今や世界最貧国となった日本人の英語能力という「貯金」


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“English language rank is low again. Japan’s English language proficiency is falling behind China’s owing to an education system that doesn’t prioritize real life communication skill, according to a survey that comes days after a political row over the issue erupted in Tokyo.”

(統計によれば日本人の英語能力は、東京での政治問題となりながらも、実際の生活の場でのコミュニケーション力を重視しない教育制度のせいで中国よりも低下し続けている。)
― Wall Street Journal より

情報共有を阻害する日本の「プロトコール」

 この記事は、今年にスイスで世界をネットワークし、2300万人を対象にオンラインで実施された英語能力ランキング調査の結果、中国での英語力は伸長しているのに対し、日本はそのレベルが4年連続で低下し、アルバニアやベトナムにも追い抜かれ、世界でも極めて低いレベルになっているというショッキングな報道の一部です。
 
 日本人とのビジネスコミュニケーションは、他の国々と比較しても困難が多いと、海外でよく指摘されます。
 その理由は、何と言っても《情報共有ができない》ことだと彼らは語ります。実は、日本側は日本側でしっかりと情報を共有しているつもりなのです。しかし、日本人同士では理解できているプロトコールが、海外の人々には伝わっていないことが多いのです。
 
 例えば、「会議」という言葉があります。これを訳せば meeting でしょうか。規模の大きな会合であれば、conference と訳すこともあるでしょう。
 しかし、meeting で海外の人が期待するのは、議論をし、アイディアを出しあって、そこから何らかのアクションプランやソリューションを導き出すことです。この行為は、日本では「打ち合わせ」です。そして、打ち合わせから会議に至って決済するまで、日本では日本人にしかわからないプロセスがたくさんあります。
 
 ですから、海外で打ち合わせをしてきても、それがそのまま日本で全てが承認されたことにはなりません。しかも、この日本でのプロセスのメカニズムは、日本の内部でしか共有されていないことが多いのです。「ミーティング」という簡単な言葉一つとっても、このように文化の違いによる期待感や常識の相違があるのです。
 

「ミーティング」に見る日本のコミュニケーション文化

 そもそも、日本の組織での「ミーティング」は、すでに根回しされたことを確認するために開催されることが多く、その場での発言もそれほど多くはありません。
 では、根回しのタイミングはと言うと、これは海外の人にとって極めて予測困難です。日本ならではの「場」に対する感覚や、「間」、さらに「空気」があるからです。「空気を読む」などと言えば、日本人同士ならまだしも、海外の人から見れば至難の技です。
 
 しかも、「場」について言うならば、それは常に変化します。
 例えば、オフラインで打ち合わせをしようと思っていても、そこへ予想に反して上司がやって来れば、上司の立場や顔を立てて、情報共有が曖昧になるかもしれません。そんな微妙な空気を読めずに思っていることをはっきりと表明すれば、かえって前に進むものも進まなくなるかもしれないのです。
 このような複雑なプロトコールが存在するがゆえに、日本人とのコミュニケーションはやっかいだと感じる外国の人が多いのです。
 
 しかし、これは日本にとっては大きなリスクです。
 相手側に日本のこうしたコミュニケーション文化が伝達され、理解されていない以上、日本内部での状況が見えないままに、相手側は日本側が積極的ではないと判断したり、信頼関係が持てないと誤解したりすることで、逸失利益につながるケースが多いからです。
 
 このコミュニケーションギャップを是正する方法は、まず相手のビジネス文化に対する理解を促進すること。そして、学校レベルで子供の頃から、コミュニケーションができる英語力の育成を行い、社会科教育などと英語教育とを連携させ、世界に通用する発信力を持った人材を育成しなければなりません。
 

グローバル社会から置き去りにされる日本の未来

 であればこそ、今日本で英語教育の変革が叫ばれているわけです。
 グローバルなニーズに応えられる人材を育成できなければ、日本の将来はないというのがその背景にあるわけです。
 しかし、残念なことに、従来の文法と読解中心の英語教育から、コミュニケーションできる人材育成のための英語教育へと大きく舵を切らなければならないと言われて、既に何年もの月日が経過しているのも事実です。
 要は、大学入試制度を変革しなければ、何も前に進まないということが、全ての変革のスピードを遅くしているのです。
 そして、最近になって、外部試験の導入は受験生にとって不公平であるために、それを延期すると文科省が発表したのです。
 
 世界からコミュニケーションが困難だと指摘される日本の中で、やはり根回しや「場」や「間」の感覚に翻弄され、英語教育改革のアクションプランもソリューションも明快に打ち出せないでいるわけです。
 そもそも大学受験での外部試験導入の可否のみに全ての議論が集約され、肝心な世界に通用する人材を育成するための4技能(聞く、書く、読む、話すといった4つの英語能力)の育成、というテーマ自体までもが置き去りにされています。
 そして、外部試験の導入にまつわる愚かな失言や、行政と政治との癒着に批判が集中し、政治家のあくなき政争と無能な官僚の対応に、肝心な若い人材が犠牲になっています。
 
 一方、大学側にも問題が山積みです。大学自体が、大学の自治を忘れ、横並びに外部試験の導入の可否を文科省に預けている様子も奇妙なものです。
 大学がそれぞれ、自らの大学がどのような人材を育てたいのかという独自の指針を出し、それぞれの個性をもって受験制度を考えようという意識が希薄なのです。
 
 こうした行政と教育界での混乱に、海外とのコミュニケーションの課題で最も苦しんでいる実業界も翻弄されています。
 実業界で言うならば、新卒を採用することを基本方針とする業界のあり方も、若者が海外で経験を積む機会を摘み取っているのです。
 新卒採用の風習は、高度成長期の終身雇用の常識から一歩も出ておらず、ダイナミックに変化するグローバル経済の現状から見れば、余りにも型にはまり錆びついた制度といえましょう。しかも、その制度がゆえに、大学入試と入社試験とが一本の糸でつながり、学生は大学に入っても世界情勢や海外の多様な文化に触れる時間と機会を短くしています。
 
 英語教育改革の遅延は、そのまま日本という国の未来への対応の遅延という国家的損失に直結します。
 この課題にかかわっている人の多くが、自分の世代での状況にこだわり、それに固執、維持しようとして、未来の人材への配慮を怠っている実情には、悲しいものがあるのです。
 

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