導いてしまうのです。
 
 この「団子型コミュニケーション」というのは、我々日本人、そして韓国や中国などの人々がともすれば陥りがちな癖ともいえます。
 そこには、極東を中心としたアジアに共通した発想法が潜んでいます。専門家はこの発想法に基づくコミュニケーション文化を「Polychronic(複合的)なアプローチ」と呼んでいます。それは、様々な背景を一緒にして、一つのテーブルで論じようとする文化です。
 安倍首相が今回の半導体材料の輸出規制を発表したときの発言が、その典型です。
 「国と国とが約束を守らないことが明確になった。貿易管理でも恐らくきちんと守れないと思うのは当然だ」というこの発言で、安倍首相は元徴用工への賠償問題を念頭に、韓国が日本との国同士の約束を守らないことを批判したのです。
 このロジックがPolychronicなのです。つまり、二つの課題を団子にして、過去の事例や背景を元に相手を批判した上で、輸出規制の問題をコメントしたことが、海外での誤解の原因になったのです。なぜでしょうか。
 

日本の外交が苦しむ欧米社会とのロジックの違い

 欧米の人々のコミュニケーションの方法は「Monochronic(単色型)」であるといわれます。彼らは、課題を一つ一つに分け、混ぜることなく別々に処理して交渉するアプローチをとるのです。
 ですから、何か規制について発動するときは、決してその他の理由には触れず、規制そのものの理由を明快に解説します。しかも、発動の前には問題を指摘し、事前に警告などを行い、交渉を示唆した上で相手の動向に対応しながら規制を発動します。
 例えば、アメリカと中国との間には様々な政治課題がありますが、中国への関税の引き上げ措置についてアメリカが言及したときは、その問題のみに終始し、中国との軍事的緊張など、その他の課題には触れません。「それはそれ、これはこれ」というアプローチが徹底しているのです。
 
 日本の場合、確かに輸出規制については、安倍首相の発言の後に世耕経済産業大臣が、これは安全保障に関わる韓国側の貿易管理の問題が原因と発言し、純粋に貿易の問題で、他の事柄とは関係ないかのように説明はしたものの、それはすでに安倍首相の発言に海外メディアが反応した後のことでした。
 仮に世耕発言に正当性があったとしても、規制の発動があまりにも突然で、かつ安倍首相の「信頼問題」発言と絡んでしまったことは、日本のイメージを大きく毀損する原因となったのです。日本側の真意や「本当の理由」、さらに日本の言う「正当性」が海外に届くことなく、ただ「嫌がらせ」をしている国なのではという誤解を与えてしまったわけです。
 
 そもそも、段取りが悪すぎます。
 政府は、海外にもしっかりと説明をしていると言ってはいるものの、メディアや国民などへの情報開示が充分でなく、あまりにも閉鎖的です。だからこそ、事前の警告や問題提起はもとより、それまでの慰安婦問題や徴用工問題、さらには海上自衛隊の航空機へのレーザー照射問題など複数の課題が解決していない中、今回の唐突な規制の発表は、大人の国としての対応から見れば稚拙なやり方だと映るのです。
 
 では、韓国側の反応はどうでしょう。
 これもまたPolychronicな対応と言えましょう。政府も国民も、日本との複合的な課題を一緒にもつれた糸のままで捉え、感情的に対応しています。ただ、彼らに有利なのは、常に韓国が被害者の立場で叫び続けていることです。アメリカの世論などは、日本と韓国双方のPolychronicなアプローチに戸惑いながらも、結局日本が第二次世界大戦とそれ以前に韓国に与えたダメージを謝罪していないからだと思っています。双方ともPolychronicであれば、声を大きく感情に訴えた方が届きやすいのかもしれません。
 
 こうした日本側の意図がうまく伝わらない事例は、日韓問題だけではありません。例えば、日米安保条約で日本側が大きな経済負担を負いながらも、日本はタダ乗りをしていると多くの人が考えていることも、こうした日本の情報伝達における技術不足の結果なのです。
 明快な説明や、欧米の人が物事を受け取り理解するロジックに沿ったアプローチができない日本が常に貧乏くじを引いてしまうのは、日本の外交力の脆弱さによるものだと批判されても仕方がないのかもしれません。
 

問題提起に必要なのは、Monochronicなアプローチだ

 Monochronicなコミュニケーションスタイルを持つ欧米社会にものを言うときは、最初の発言が最も大切です。
 最初に、今発言すべき問題を明快に提起し、その理由を絞り込んでしっかりと話すことができない限り、どんなに教養のある英語で語ったとしても、同じ誤解のプロセスに日本は常に苛まれることになるはずです。
 

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『日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)日本人が誤解される100の言動: 国際交流やビジネスで日本を再生するためのヒント』山久瀬洋二 (著者)、ジェイク・ロナルドソン (訳者)
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